効果が上がらなかった自公の選挙協力、立民の後退は時代の流れ 豊田真由子が2022年参院選をおさらい

今回の参議院選挙は、自民の勝利、立憲の後退、維新の躍進、新興政党の台頭といったことが特徴付けられます。前回のコラムでは、“自民圧勝”の実態、野党多党化などについて考えました。今回は、公明党、選挙協力、立憲民主党について、今後の政治の流れにも影響を与えると思いますので、少し詳しく見てみたいと思います。

■公明党、選挙協力、野党共闘

公明党は、改選議席から比例で1減らし、13議席(選挙区7、比例6)となりました。

下記は、過去3回の衆参議院選挙における公明党の比例得票率の推移ですが、やはり今回参院選の減少は大きいことが分かります。

参院選:13.5%(2016)→13.1%(2019)→11.7%(2022)

衆院選:13.7%(2014)→12.5%(2017)→12.4%(2021)

公明は、支持者の高齢化等による組織力の低下や、新型コロナによる活動の制限といったことが、以前より指摘されていますが、今回の急激な減少は、自公の選挙協力が十分結果を出さなかったことが大きいのではないかと考えます。

「政党同士の選挙協力って具体的にどうやるの?」というご質問を受けることがありますので、この機会に少し説明させていただきます。(なお、連立や選挙協力の是非については、ここでは論じません。あくまでも実態をお話しするという趣旨です。)

自公は、衆院の選挙区と参院の一人区では必ずすみ分けをし「相互推薦」を出します。(ちなみに、維新と公明も、すみ分けをしています。)

一方、参院の複数区では、自公ともに候補者を擁立するところが多く(東京、神奈川、埼玉、愛知、大阪、兵庫、福岡)、そこでは自民党は、自民候補者に「公認」、公明候補者に「推薦」を出します。この場合、候補者同士は議席を争う「敵」になるわけですが、自民党の方針と現場の動き方としては、(自民支持者の数の方が公明支持者の数よりも多いので)自民の票を公明候補者に回す、ということをします。

具体的には例えば、自民の衆院議員(参院選でも、地元で実際の実働部隊となるのは、それぞれの地域選出の衆院議員や地方議員となります。選挙区選出の参院議員や候補者は、当該都道府県の全域が選挙区となるため、普段も選挙の際も、緻密には回り切れないのです。)が、地元の支持者に対して、例えば5人家族であれば、「4人は自民候補者、1人は公明候補者への支持」をお願いをするといった形です。

「自分は自民党員なのだから自民党と書きたい」と言われたりしますが、「自公の候補者ともに当選することで、国政で連立政権が機能するし、衆院選では自分(衆院議員)を応援してもらっているから、ぜひお願いします」と説得します。強力な支持者ほど、状況をよく理解し、協力してくれたりします。

衆参選挙の比例区についても同様のことを行います。

いずれにしても、「選挙協力」というのは、そんなにたやすいものではなく、形式的に「推薦」を出したから、あるいは、街頭演説でその旨を言葉にしたからといって、相手の党に票が上乗せされるわけではなく、自分の個々の支持者へのアプローチをみっちり力を入れてやらないと、そう簡単に、人は支持政党と違う政党への投票はしてくれないというのが、実際に経験してみての実感です。(なお、大物の方の場合は、もっと機動的・効率的にやっているのだとは思います。)

翻って、今回の参院選では、この自公の選挙協力があまり成果を上げなかったのではないかと思います。今回は、多くの一人区で、野党共闘による候補者一本化が行われなかったこともあり、早い段階で自民候補優勢との見込みが立てられ、地域の自民党関係者に「公明党の協力を得なくては、自民の候補者が当選できない」という危機感が乏しく、それ故、地域によっては、「選挙区で協力してもらう見返りに、比例で公明党に票を回す」という動きが鈍かったのではないかと推察します。そして、そのことは、次の衆院選などで、今度は自民党の候補者に対して影響を及ぼす可能性も出てくるだろうと思います。

