「またやり直そう」「待ってる」 田中聖容疑者に高知東生さんら支援者がエール 「仲間だから」に込めた思い
「またやり直そう」「回復できる」。6月29日、アイドルグループ「KAT-TUN」の元メンバー田中聖(こうき)容疑者が覚醒剤取締法違反(所持)の疑いで現行犯逮捕されると、田中容疑者の薬物依存治療を支援していた俳優の高知東生(たかち・のぼる)さんと「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子(のりこ)さんが、Twitterや動画で「仲間だから」「待ってる」と田中容疑者にエールを送りました。田中容疑者は6月20日に執行猶予付きの有罪判決を受けたばかり。判決間もない再犯をバッシングする声があふれる中、なぜ田中容疑者を支えるメッセージを発したのでしょうか。田中紀子さんに聞きました。
■高知さん「聖くんは本当にいいやつ。安心して帰ってこい」
高知さんはNHK大河ドラマなどで俳優として活躍し、2016年に覚醒剤と大麻の所持容疑で逮捕、有罪判決を受けました。未来を見通すことができなくなり、絶望の淵に立たされていた時、回復へ踏み出すきっかけをつくってくれたのが「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんでした。勧められた回復プログラムを経て、現在は田中紀子さんとのYouTubeチャンネル「たかりこチャンネル」やTwitterで発信し、啓発活動を行っています。
田中紀子さんは逮捕翌日の6月30日、Twitterで「田中聖さんの逮捕について、誹謗中傷が飛び交っていますが、聖さんは一生懸命に回復しようとしていました」と投稿しました。自助グループに参加し、薬物依存症の治療回復プログラムに取り組んでいたことを明かし、たかりこチャンネル撮影時は田中容疑者が裏方としてカメラマンを買って出てくれたエピソードを紹介しました。
逮捕後、高知さんと田中紀子さんが急遽(きゅうきょ)撮影したYouTube動画では、高知さんが「彼(聖くん)は自分で調べて、医療と民間団体の(薬物依存治療の)連携を知っていた」「お互いの回復に向けて、今日一日を大事にしようと(話していた)。本当にいいやつなんです」と依存症治療に向けて前向きだった様子を証言しました。
高知さんは自身が依存症支援団体とつながったばかりの頃を振り返り、「(回復を目指す)仲間とつながったうれしさがあった一方、『つながったとしても、これから俺はどうなるんだ』という不安もあり、(うれしさと不安な気持ちが)半々だった」と揺れ動いていた心情を吐露。再び薬物に手を出した田中容疑者の心中を察しました。
田中紀子さんは「逮捕されても、(聖さんとの)関係性は何も変わらない。仲間としてつながっている」と話すと、高知さんが「全然(関係は変わらない)。待ってる待ってる」と応じ、「聖くん、安心して帰ってこい」と笑顔で呼び掛けました。
■「傷のなめ合い」という批判リスク押して発信
ーー2度目の逮捕で田中容疑者へのバッシングが吹き荒れる中、すぐに「また回復できる」と励ますメッセージを発しました。
「依存症になったことがない普通の人にとって、(再犯は)とても不可解な出来事だと思います。でも、薬物依存症からの回復を目指して、苦しんでいる人はいっぱいいます。芸能人が再犯で捕まると、『やっぱり』『やめる気がない』『一生刑務所に入れたらいい』といった批判の声があふれます。そうすると、聖さん以外の依存症治療に取り組んでいる人たちも『私は社会にいてはいけないんだ』『自分の味方なんていないんだ』と疎外感を覚え、回復に向けた努力も無に帰してしまいかねない。依存症回復の道筋について、一人でも多くの人に考えてほしい、(聖さんバッシング一辺倒の)流れを変えたいと思いました」
「逮捕の翌朝、高知さんと『仲間だから、できることをやろう』と話し合い、動画を撮ることにしました。高知さんは有名人なので、『出たがりやがって』『傷のなめ合いだ』といった厳しい反応が寄せられる恐れもありましたが、そのリスクを押して、高知さんはメッセージを発してくれました。とはいえ、最初のテイクは私も高知さんも思いと涙があふれて、撮り直したのですが…」
ーー薬物で捕まった人を「仲間だよ」と公言することは、なかなかできることではありません。
「病気が再発したり、逮捕されたりすると、みんな手のひらを返すものです。依存症患者はそういう経験をしています。そして手のひらを返す人ほど、『裏切られた』『信じていたのに』と自分が被害者のように振る舞います。でも、再発を含めて依存症なんです。それが分からない人は本当の仲間でも友達でもないと思っています。『私たちは離れないよ』と聖さんに伝えたかったんです」
■薬物依存症からの回復、そして啓発活動へ意欲示していた
ーーTwitterやYouTubeで、田中容疑者が自助グループに入り、薬物依存症の回復プログラムに取り組んでいたことを明かしました。
「聖さんには静かな環境で薬物依存症から回復してもらいたくて、自助グループに参加していたことなどは公表していませんでした。でも、聖さんは早い段階から『自分が回復して啓発活動に取り組むことが、自分の役割なのかな』と回復した後の社会的役割にも自覚的でした。それは、高知さんや清原和博さんのように、薬物から回復する姿を見せることで啓発活動を行ってきたロールモデル(お手本)がいたことも大きいと思いますが、普通、逮捕された芸能人は自身の薬物体験を語りたがらないものです。聖さんはすごく繊細で、勘のいい人だった。だからこそ、人の気持ちが分かりすぎて、なかなか人を信じられなかったんだと思います。まだ回復プログラムは5回くらいしか受けられていなかったし、治療を積み重ねる時間も足りていませんでした」
ーー日本は「依存症が治らないのは意志が弱いから」という風潮が根強くあります。
「まだまだ依存症という病気が、十分に理解されているとは言えません。依存症患者は悪人ではなく、病人なんです。たとえ再発したとしても、その人の優しさや信念、ビジョンはうそではないんです。そのような持ち味が病気によって発揮できないだけなんです。どんな病気でもその人らしさが発揮できなくなるのは同じなのに、依存症だけが再発すると『裏切られた』と責められます。日本では刑務所に入っても、回復プログラムは受けられません。あれだけ才能のある人が、何の治療も受けられない刑務所で何年も過ごさなくてはなりません。それが残念でなりません」
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田中紀子さんは田中容疑者について、「とても礼儀正しく、依存症患者を助ける側に回ることができる数少ない人」と感じていたといいます。高知さんも「どんな聖君でも俺は大好きだし待ってる。希望を捨てずに、また一緒にやろうぜ」「辛い役割を引き受けた人は助けられる人も多い」とTwitterでエールを送っています。すべての依存症患者に向けたメッセージのように感じられました。
(まいどなニュース・伊藤 大介)