静かなブーム「ろうけつ染め」って? ユニークな図柄が話題の個展に行ってみた
奈良の正倉院に現存するほど歴史がある「ろうけつ染め」。近年は海外でも注目を集め、静かなブームになっているという。そんな中、ユニークな図柄と独自の繊細な筆づかいが話題を呼び、アメリカなど海外にもファンが多い、ろうけつ染め作家で、染色家の細田あずみさんの作品展が6月19日まで京都で開催されている。訪れてみた。
■図柄の面白さと繊細な筆づかいで魅了
「ろうけつ染め」とは蝋(ろう)を溶かして筆で柄を描き、防染して染めていく伝統的な染色技法のこと。細田さんは「何度も色を重ねて染めることができ、布が色セロファンを重ねるように下の色と混じり合い、深みのある色に仕上げることができます。また、蝋を筆で布に置くため、柔らかい表現になります。テキスタイルにおける絵画的表現にも向いていると思います」と話す。
ろうけつ染めをもっと多くの人に知ってほしいとこれまで着物、屏風、タペストリーだけでなく、これからの季節、需要が高まる日傘など身近なアイテムにも応用。さらにワニやタコ、船、神戸の街並み、舞妓さんの顔などユニークで個性的な構図など、今の時代にあった図柄にも意欲的に挑戦してきた。
神戸出身で、本格的にろうけつ染めを学びはじめたのは大学時代。京都市立芸術大学大学院美術研究科博士後期課程(染織)領域を修了し、学位の博士(美術)取得。京都の呉服メーカーで勤務した経験もあり、そこでさらに染織技術を磨き、現在は京都市立芸術大学、京都精華大学で講師などをしながら、ろうけつ染めの研究や作品づくりをしてきたという。
溶かした蝋を筆で生地に塗ることで、その部分が染まらなくするのだが、その筆づかいのテクニックでも魅力してきた。聞けば、細田さんの実母は書家。そのため、幼い頃から母の元で書道を習った。筆づかいの技術はこの頃から養われてきたようだ。
■地元、神戸の灘五郷を描いた作品が面白すぎると好評
今回の個展のテーマは「猩猩(しょうじょう)と盃-HAPPY HOUR TEXTILE!-」。ちなみに、猩猩とは架空の動物のことで、能の演目『猩猩』(清酒が尽きない酒瓶を人に授けた猩猩のお話)を題材にした。
「猩猩が灘の清酒にまつわる景色を紹介する姿を想像し、染めています。HAPPY HOURでお酒を楽しむように、ほろ酔い気分を満喫していただけると幸いです」
作品展では帯や着物、屏風、日傘など9点を展示。メインの作品は「猩猩と盃」。酒好きの猩猩が盃を覗いているユニークな図柄が印象的だ。実は5本の帯が絵羽柄になっていて、5本で一つの作品に仕上げているのも見逃せない。
細田さんいわく「帯一本ずつ個々に、お太鼓結びで柄が出るようになっています。盃の中には酒造りの光景が浮かび上がります」
なお、日傘シリーズや斬新な柄を集めた着物など、これまでのユニークな作品の数々は会場に置いている図録で楽しむことができる。
コロナ禍で京都での作品展は3年ぶりとなった。海外での活動も再開していく予定で、すでにアメリカから作品依頼も入ってきているという。ちなみに、細田さんは土曜日と日曜日は在廊しているので、ろうけつ染めについて聞きたい人はこの日に訪れるといいかもしれない。
▼細田あずみ2022年作品展(無料)
6月19日(日曜)まで
会場=ギャラリーギャラリー(京都市下京区市之町251-2 寿ビルディング 5階) 12:00~19:00(19日は17:00まで) ※木曜日定休
(まいどなニュース特約・八木 純子)