ネットカジノの決済代行業者は賭博幇助罪の可能性 誤送金問題で返金した背景とは? 小川泰平氏が解説
山口県阿武町が新型コロナウイルス対策関連の給付金4630万円を誤送金した問題で、誤送金と知りながら一部を使った電子計算機使用詐欺容疑で、同町の無職・田口翔容疑者(24)が逮捕されたが、その後、決済代行業者が自主的に振込金額を返還したことが分かった。なぜ、このような行動をしたのか、真相が明らかになっていない現状で謎が深まる。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対し、その理由や背景について解説した。
「(誤送金された)金はネットカジノで使い果たして残っていない」。田口容疑者の主張が弁護士を通じて報じられる中、阿武町は5月24日に「4299万円を確保した」と発表した。町側の代理人である弁護士は、田口容疑者が送金した決済代行業者3社(いずれも東京)に対して、国税徴収法に基づく差し押さえなどの手続きを進めているとして書面を渡した直後、町の銀行口座に送金してきたと明かした。
この急展開によって、「決済代行業者」という存在がクローズアップされた。なぜ、こんなに早く金が戻ってきたのか。小川氏は「家宅捜索される前に返金という手を打ったのでは」と推測し、インターネットカジノについて次のように説明した。
「インターネットカジノは略して『インカジ』と言われます。インカジはパソコンやスマホで簡単にできて、10ドル、20ドルくらいからできるところもあり、非常に手軽にできる。問い合わせをすると『海外で認可を受けておりカジノは合法ですので(インカジも)間違いなく違法(賭博)ではありません』などと言われるんですけど、これは間違いなく賭博。日本では違法です。やってはダメなんです。やっている人を捕まえることは可能ですし、実際に逮捕された例もあります。これまでのケースだと、起訴はされてはいませんが、賭けた金額や常習性等から起訴される可能性もあります」
その上で、同氏は「インカジで博打をやるのには、決済代行業者がないとできないのです。つまり、決済代行業者は賭博の幇助(ほうじょ)罪になる。代行業者が個人のお金を預かって海外のカジノに送らなければゲームができない。それ、すなわち賭博幇助罪です。そんな後ろめたい気持ちが(町に返金した)代行業者にあったと考えられます」と背景を説明した。
また、小川氏は「代行業者は客の名前はもちろん、銀行の口座番号などの情報を持っており、カジノでの勝ち負け等も全部把握している。今回、田口容疑者が振り込んだ金額やプールされたお金の有無などを調べるという目的で、山口県警が代行業者を家宅捜索、いわゆるガサをかける可能性がありました。そこでガサをかけると、田口容疑者以外のいろんな情報が出てきます。あっと驚くような著名人の名前も出て来るかもしれません。そうした分かっては困るものがあったのかもしれない。つまり、これ以上、決済代行業者は、探られたくない。それで、すんなり業者が返金したと考えることもできる」と分析した。
さらに、小川氏は「代行業者の3社が『右にならえ』で同時に返金したこと」に注目した。同氏は「そこから3社には『横のつながり』があるのか、『(会社の)名前は違っても、大元は同じ人間がやっているのか』という可能性を感じます。いずれにしてもアンダーグラウンドでやっていて、表だってやれない業者が、家宅捜索される前に任意で返金してきたと私は考えています」と指摘した。
では、決済代行業者はどのように利益を上げているのか。
小川氏は「カジノ側から決済代行業者に手数料が支払われるのです。また、カジノと決済代行業者ほぼイコールの場合もある。客は『カジノの負けはカジノで取り返したい』という心理が働き、振り込んだ金がすぐ反映されて欲しいので、送金の手続きに時間が掛からないスタイルを求めます。正規に海外送金をしていたら当日に入金が反映されることはありません。もう一つ考えられることが、地下銀行。これを利用すると即時入金されます。もちろん地下銀行も違法(銀行法違反)です」と説明した。
真相はうやむやだが、このまま闇に葬られるのだろうか。
小川氏は「警察もお金が町に返ってバンザイではなく、田口容疑者の金がいつどのように振り込まれて、実際にプールされていたのか、カジノにまだ残っているのか等を調べていく必要がある」と継続捜査を注視する。
そして、同氏は改めて「ネットカジノ自体は賭博罪です。海外では認可を受けていて、日本では“グレーゾーン”という人もいますが、警察はグレーゾーン等とは一言も言っておりません。実際に逮捕された者もいます。いつ逮捕されてもおかしくないということを分かってもらいたいし、決済代行業者は賭博の幇助罪に当たる可能性が十分にあるということを知ってもらいたい」と訴えた。