「#ショウヘイチャレンジ」大谷選手の名前をもらった“引っ込み思案”なアムールトラ 展示場デビューへ「あと1歩!」
大きな体、鋭い牙を光らせ、展示場の出入り口から辺りを見回すオスのアムールトラ、その名は「ショウヘイ」。ネコ科猛獣最大の堂々たる立ち姿はさすが!…なのですが、何だか微妙に“困り顔”。「出ておいで」と誘うため絶妙に届きにくい場所に置かれたエサを前脚でたぐり寄せ、咥えると引っ込んでモグモグ。食べ終えるともう姿を見せないのです。繁殖のため東京から神戸の動物園へ移動して半年。展示場へ出る練習は開園時間内に行われており、いつしか来園者によるSNSで「#ショウヘイチャレンジ」が日々報告されるように。寝室でくつろぐ姿は公式情報でよく発信されるものの、外になかなか出られないのはなぜなのでしょう。彼の性格?トラの性質?
アムールトラは野生の生息数約600頭という希少亜種。国際的な種管理計画のもと世界中の動物園で繁殖の取り組みが進められており、同園ではドイツの動物園から来園したメスのレーニャ(5歳)を飼育。そのお相手として2021年11月にやってきたのが、東京・多摩動物公園生まれ、3歳のショウヘイです。名前はもちろん、大リーグで大活躍中の大谷翔平選手にあやかったものです。
神戸市立王子動物園の獣医師で飼育展示係長の谷口さんに聞きました。
-来園から半年です
「人工哺育で育ったためか『人馴れ』しており、来園時はすぐに寝室の環境やエサにも慣れてくれました。エサは1日に馬肉7キロと、鶏がら・手羽先を合わせて1キロ食べています。週に1度、羽根をむしった状態の丸鶏2羽を食べています」
-外の展示場に出る練習中とのこと
「ショウヘイが寝室に慣れてから約3週間後、展示場に出る練習を始めようと扉を開放しました。すぐに外に出てくれたのですが、生まれ育ったところと様子が違ったためかパニックのようになってしまって。5~6分で寝室に戻ってしまい、それ以降、展示場に出なくなりました。今は、寝室から展示場に通じる扉を開けたすぐ外側にエサを置き、『寝室から出るための練習』をしていますが、後ろ脚は寝室側に残して精いっぱい伸ばし、体はできるだけ出さないようにしてエサを取ろうと頑張っています」
-外に出ないことで困ることは?
「日光浴不足や運動不足が心配です。お客様にもご覧いただけず、レーニャとの同居にも取り組めませんが、ショウヘイの無理のない範囲で少しずつ外に出てくれたらと思います」
-人工哺育の個体ゆえ気を付けていることは?
「人に馴れすぎてトラ同士のコミュニケーションに支障が出ないよう、『名前を呼ばないように』と聞いていたので、あまり呼ばないようにしています。ショウヘイに限らずトラは神経質なので、他の作業をしている時でも、不注意で驚かせたりすることがないよう心がけています」
-ショウヘイの性格は? 人間だと何歳くらいですか
「甘えたがりで用心深いと思います。アムールトラは3~4歳で性成熟し、寿命はおよそ15~20年程度です。現在3歳のショウヘイは人間で言う青年期。体はメスのレーニャよりひと回り大きいです」
そのレーニャも来園時、展示場に出るまで時間がかかりました。隣のメスライオンへの警戒感が強かったため、両者の間に「目隠しの板を張る」という方法で克服。その前に飼育していたメスも来園後しばらく外に出られず、最終的には、健康診断時の麻酔から覚める前に展示場に寝かせておくという、ちょっとした荒療治で結果うまくいきました。
ショウヘイにとって、乗り越えられない壁は何なのでしょう。「『展示場に後ろ脚まで出る』という壁さえ乗り越えられれば、屋外でゆっくり過ごしたり、レーニャとの繁殖に取り組んだり、前に進んでいけると思います」と谷口さん。また、トラは野生動物のなかでもとりわけ用心深いとされており、テリトリーへの執着が強い動物だと言います。「展示場に出られないのは、そのような性質も影響していると思われます。外に出る練習中に驚かされたり、長時間見られたりしてストレスを受けることがないよう、どうか優しく見守ってください」
(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)