「子猫たちを任せて」死んだ母猫との約束を果たすため、託した3万円 寄付金がつないだ新しい家族との縁
保護猫団体のほとんどは営利目的で運営していません。利益を追い求めることはなく、猫や地域の公衆衛生のために日々働いています。
しかし、猫を保護するにあたって必要になってくるのはお金です。毎日のご飯やトイレの砂、病気や怪我をしている猫は治療費もかかります。これらのお金はボランティアスタッフの自腹が多く、赤字が膨らみ過ぎて活動停止になってしまう団体も。
■保護猫団体の運営に寄付金は欠かせない
そこで重要になってくるのが寄付金です。個人や法人から募ったり、猫の里親になってもらった方からいただいたり。忘れてはならないのが、猫の保護依頼をした方からの寄付金です。この寄付金があるからこそ、保護猫たちが十分な医療を受けられお腹いっぱいにご飯が食べられます。
保護依頼をされた方からの寄付金で、命をつないだ子猫の兄弟がいます。三重県名張市のブランくんと麦くん、ルアンちゃんです。保護をされた時は生後約1カ月半。ある女性から、名張市の保護猫サークル「にゃにゃ倶楽部」に連絡がありました。2021年7月4日のことです。
■母猫と約束した女性「子猫は任せて、心配しないで」と3万円を寄付
子猫たちは母猫と一緒にあるマンションに棲みついており、栄養状態は悪くありません。餌を誰かから貰っていたのでしょう。ところが、母猫が体調を崩した時、手を差し伸べてくれる人はいませんでした。遂に、母猫は命を落としてしまいます。途方に暮れる子猫たちのために行動を起こしてくれたのは、毎日そこを犬の散歩で通っていたあの女性だけです。
連絡を受け現地を訪れたにゃにゃ俱楽部のムラグチさんは、子猫を保護する前に女性へ説明をしました。「無料で保護はしていません、猫のための医療費負担をお願いしています」と。女性は少し迷いましたが、毎日顔を合わせていた子猫たちのため、無念の中命を落とした母猫のために3万円を託しました。女性は言います。
「私は約束したんです。赤ちゃんたちを任せてほしい。心配しないでって」
ムラグチさんはその想いを引き継ぎ、子猫たちを保護しました。そして約束をします。この子たちの行く末は必ずお知らせします。里親さんが見つかったら、お預かりした医療費をお返ししますとも。
さあ保護された子猫たちは大変。栄養状態は悪くないものの、猫風邪を引いていますから目がグズグズです。動物病院で処方された目薬を根気よく点眼していかなくてはなりません。軟膏も塗って、抗生物質も飲ませて…。万年人手不足のにゃにゃ俱楽部は大わらわ。鈴鹿市にある動物愛護団体「ムック王国」の手助けも得て、子猫たちを育てます。
手厚いサポートによりどんどん元気になっていく子猫たち。お風呂に入れると、ボロボロだった子猫がふわふわの可愛い子猫に。これならすぐ里親さんが見つかるのではないかとムラグチさんは思いました。
そう思ったら矢も楯もたまりません。7月18日に開催された譲渡会へキャリーバッグに入ったまま参加します。ムラグチさんの見立ては大当たり!3匹の子猫全員に里親希望者が現れたのです。しかも茶トラの2匹は一緒に迎えてくれるんですって。
大喜びのムラグチさんは、すぐにあの女性へ連絡をします。女性も喜んでくれ、母猫への約束を果たせたと感無量です。子猫たちにかかった医療費は譲渡金で清算すると、保護依頼をした女性の負担は2000円ほど。返金をしようとしたのですが、他の猫たちも助けてほしいと1万円寄付してくれました。
このような寄付金があるからこそ、外で生きていけない猫たちが医療にかかることができます。人間もまた、猫から感染する病気から身を守ることができるので、寄付金は欠かせない存在です。ほとんどの団体は赤字ギリギリの中、猫のため公衆衛生のために尽力しているのです。少しだけでも目を向けてもらえると、人間も猫も生きやすい社会になるのではないでしょうか。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)