外国人観光客受け入れ「マスク着用は?」「インバウンド回復は?」 豊田真由子が入国規制緩和を解説

今月から、外国人観光客受け入れのための入国規制の緩和が行われます。観光業や地域経済の回復にとって大事な一歩だと思います。感染状況の変化に留意し、国内の不安にきちんと応えながら、平常化を目指していくことが求められます。

<入国規制緩和の内容>

・6月1日から1日の入国者総数の上限を2万人に引き上げ、ウイルスの流入リスクが低いと考えられる国(98か国)については、入国時検査や入国後待機を不要とする。

・6月10日から添乗員付きのパッケージツアーでの観光客受け入れを再開する。

円安で訪日需要は高まっており、5月24日に発表された世界経済フォーラムの観光の魅力度ランキング調査では、日本は、治安の良さや清潔さ等が評価され、No.1になっています。

■入国規制緩和について

今回の入国規制緩和に関し、私は以下のような点が気になっています。国内の不安にきちんと応えながら、エビデンスに基づき、今後も段階的に緩和していく必要があると思います。

① 訪日外国人に、日本のマスク着用ルール等に、きちんと従ってもらえるか。

② 「添乗員付き団体ツアー」に限定しているが、本来、訪日の8割は個人旅行

③ 1日当たりの上限を2万人としているが、コロナ前は平均約8.7万人

④ 訪日外国人の7割を占める東アジア(中国、韓国、台湾、香港)からの訪日は、各国の事情としてまだ厳しい。

① 日本のマスク着用ルール等

屋内でのマスク着用等の現在の日本のルールは、訪日外国人であっても守っていただく必要があります。ただ、法令で規定されたものではないため、お願いはするが法的に強制はできない、ということになります。(これは、日本人についても同じです。なお、民間企業として「マスクを着用していない場合は、入店を断る」というような対応を取ることは可能です。)世界では、マスク着用などのコロナ関連の規制の撤廃・大幅緩和する国も増えており、果たしてきちんと守ってもらえるか、という懸念は残ると思います。

今回の入国規制の緩和に当たり、国の行った実証事業で、海外から来た旅行会社関係者からは「自分の国では、ほぼマスクを着けなくてよくなったが、観光でくつろぎに来ているのに、マスクを着けないといけないのは、窮屈に感じる」という声も聞かれました。

もちろんマスク着用は、感染防止に極めて有効です。なので、今後、エビデンスに基づいて、国民の不安にきちんと応えながら、入国規制のみならず、マスク着用のような国内のコロナ規制が緩和されていくことも、本格的なインバウンド再開のためには求められると思います。

② 「添乗員付き団体ツアー」に限定している

訪日外国人の旅行形態(2019年)を見ると、団体旅行は17%、個人旅行は83%となっており、個人旅行が圧倒的に多い状況です。したがって、入国の対象を添乗員付き団体旅行に限定しているうちは、インバウンドの戻りには限界があるということだと思います。

③ 1日当たりの上限を2万人としている

新型コロナ前は、訪日外国人数は約3188万人(2019年)でしたが、コロナ渦で、2020年412万人、2021年25万人と激減しました。

今回の入国規制緩和で、1日当たりの上限を1万人から2万人に増やしましたが、2019年は、1日平均8.7万人であることを踏まえると、上限規制が緩和・撤廃されないと、状況としては厳しいということだと思います。

④ 訪日外国人の7割を占めるのは東アジア

2019年の訪日外国人3188万人の国別内訳を見ると、中国30%、韓国18%、台湾15%、香港7%、タイ4%などのアジアからが83%。そして、米国5%、オーストラリア2%、フランス、英国、カナダ、ドイツなどが1%となります。

訪日外国人の7割を東アジア(中国、韓国、台湾、香港)からが占めますので、この地域からの観光客が、自由に自国を出入国できるようになることが、日本のインバウンドの回復・拡大には重要ということになります。訪日外国人の3割を占める中国は、感染状況が各国に比して悪いというわけではありませんが、国の方針として、ゼロコロナを目指し、最近も上海などでロックダウンをしてきましたので、まだ状況は厳しいということだと思います。

■旅行消費額の6割は国内旅行

インバウンド(訪日外国人旅行)がよく話題になりますが、実は新型コロナ前も、日本国内の旅行消費額のメインは国内旅行で、全体の8割を占めています。国内宿泊旅行17兆円(61%)、国内日帰り旅行4.8兆円(17%)で、インバウンドは、4.8兆円(17%)、日本人海外旅行の国内分1.2兆円(4%)となっています。

したがって、観光業の立て直しや地域経済の活性化には、インバウンドの回復・拡大も大切ですが、「日本の方々が、安心して国内旅行に行けるようにする」ことが、非常に大きな意味を持つ、ということになります。

今年度は修学旅行なども実施されるようになっていますし、大阪の「いらっしゃいキャンペーン」のような、地方版GoToトラベルが開始され、宿泊施設等も予約が盛況だと聞きます。

一方で、ご年配の方などは、「万が一感染して、周りに迷惑をかけることになってはいけない」、「コロナ渦で家の外に出ないことが当たり前になってしまって、出かけることに抵抗がある」といったことで、消極的な方も多くいらっしゃるようです。

すべてがコロナ前の状態に戻ることは難しいわけですが、「旅行などのしたいことを、したいときにできる」状況になることは、個人の生活の充実と、社会経済の活性化に、ともに大きな意義があるだろうと思います。

◇ ◇

…と書いてきましたが、「経済状況が厳しく、旅行に行く余裕なんてないよ」という状況の方も多くいらっしゃると思います。長く停滞する日本経済、コロナ渦に加え、最近は、ウクライナ危機、円安や物価高も加わっています。

国民の生活をどうやって守り、明日に希望を持つ国にすることができるか、自己責任に帰するのではなく、まさに、政治・行政が大きな責任を果たすべきときなのだろうと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス