認知症の母「暗証番号って、なんや?」母の貯金がおろせない…漫画家が直面した親の介護のリアル

漫画家の夫と2人の子どもの母で、自身も漫画家である喜多桐さん。「同居していたパートナーが急死した」という一報を受け、東京から大阪の母親の元へ。夫妻はそのとき初めて母親が認知症であることを知りました。この先、一人では生活できないことがわかると、一緒に東京に連れて帰ることにしました。そのときから介護のリアルを経験することになったのです。

■母、暗証番号を忘れる

 認知症の母を引き取り、大阪の母の部屋から持ってきた預金通帳とキャッシュカードで母の年金を引き出しに銀行のATMへ。母の暗証番号は昔から同じ番号のはずでした。どういうことだ?「暗証番号が違います」と、間違いばかり何度も指摘するATM。いや、私が間違っているんだATMが正しい!番号が変ってる!お母さん、暗証番号教えて!と母に問うと「暗証番号って、なんや?」。暗証番号という言葉自体を忘れていました。恐るべし、認知症。

 大阪で母と暮らしていたカレシさんがどうやら変えたようです。カレシさんのご家族に連絡をし、思いつく限りの数字を聞きだし、4日ほど掛かって、ATMから年金の引き出しに成功すると、ガッツポーズ。恐ろしいぐらいの達成感でした。

■母、もう字が書けない

「こんな鼻くそみたいな貯金、ええやん!」と、字を書きたくないがために、怒る母。「今はこの鼻くそみたいなお金が必要なの!」と応酬する私。いいですか、お母さん。我が家は今、子どもたちにどれだけお金が掛かっているか分かりますか?特に子どもの学費。明細をみればびっくりしますよ。正しき庶民の家には鼻くそほどのお金が必要な事を分かって下さい、お母さん。自分のものは自分のお金で買って下さると助かります。

 と、もう、母を引き取ったはいいが、我が家も貯金も無ければ、私の人生で一番お金が掛かる時期に到達しており、生活に余裕などこれっぽちもない。ですが、無理なものは無理。字なんてもう、とっくに書けない母。いやいやを繰り返す。

 くせ字ではあるけれど、母の書くふっくらとした個性的な文字が好きだった。もう、字を書くことが出来ないなんて。認知症というか、老いというか、寂しいな。

 などと感傷に浸ってる暇はない。母の手にペンを握らせその手を私の手で、わしっと掴み、母、自動筆記。母の手、自分の意思とは無関係に娘である私の指令どおりに文字を書かされる。

 嘘でも偽造でもない、母の手が書いた文字だ。委任状だ。司令塔の私の手はあったものの…。

 無事、郵便局から母の貯金をおろし安心。この先、母に掛かる細々したものの支払いに何とか役に立った、鼻くそ程度のお金という名のわりとまとまった金額でした。

■おしゃれは生きる力

 自宅近くのファストファッションのショップに行って、母の服を一緒に選んでいるとき、母はとても嬉しそうでした。新しい服は人を幸せにすることを、再確認。おしゃれは生きる力を与えてくれますね。

 夫の現在84歳になる母も、特別養護老人ホームに入所していますが、入所当初慣れない環境にみるみる弱っていき、食も細くなりました。ですが、新しい服を持って行ったときは、顔がぱあっと明るくなり元気になります。ホームの職員さんたちも、素敵よ、お似合いですよ、と母を褒めてくれます。人間って年老いてヨレヨレになっても褒められると嬉しい生き物か。そして、服ってすげー、と何度も思う私でした。

 もう、自分でお洋服を選べないのをいいことに、おもいっきり華やかな色を着せています。明るい色合いの新しい服を身に着けたとき、母たちはとても嬉しそうです。母たちの嬉しそうな顔は、私へのご褒美のようなもので、少しは親孝行できているのかな、なんて思います。

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