交通事故で片目を失ったけど…たくさんの優しい人たちの手でつながった命 新たな名前に込められた想いとは

車社会の現代、交通事故の発生件数は年々減少傾向にありますが、それでも死亡者は2636人(2021年)いるのが現実です。自動車だけでなく、自転車の事故も忘れてはならないでしょう。ひとたび事故に遭ってしまうと、被害者は障害を負ったり長期間後遺症に悩まされることも。

犬や猫も同じです。大阪府高槻市で活動をする保護猫団体「高槻ねこの会」で過ごしているファインくんも、交通事故が原因と思われる怪我により障害を負ってしまった1匹。頭部をはねられたらしく、顎の骨はずれ右目は飛び出していました。

このゾンビのような猫が夜の暗闇の中、ひとりの若い女性に助けを求めました。2021年8月11日のことです。女性は驚いたものの、慌てて高槻ねこの会へ連絡をします。「大変な状態の猫がいる、どうしたら良い?」知らせを聞いた代表のOさんは、すぐさま保護のため車を走らせました。高槻市から離れているものの、遠くはない。助かってほしい、その一心です。

女性は助けが到着するまで、ファインくんから目が離せません。試しに持っていたトートバッグへ入るよう促すと、なんとファインくんはすんなり入ってくれたのです。どうやら人間を知っている猫のようです。通りがかった男性も引き取ってくれる人がいないか、方々に電話をしてくれます。

飛び出した目玉からは腐臭が漂い、少なくとも数日はこの状態で過ごしたことがうかがえました。顎がずれているため、ご飯も満足に食べられなかったでしょう。ガリガリにやせ細った体は、過酷な状況を物語っていました。保護に関わった人達の想いは一つです。「それでも何とか助かってほしい」その想いは、高槻ねこの会に引き継がれました。

翌日の朝一番、動物病院へファインくんを連れていきました。獣医師の見立てでは、推定年齢7歳でエイズキャリア。頭部に大きな衝撃が加わったことにより目玉が飛び出し顎がずれたのだろう。手術が必要だと告げられました。

治療と並行してファインくんの飼い主も探します。人慣れしているため、家猫か地域猫である可能性が高いと考えたからです。しかし、数日経っても何の情報も得られませんでした。

飛び出した目玉とかみ合わない咬合を治すには手術が必要。高槻ねこの会は、手術をすることを決意します。ファインくんを心配した方から、支援金も送ってもらいました。保護をしてから1週間後、飛び出した目玉の切除とずれた顎の骨の手術が決まりました。

ところが、手術予定日になりファインくんが発熱。大事を取って手術は延期に…。かなり体力が落ちているようです。高槻ねこの会のスタッフも支援者も胸を痛めました。

10日後、ファインくんの体力が戻ったのを確認して手術を実施。眼球摘出と顎の骨がずれたまま固まってしまっているため、噛み合わせを良くするために歯を削ります。全身麻酔の大手術です。皆が助かってほしいと祈り続けました。

その祈りが通じたのか、手術は大成功!これからファインくんは、痛い思いをしなくてもご飯が食べられるように。飛び出した目玉は切除し、もう気になることもありません。ただ、目薬は点し続けなくてはならないとのこと。それでも今までの状態と比べたら、随分と楽になったはずです。

元気になったファインくんは、毎日のご飯を心待ちにする食いしん坊さんに。でも他の猫のご飯まで取ろうとするのではなく、じっくり自分のご飯を味わうタイプなんです。遊ぶ時もそう。他の猫と積極的に遊ぶのではなく、じっくり自分の世界にひたる。

実は「ファイン」という名前には、普段お世話をする高槻ねこの会スタッフの想いが込められています。

「ファインという名前は、”それで良いんだよ”という意味を込め”Fine”としました。片目でも顎がずれていても、エイズキャリアでも、コミュ力があまりなくても、それで良い。それが、あなたなんだから」

人間により障害を負ってしまった猫は、人間の助けがないと生きていけません。少しのお手伝いが必要でも「それで良いんだよ、そんなあなたが愛おしいんだよ」と言ってくださる新しい飼い主を、ファインくんは待っています。

性格の良さは折り紙付きなので、高槻ねこの会運営シェルター「ねこのおうち」まで一度会いに来てくださいね。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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