猫も“ロス”になる?相棒の老猫が旅立ち落ち込んでいた猫 後輩猫を迎えたら…みるみる元気を取り戻す

 兵庫県尼崎市在住のSさんは老猫の華ちゃんと、新たに迎えた青空と、年の差17歳の2匹と仲良く暮らしていた。しかし、幸せな日は長くは続かず、1年ほどがたったとき、華ちゃんの腎機能が低下していることが発覚。病院通いが始まった。

 華ちゃんと別れの日が訪れた。2020年11月7日に永眠。それでも青空と華ちゃんは亡くなる直前まで大好きなしっぽ遊びと、日向ぼっこを楽しんでいたそうで、それがせめてもの慰めだった。

 Sさんは1年半ほど闘病を支えていたので覚悟はしていたそうだが、いざ、華ちゃんが亡くなると、なかなか気持ちに整理がつかず、悶々と日々を過ごしていた。しかし、青空の存在がSさん家族を救ってくれたという。

 「青空は、華ちゃんを最後まで見送り、わたしたちを支えてくれたのです」

■相棒の老猫が亡くなると、ご飯を食べなくなって寝てばかりの猫さん

 一方の青空は、華ちゃんが亡くなってからご飯をあまり食べず、寝てばかりして過ごすようになった。全く食べない日が続き、さすがに病院へ。大好きな日向ぼっこにも出てこなくなった。華ちゃんがいなくなって元気を失くした青空を見て、Sさんは「いつまでも悲しんでいる場合じゃない!わたしたちを支えてくれた青空のためにもしっかりしなくちゃ」と、自身を奮い立たせた。

 そこで「どうすれば華ちゃんと青空が喜ぶだろうかな」と考え、ネットで猫の幸せやペットロスについて調べたりしていたという。色々な情報を見ているうちに、過去に寝てばかりいた華ちゃんが青空が来てからというもの、とても活発になりイキイキしていたことを思い出した。

 「そうだ。仲間が来たら、青空も使命感から元気になってくれるんじゃないか。まだ若いから、新しい仲間を受け入れやすいはず。どうせなら困っている猫を迎え入れ、1匹でも助けられる命を探そう」

 Sさんはこう思うに至った。とは言うものの、まだ華ちゃんを亡くして日が浅く「本当にそれでいいのか…。不謹慎かな…」とも思い悩んだ。しかし、華ちゃんに「困った猫ちゃん助けてあげて!」と言われているようにも感じたそうだ。そこで、動物愛護センターの情報や保護猫の情報を調べたそうだが、その場に行く勇気が持てずにネットをながめるだけの日々を送っていたという。

 ある日、気持ちの整理をしようと、華ちゃんのために買い置きしていた食べ物を片付けていると、想像以上にたくさん残っていることに気付いた。そのとき「捨てるにはもったいない…。そうだ。華ちゃんのご飯を寄付することを口実に、譲渡会へ参加しよう!」と、少し気持ちが前向きになれたという。早速、近隣で開催されていた譲渡会に参加。そこにはたくさんの保護猫が新しい家族を待っていた。しかし、どうやって選べばいいのか分からず、少し落ち込んで帰路に就いたそう。

 Sさんは命を選ぶことに怖さを感じたのだという。「でも、やっぱり華のためにも、青空のためにも」と思い直し、もう一度、母親と譲渡会へ参加することを決めた。

■譲渡会に参加、「ニャッ」と鳴いたキジトラ猫に目が留まった

 Sさんたちが次に参加したのは当団体(NPO法人動物愛護 福祉協会60家)の譲渡会だった。Sさんは会場をぐるりと周り、その中の4兄弟の子猫に目が留まったという。4兄弟のうち、黒猫3匹はとても怖がりケージの端っこに固まっていたが、キジトラ1匹だけは堂々とした態度でケージの中でちょこんとお上品に座って、Sさんの目を見て「ニャッ」とかわいく鳴いた。

 「かわいすぎでした」とSさん。しかし「2カ月ほどの子猫を兄弟と離すのもかわいそうかな」とも感じ、母親とともに思い悩んだが、モカという名のキジトラの子猫を希望し、申請書類を書いた。

 「あかんかったときは、きっとこの子じゃないんや!決まれば、きっとこの子で意味があるはず!」

 そう言い聞かせ、迷いを振り払った。しかし、決断までには少し時間を要し、その間、当団体もソワソワと落ち着かなかった。当団体では保護猫を譲渡する前に、新しい家庭の環境や先住猫とうまくいくかを見極める「トライアル期間」を設けている。そして、Sさん家族の元でモカちゃんのトライアルが決定した。

 Sさん家族は歓喜したが「後は、モカちゃんと青空が決めること」と、青空が元気になってくれることを祈った。そして、12月25日のクリスマスにモカちゃんのトライアルがスタートした。青空は新しい猫の存在にソワソワしていたが、そんな青空を尻目に、お転婆のモカちゃんはマイペースで堂々と遊んでいた。

 自由気ままに遊ぶモカちゃんを見て、青空はみるみる元気を取り戻し、ご飯をしっかり食べるようになっていったという。青空はモカちゃんと一緒に遊ぶようになり、すっかり妹を世話する素敵なお兄さんといった風情だった。そして、モカちゃんは正式にSさんの家族の一員に。名前は櫻と書いて「おと」ちゃんと命名した。

 「秋桜の季節に生まれたこと、秋桜の花言葉は愛情や乙女の真心ということなので、秋桜のように咲き誇り、周りにも幸せを分けられるぐらい、幸せいっぱいに過ごして欲しいと願いを込めました」

 青空はかくれんぼ、櫻は追いかけっこと目的の遊びは違うようだが、いまでは2匹で仲良く元気に走り回って遊んでいるそうだ。最近、日当たりのいい家に引っ越し、毎日、一緒に日向ぼっこも楽しむようになったという。

 青空は今でも櫻を見守る優しいお兄さん。Sさんは、そんな2匹をながめながら「櫻も青空も、華がいたからこそ、家に来てくれた子たちです。母の日とクリスマスにやってきた華の弟と妹です。きっと華ちゃんが見守ってくれています」と思っているそうだ。

 Sさん家族に幸せと平穏が戻ってきた。華ちゃんを思いながら、新しく増えた家族と賑やかに過ごしている。

(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス