新型コロナ感染者数が増加に転じたが…豊田真由子「国民の精神的負荷を緩和することが重要」

新型コロナの感染者が拡大しています。日本と世界は今どういう状況にあり、私たちの生活は今後どうなっていくのでしょうか。

■感染拡大の状況は?

全国の新型コロナウイルス新規感染者数は、7月7日に45797人となり、2か月ぶりに4万人を超えました。全国の新規感染者は、本年2月上旬に約9.4万人となり、第6波のピークを迎えた後、6月中旬に1.4万人まで減少し、その後また増加に転じました。

7月7日の新規感染者は、東京都8529人、大阪府4615人で、いずれも前週同日比2倍超となっており、佐賀(694人)と鳥取(219人)では、過去最高を記録しました。病床使用率については、基本的にはまだ余裕がありますが、沖縄では、新規感染者数が2389人で、病床使用率が49.9%と高くなっています。

ただ、こうしたウイルスの変異と感染状況の変化(感染の波の繰り返し)は、新興感染症の動きとしては、当然に想定されていたことで、公衆衛生の分野や医療現場では「また増えてきたけど、仕方ない、粛々と対応するしかないよね。」という理解がなされている状況だと思います。

感染の拡大は、日本だけの現象ではなく、世界各国、例えば、米国は一足早く本年4月下旬頃から、欧州(フランス、ドイツ、イタリア等)は6月上旬頃から増加傾向にあります。また、パンデミック当初からずっと感染が少なかったが、今年に入って急にピークを迎えたオーストラリア、ニュージーランド、韓国等も、最近また拡大傾向にあります。トレンドとしては、世界全体で拡大傾向にあり、WHOは「世界全体の新規感染者数が、欧米を中心にこの2週間で30%近く増加している」と指摘しました。

■BA.5の性質は?

今回の感染急拡大は、オミクロン株の派生型で、感染力が強まっている可能性があるBA.5等への置き換わりが進んでいることが一因と考えられます。例えば、東京都では33%(6月21~27日)、島根県では77%(6月22~27日)が、BA.5と見られるということです。世界では53%(6月26日~7月2日)と推定されています(米国CDC)。

BA.5は、BA.2と比較して、感染者増加の優位性(感染力が強い)や免疫逃避(ヒトが獲得した免疫を逃れる=ワクチン接種や過去の感染による免疫があっても、感染する)が指摘されていますが、一方で、既存のオミクロン株と比較して、重症度の上昇につながる証拠は今のところみられない、とされています。(ただし、動物実験で従来のオミクロン株と比べて病原性が上昇している可能性を示唆する結果もあり、ワクチン接種率の向上や感染による免疫が重症化を低減させている可能性がある、との指摘もあります。)

全国で、7月7日の重症者は67人、亡くなられた方は15人ということですが、早期発見、治療薬の投与、医療提供体制の充実などにより、重症化・亡くなる方をできるだけ出さないようにする、ということが引き続き重要になります。

また、たとえ軽症であっても、深刻な後遺症の残る場合もあることにも留意が必要だと思います。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              

■また行動制限がかけられる?

政府は、7月7日「現時点では、都道府県からの『重点措置』の適用要請はなく、政府として行動制限を行う考えはない」と説明しています。東京都も、想定内(1日2万人程度)であれば、時短要請等は行わない、としています。一方で例えば、島根県では7日、飲食店の人数(松江市等では4人以下、それ以外では8人以下)と時間(2時間以内)の制限要請が行われました。

各国・各地域で行われる感染症対策は、国民の考え方(①感染者増と②規制による社会経済への負の影響のバランスをどう考え、何をどれくらい許容するか)によっても変わってくるものでありますが、やはり日本は、感染抑制と社会経済活動では前者に重きが置かれる傾向にあると思います。

これについては、これまでも繰り返し論じてきておりますが、なんであれ、求める安全性の水準が高いことや、人口における感染経験者の割合が欧米(3~5割)に比してまだ低い(7.5%)こと、国の規制への抵抗感が少ないこと、感染状況は人的な対策によりほぼコントロールできると考えている(誤解されている)方の多いことなどがあると思います。規制による社会経済教育等への広範な負の影響は、実は非常に大きいものの、感染状況のように、即座に数値化・可視化がなされづらく、認識されづらいといったこともあると思います。

