「生きていたことが奇跡」バールで頭蓋骨粉砕、瀕死だった猫 ジオラマ食堂でお客さんの愛を一身に
超リアルな鉄道ジオラマの上を、猫たちが自由に遊び回る姿が楽しめると話題を集める、大阪の「ジオラマ食堂」で、またひとつの命が救われた。バールで頭を殴られたオス猫で、頭蓋骨を粉砕され脳が見えるほどの重傷を負いながらも、自ら捕獲器に入ってきた。奇跡的に回復した今、ジオラマ食堂で穏やかな日々を過ごしている。
■ 自ら捕獲機に入ってきた猫は…
2022年2月19日、保護猫団体「猫まもり隊」は大阪府松原市で三毛猫を保護するため、捕獲機を仕掛けた。そのとき、1匹の大人猫がフラフラの足取りで現れ、自ら捕獲機に入ったという。その猫は頭部に大けがを負っていた。
今その猫を保護しているジオラマ食堂オーナーの寺岡直樹さんに、当時の様子を聞いた。
「猫まもり隊の方からは、バール状のもので殴られて、頭蓋骨を割られていたと聞きました」
しかも頭蓋骨は粉砕されて、脳が見えるほどだったという。猫まもり隊によって急遽保護された猫は動物病院へ運ばれ、ぽっかりと穴が空いた頭蓋骨の一部を、人工物で塞ぐ手術を受けた。獣医は「生きていたことが奇跡」といい、人間の仕業に間違いないだろうとのことだった。
手術後、やや落ち着いたのち、その猫は大阪市天王寺区にある「ジオラマ食堂」に引き取られた。ジオラマ食堂は、鉄道ジオラマの上を猫たちが自由に走り回る様子がSNSで評判を呼び、猫好きの人たちで連日賑わっている。オーナーの寺岡さんは、熱心な保護活動家でもある。
生命の危機から奇跡的に生き延びたので「ラッキー」と名づけられた猫は、推定年齢3~7歳のオス猫だった。
「引き取りが決まったんですが、ラッキーは猫エイズのキャリアだというので、隔離するための個室を急ごしらえしました」
ちょうど鉄道ジオラマをつくるために集積してあった材料があったため、それを利用して個室がつくられた。
ケガの回復は早く、ラッキーはみるみる元気を取り戻した。そして5月20日、獣医から「治療完了」が宣言された。ラッキーは食欲も旺盛で、寺岡さんは「胴回りが増えて、Lサイズのハーネスが締まらない」と笑っていた。しかも、人からひどい目に遭わされたにもかかわらず人懐っこく、手を出すと頭をこすりつけてくる。SNSを見てラッキーの境遇を知っているお客さんも、暖かい眼差しを向けていた。
■「電車をハグするニャ」6匹の子ニャンズがジオラマデビュー
ラッキーを虐待した人物はまだ特定されておらず、憤りは増すばかりだが、一方で明るい話題もある。ジオラマ食堂1階にある鉄道ジオラマに、この春6匹の子猫がデビューした。大阪市内で保護された子たちで、生後約1カ月(取材時)だそうだ。
ジオラマの上で電車をハグしたり、1階の食堂スペースをフルに使って、駆け回ったり取っ組み合いを始めたりして好き勝手に遊びまわっているだけだが「その姿がたまらなくカワイイ」と、お客さんに大好評だ。電車を前足でチョイとひっかけて倒すことを、ジオラマ食堂では「ハグ」と呼んでいる。
取材に訪れた6月半ばといえば、母猫のサラが4匹の子供を連れてジオラマ食堂の前に姿を現した時期だ。2年前のことだった。
「コロナ禍でどうせお客さんが来ない」と店内に入れたら、ジオラマの上で遊び始めた。その様子をSNSに投稿したところ「カワイイ」と評判を呼んで拡散され、猫好きのお客さんが多く訪れるようになった。4匹いた子のうち1匹は寺岡さんの自宅で暮らし、ほかの3匹と母猫のサラは今もお店に出て、お客さんに可愛がられている。
「客足が途絶えて倒産寸前だった店が息を吹き返したのは、まさに猫のおかげ」
寺岡さんは「猫に恩返し」と、保護猫活動を精力的に行っている。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)