被災地の愛護センターにいた人間を知らない猫を迎えて 連夜の夜泣き、先住猫の反発…それでも「ただ居てくれるだけで」
■震災後、殺処分寸前だった猫
ひまわりちゃん(7歳・メス)は、熊本県の動物愛護センターに収容されていた。当時、熊本県は大震災の後で、センターはたくさんの犬や猫であふれ返っていたという。ひまわりちゃんは全く人慣れしておらず、攻撃性もあったので、殺処分される可能性が高かった。熊本県のある保護団体は、まだ里親も決まっていなかったが、ひまわりちゃんともう1匹の猫を引き出し、里親か預かりボランティアを募集した。
大阪府に住む智さんは、塩田妙玄さんという人のブログを読んで、ひまわりちゃんのことを知った。智さんは、2014年11月に愛犬の麦太くんを亡くした。仕事から帰ってきたら亡くなっていた。あまりに突然のことで、智さんはなかなか気持ちの整理ができなかった。その時に読んだ本が、塩田妙玄さんが書いた「ペットがあなたを選んだ理由」で、その縁でブログも読むようになったという。
その後、智さんは自分で保護した猫、豆虎ちゃんを飼った。2匹目の猫だった。
「ちょうど落ち着いてきた頃で、行き場のない子たちのために何かできることはないかと思い、里親になることを考え始めたんです。子猫が欲しかったわけではなく、できたら譲渡が難しい子を引き取りたいと思っていました。大人の猫やハンディのあるねこ、そんな子を探していたんです。そして、塩田さんのブログに掲載されていたひまわりを見つけました」
智さんは、意を決してひまわりちゃんの里親になることにした。
「成猫で人慣れ修行が必要だということでした。でも、慣れていなくても、触れなくても、うちには触れる猫が2匹いるからいいんじゃないかと思いました」
■先住猫、豆虎ちゃんが激怒
2016年9月25日、智さんはひまわりちゃんを迎えた。噛んだり手を出したりするわけではないが、怖がってシャーシャーと威嚇した。智さんは、ケージの中でよしよしと撫でたり、声をかけたりした。
ただ、人慣れしていない子と暮らすのは初めてで、戸惑うこともあったという。
「一つは夜鳴きです。すごく高い声でよく鳴きました。2、3ヶ月続いて、ケージから出してフリーにしてからもしばらく続きました。寝不足で辛かったことを覚えています。もう一つは先住猫の豆虎がひまわりに怒りを爆発させたことです。豆虎は人にはゴロスリするし、先住猫のよつばともうまくやっていたんです。仲良くなれると思っていたのですが、ひまわりのケージの外から猫パンチを繰り出し、昼夜を問わず攻め立てました」
ひまわりちゃんをケージからキャリーに移して日向ぼっこさせていても、豆虎ちゃんはキャリーの上に乗っかってパンチした。
「いつ諦めるのか。なかなか辛い時期でした。でも、時間はかかりましたが、豆虎も気が済んだようで何もしなくなり、ひまわりをフリーにすることができました」
■少しの変化も喜びに
冬になるとひまわりちゃんは、初めてこたつに入った。とても気に入ったようで、ごはんの時とトイレの時以外はずっと入っていた。
「こたつで伸び伸び寝ている姿を見ているだけで嬉しくなりました。うちに来てくれて、本当に良かったと思いました」
ひまわりちゃんを迎えて、智さんは、「別にゴロスリじゃなくてもいいやん」という気持ちになったという。
「ゴロスリして甘える子は可愛いけど、甘えてこなくても触れなくても別にいいと思うようになりました。手からごはんを食べてくれたとか、ヨシヨシしていたらお尻をプリンとしてくれたとか、抱っこできる時間が長くなってきたとか、ほんの少しの変化なのですが、とても嬉しく思いました」
智さんにとってひまわりちゃんは、ただ家にいてくれたらいい存在なんだという。
「いっぱいごはんを食べて、ゆっくり寝て、快適に暮らしてくれたらいいと思っています」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)