欧米各国で人口当たりの感染者数が日本より5~20倍程であった昨冬、各国はコロナ規制の緩和・撤廃に舵を切り、陰性の濃厚接触者は隔離不要、屋外はもちろん屋内(医療機関等以外)でのマスク着用義務の撤廃、飲食店に係る制限やイベント人数制限の撤廃といった措置を講じ、今回の感染再拡大下においても、規制を強化する動きは見られません。入国前のPCR検査による陰性証明も、基本不要とされています。

これらの国々と比較すると、我が国では、濃厚接触者はたとえ陰性であっても7日間の隔離を求められ、人との距離が2mより近ければ屋外でもマスク、入国には72時間以内の陰性証明が必要…、といった規制が依然として残っていることは、それら自体に実際に社会の感染抑止の効果がどれくらいあるかということと、各国との比較において、我が国が厳しい規制を残す必要性・合理性について、きちんと評価・説明がなされていない、という状況にあると思います。

今回の感染拡大について、「気の緩みが原因」といった類の指摘がありますが、他国より厳しく残るルールに今も皆さん従っているのであり、国民の精神的負荷を緩和することも極めて重要なことなので、当たり前のように「いつまででも、人々に緊張状態を強いていてよい」という考えには、私は賛同できかねます。

また、感染が拡大したことについて、「国が規制を緩和したことがよくない」と批判が起これば、やはり政治や行政は、過剰な規制を維持する方向に行ってしまいますし、感染した方やクラスターが発生した施設や学校等を非難するといったようなことも「子どもが、熱中症になってもマスクを外せない」といったことにつながってしまいます

誰のせいでもない、ウイルスの仕業であり、そうやって人類は歴史上、数多のウイルスと向き合ってきたという、覚悟と諦めと希望が肝要なときかと思います。

各国とも、ウイルスの性質の変化、ワクチンや治療薬の開発・普及状況、人口におけるコロナ感染経験者の割合の増加(社会における免疫の獲得)といった状況を踏まえ、「感染の拡大をある程度許容しつつ、重症化リスクの高い方をしっかりと守っていく、そして社会経済教育活動をしっかり回していく」という考え方を取ってきており、それが人類がウイルスと共生していく、ということの在り方なのだろうと思います。

■ワクチンの4回目接種は?

ワクチンの4回目接種をした方がよいか?と聞かれます。誤解もあるようなのですが、4回目接種の対象者は、現在、①60歳以上の方と②18歳以上で基礎疾患等のある方に限られており、3回目までのように、希望する方がすべて接種できる、ということにはなっていません。

医療や介護従事者など、ウイルスへの曝露リスクが高い、感染しない・させない必要性が、より高い仕事に従事する方は、接種できるようにした方がよいのではとも思うのですが、現状は、たとえ有料でよいから接種したいと言っても、接種することはできません。(自治体によっては、3回目を接種した方全員に4回目の接種券を送付しているところがありますが、それは、基礎疾患のある方などを自治体の側では把握ができないため、便宜上全員に送付しているだけで、あくまでもその中で該当する方だけ受けてください、という趣旨になります。)

ただ、今回の感染急拡大を受け、政府は7月7日、「今後60歳未満の(一般の)方への接種についても検討を進めていく」と述べました。

ただ現在、対象者が限られているのは、ウイルスの型が変異していく中での4回目接種については、各国の研究でも、感染予防効果はそれほど期待ができず、一方、重症化予防の効果は認められることから、重症化リスクの高い方に接種していただく、という考え方によるものです。先行して4回目接種を開始した国々でも、対象を高齢者、免疫不全の方(ドイツ、イスラエルは、加えて、医療・介護従事者)等に限っており、いずれにしても、日本を含め各国とも、今年の秋頃と期待されている、オミクロン株に対応した新たなワクチンの開発・普及を待っているという状況にあります。

   ◇   ◇

新型コロナパンデミックは、まだしばらく続きそうです。個人としては、基本的な感染対策を講じながら、気持ちを楽に持って、互いに責めない。そして、社会・国として、この先コロナとどう付き合っていくのか、ということを、改めてお一人おひとりが考えていただくことが、パンデミック下ではとても大切ではないかと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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