重症難治てんかんと闘う愛猫 「明日」を生きるために世界初の難手術に再びチャンレジ 「私にとってこの子はひだまりです」

ほとんどの時間を寝て過ごしているこの子に、少しでも楽しかったと思って最期を迎えてほしい。そう思いながら、愛猫ノチェロくんと暮らしているのは飼い主のもちもさん(@teatiger_)。ノチェロくんは猫では希少疾患である「重度難治てんかん」と闘っており、今年の7月、猫として世界初となる、前頭葉てんかんの治療手術を受ける予定です。ノチェロくんが世界初の手術を受けるのは2回目になります。

■猫では世界初の「脳梁離断」を受けて

2019年7月。生後2カ月のノチェロくんは痙攣しながらマンションの駐車場を歩いていたところを飼い主さんによって保護されました。

ノチェロくんは重度難治てんかんを患っており、保護から2カ月後、てんかん発作が1日中、見られるように。症状を和らげたいと考え、飼い主さんは様々な動物病院へ相談に行きました。

しかし、難治てんかんは希少疾患 であったため、専門知識を持つ獣医師となかなか出会うことができず、何軒もの病院で診察を拒否されたり、余命宣告をされたりし、心がボロボロに。

ところが、そんな中で出会った看取り専門の獣医師が総合病院 への紹介状を書いてくれ、その後、大学病院へ。猫では世界初となる「脳梁離断」という手術を受けることとなりました。

術中に出血してしまったため、全離断はできなかったものの、おおよその離断に成功。10時間以上にも及ぶ大手術により、発作の回数は激減。

意識もなく、ほぼ寝たきりだったノチェロくんは自力で歩いたり、食事をしたりすることができるようになりました。

喜びは束の間…再び世界初となる「てんかん治療手術」を受けることに

ところが、手術から2カ月ほど経つと、発作の回数が増加。

「実は、脳梁離断は術後が一番効果が見られ、その後、効果が落ちていくのだそうです…」

手術によって発作型が変わったものの、1日に複数回起きる発作による脳への負担が心配…。そう感じた飼い主さんは発作の様子を動画に収め、大学病院の先生に送っていました。

すると、ひとつの動画を機に事態は急展開。脳梁離断を受けてから初めて出現した「フェンシング姿勢発作」という前頭葉てんかん特有の発作が獣医師の目に留まり、ノチェロくんのてんかんの原因が前頭葉にあることが判明したのです。

「これは脳梁離断をしたから分かった事実です。人間でも脳梁離断することで、原因が特定されることは脳梁離断のメリットとされています。そのメリットが猫にも適用されることが、この手術で分かりました」

猫にも前頭葉てんかん があるという事実に、獣医師たちも騒然。相談の結果、ノチェロくんは、またしても世界初となるてんかん治療手術を受けることになりました。

今回は、てんかんを起こしている前頭葉の脳梁を離断した後、脳波検査で左右のどちらから、てんかん波がでているかチェック。片方の前頭前野からてんかん波が出ている場合は「焦点切除」を、両方の前頭前野や運動野からてんかん波が出ているのであれば、「軟膜下皮質多切術」を行った後、脳波検査をして手術終了となる予定です。

高額な手術となるため、クラウドファンディングにて治療費を募集。残念ながら、プロジェクト達成には至りませんでしたが、手術を受けるに至れた人との縁や数々の支援に飼い主さんは深く感謝しています。

先進治療を進める上で、飼い主さんが肝に銘じているのは、ひとつひとつの選択を下す時に「チャレンジか実験か」と自分自身に問うこと。

「前に、大学病院の先生に、この言葉を言われました。ノチェロに対する治療は、ともすれば実験になる危うさもある。だから、チャレンジか実験かを自分に問い、「これはチャレンジだ」と胸を張れるよう決断をするようにしています」

術後の目標は、発作が現在の半分くらいになること。

「完治は難しく、もしかしたら麻痺などの後遺症が残るかもしれませんが、人間の場合は手術を先延ばしにしたほうが脳の損傷率が高いと論文に記されていたので、猫も同様なのではないかと私は考えています。できるかぎりのことをやりたいです」

■この子はひだまりのような存在

現在、ノチェロくんは飼い主さんの手厚いサポートにより、「今日」を生きています。

食事は誤嚥を防ぐため、ロイヤルカナンのウェットフードに無調節の豆乳大さじ1を混ぜ、シリンジであげているそう。お水も誤嚥の危険があるため、「ハイドラケア」という経口補助液を飲ませています。

「目を細めてご飯を食べてくれる姿が、『ウマー!』って言っているみたいでかわいいです。シリンジごはんになっても、ビールを飲んでいるおっさんみたいな『これですな!』の顔をしてくれる。この顔が見られるから、頑張れます」

排泄は膀胱をマッサージして自力排尿を促したり、圧迫排尿をしたりし、サポート。便秘の時には、圧迫排泄も行います。

「排泄時は、すごくキリっとした顔をしてくれます。特にうんちの時の必死な顔はBGMにクラシックのクシコス・ポストをかけたくなるくらいで(笑)」

おうちには他に3匹の同居猫がいますが、猫にとってはてんかん発作が怖く思えるようで、ノチェロくんとの間には距離があるよう。

しかし、他の子には絶対に譲らないこともノチェロくん相手なら譲ってくれるため、大変な状況にいることは理解してくれていると飼い主さんは感じています。

「てんかん発症前、ノチェロは暴れん坊で探検家で、色々なところに潜り込んでは助けてと叫び声をあげていました。私にとってこの子は、ひだまりのような存在。当たり前のことを涙が出るほど嬉しいと思わせてくれます」

猫の難治てんかんは稀であり、詳しい知識を持っている獣医師がまだまだ少ないのが現状。余命宣告や安楽死を推奨されることが大半であったからこそ、飼い主さんは「治療したい」という想いをくみ取り、「治らない病気を治る病気にする」と、熱意を持って向き合ってくれる獣医師が増えることを願っています。

また、自身の体験を通し、抗てんかん薬を服用している猫の飼い主さんにはMRI時の麻酔トラブルに気を付けてほしいと注意喚起。

実はノチェロくん、検査専門病院で初めてMRIを撮った際、抗てんかん薬を飲んでいたことから麻酔トラブルが発生。その病院で対処することができなかったため、飼い主さんは冷えた体を抱きしめながら、かかりつけ医に走りました。

「この経験から思ったのは、抗てんかん薬を飲んでいるのであれば、大学病院でMRIを受けたほうがよいのではないかということ。大学病院であれば、重症疾患の子の麻酔に慣れており、麻酔トラブルに対しての知見が豊富なので、いざという時でも心強いです」

そう語る飼い主さんは抗てんかん薬を投与されていなくても、神経疾患を持っていると疑われる場合は 専門的なアドバイスや検査を受けられるため、大学病院への受診を勧めています。

「都内だと、心電図を付けてMRIを受けさせてくれる大学病院もあるので、不安な場合はそうしたところに頼るのもよいと思います」

生涯の中で、2回もの世界初手術を経験することとなったノチェロくん。その奮闘記は、今後の猫のてんかん治療の発展に大いに役立つはず。頑張り続けるその小さな体にかかる負担が少しでも減るよう、応援していきたいものです。

(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)

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