奈良市が3年連続で「犬猫の殺処分ゼロ」 なぜ実現できた?…取り組んだ3つのこと
私たちが何げなく送る毎日の中でも、全国のどこかの町で、今日も理不尽な死を待つ犬猫がいます。殺処分の数は年々減ってきてはいるものの、2021年調べでは全国で年間2万3764匹もの犬猫が人間の思惑で命を落としています。
そんな中、3年連続で殺処分ゼロを実現しているのが奈良市です。他にも、自治体の中には「殺処分を減らす」という目標を掲げる地域は多く存在しますが、実際に「ゼロ」にまで実現させた例は限られています。これまでに熊本市、横浜市、札幌市が殺処分ゼロを実現させていましたが、近年では奈良市も実現。さらに奈良市は、3年連続で殺処分ゼロをキープし続けていると言います。
ただし、仲川奈良市長就任前(2008年)は犬猫の殺処分がかなり多く、その数は663件だったとも。それから約11年で犬猫の殺処分ゼロを実現したというわけですが、この裏側にはどんな取り組みがあったのでしょうか。
■「犬猫に対して厳しい市である」と痛烈な批判を浴びていた奈良市。取り組んだ「3本の柱」とは?
仲川奈良市長によれば、自身が就任した当時、犬猫の殺処分が多いこと、また奈良市内に自前の殺処分施設がなく移動式殺処分車であったことから、全国から「犬猫に対して厳しい市である」と痛烈な批判を浴びていたそうです。このことから2017年に仲川奈良市長は「犬猫の殺処分ゼロ」をマニフェストに掲げ、奈良市民やボランティアと協働するカタチで様々な取り組みを実施。このことで2019年に犬猫の殺処分ゼロを果たしました。
実現に至った背景にはどんな取り組みがあったのでしょうか。仲川奈良市長によれば、殺処分ゼロを達成するために掲げ、実施した取り組みは大まかに以下の「3本の柱」があったとのこと。
1.引き取り数の減少
実は引き取る犬猫の中で最も多いのが、ノラ猫が産んだ仔猫で、全体の約9割にもなるという。野良猫を増やさない取組であるTNR活動を推進するため、飼い主のいない猫への不妊去勢手術補助金の増額や、TNR活動を希望する方でその実施が困難な方を支援するTNR活動支援ボランティア協力者謝礼制度の創設に力を入れた。
2.飼養の充実
保健所では、哺乳が必要な子犬や子猫、人慣れが必要な犬猫を、一時的に家庭やボランティア団体で預かり育ててくれるボランティアを募集。この他、臨床経験のある獣医師の会計年度職員を増員して対応し、医療費補助制度も設けた。
さらに、2018年には、ふるさと納税の寄付メニューとして「犬猫殺処分ZEROプロジェクト」を追加。その寄附金を活用し、ボランティアの負担軽減や、飼い主のいない猫の不妊去勢手術費用の助成、負傷した犬猫の医療の充実を行った。
3.譲渡の推進
譲渡ボランティア制度による犬猫の譲渡を強化する取り組みを実施。『しみんだより』での特集、ホームページ、SNS、犬猫パートナーシップ店による広報を充実させ、譲渡会や譲渡相談会の開催を行った。こちらも継続中で、譲渡ボランティア医療費補助金制度、譲渡動物不妊去勢手術補助制度など、さまざまな面で市の補助金が使われている。
■一番難しかったのは「収容した犬猫の譲渡先を見つけること」
仲川奈良市長によれば、これら「3本の柱」のうち、最も難しかったのは「保健所で収容した犬猫の譲渡先を見つけること」だったという。前述の通り、この取り組みにあたっても犬猫の殺処分ゼロは、行政だけでできたわけではなく、市民、個人ボランティア、動物愛護団体、民間業者、動物病院といった民間の協働団体の協力があったからこそ実現できたものだったとのことです。
■奈良市の犬猫殺処分ゼロの取り組みが、奈良県全体そして全国へと派生することを願う
奈良市による、犬猫の殺処分ゼロを掲げた目標に対し、民間の複数の協働団体・ボランティアが共鳴。見事犬猫の殺処分ゼロを実現させ、しかも3年連続でキープし続けられていることは、まさしく犬猫殺処分を減少させるための好例と言って良いでしょう。
仲川奈良市長は、これらを継続していきながら、市民への理解を深めることとあわせて今後は他の自治体とも情報共有を図り、奈良県全体に活動が広がり、県全体の殺処分ゼロになることを願うとのこと。
この奈良市による有意義な取り組み、奈良県はもちろん全国に派生することができれば、犬猫はもちろん、人間にとってもきっと今よりもずっと良い社会ができるようになると思いました。是非とも奈良市のこれまでの取り組みが、今後多くの自治体・人々に広がっていくことを願うばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)