ちなみに、“選挙協力”は与党だけの話ではありません。前回の参院選や2017年の衆院選では「野党共闘」が行われましたが、最近はさかんではなくなりました。本当は、候補者を一本化するだけではなくて、候補を立てた政党(A党)は、候補を立てなかった政党(B党C党)に対して、比例区で自分たちの支持者の票を回す、ということが行われないと、候補を立てなかった政党(B党C党)としては、実際にメリットが無く、「今後もぜひ共闘しましょう!」ということになりにくいと思います。

「他党に票を回す」というのは、相当のテクニックや蓄積と、地元支援者との密な関係等が必要ですし、やはり主義主張の異なる政党が協力するにおいては、大義や理念だけではなく、実利が必要なのだと思います。実はこれが、「野党共闘」がうまくいかないことのひとつの理由としてあるのではないかと、私は思っています。

さて、自公連立については、憲法改正や国防を巡る考え方の相違や、今回の参院選の相互推薦を巡るゴタゴタなど、ぎくしゃくしている面もあると言われますが、連立が解消されるようなことは当面ないだろうと思います。

ただ、与野党問わず、どの政党もですが、国際情勢や国内の社会経済状況なども、どんどん変化していく中、それぞれの独自性を発揮しながら、国と国民のためにどういう役割を果たし得るかということを考え、実現しているかどうか、国民のニーズにきちんと応えているか、といったことを、国民は冷静に見ていると思います。

■立民の今後

今回立憲民主党は、岩手、新潟、山梨(以上現職)、北海道、東京、三重(以上現職引退による新人)で、自民に議席を取られ、選挙区で6議席を減らしました。比例では改選7議席(得票率12.8%)を維持しましたが、比例での「野党第1党」の座は、8議席を得た維新(同14.8%)に譲りました。

<立民の比例得票率>

参院選:22.9%(民進21.0+生活1.9)(2016)→15.8%(2019)→12.8%(2022)

衆院選:20.3%(民主18.3+生活1.9)(2014)→19.9%(2017)→20.0%(2021)

そうはいっても、比例では、立民の労働組合出身の候補は5人全員が当選しましたので、それぞれの労組の結束力はやはり強いものがあると思います。

(なお、情報労連の立民候補者は11.2万票で当選、電機連合の国民民主の候補者は16.0万票で落選しており、基幹労連・JAMの候補者は、前回国民で14.3万票で落選、今回立民で12.5万票で当選しています、そこは政党名での得票数の差によるもので、シビアな世界です。)

「最大野党であるはずの立民が、与党批判票の受け皿になっていない」「民主党政権下の記憶が国民に刻まれている」といった話があります。確かにそれはそうなのですが、そもそも立民の後退は、主要支持母体である労働組合の対応の変化、時代の流れも大きいと思います。

労働組合=野党支持というイメージが強いかもしれませんが、データ的には必ずしもそうともいえません。連合が組合員を対象に実施したアンケート調査では、2016年に旧民進党支持が39%でしたが、2019年は立憲民主と国民民主の支持を合わせて34・9%になり、一方、自民支持は17・3%から20・8%になったとのことです。

最近の連合の芳野会長と自民の接近は、多方面に驚きを持って受けとめられ、連合内部で批判もあるところですが、組合の中にも「自分たちの思いを政策として実現するためには、与党を支持するべき」という声もあり、一枚岩ではないようです。

最近は、投票に行かない組合員も増えており、特に若い組合員(34歳以下)で、立民と自民への投票率の逆転現象が起こっていると、JAM(ものづくり産業労働組合)の方が、テレビ番組で昨年の衆院選の「組合員の年代別投票行動」のデータを出して説明しておられました。

労組に限らず、一般的に、政治に無関心・諦めを感じる人が増えているということ以外に、主体的な組合員の中でも「労働者が団結して野党を支援し、政治に影響力を及ぼしていく」という手法が、魅力的・現実的なものに映らなくなっている等、いろいろな背景が考えられますが、今後の趨勢は、やはり立民・国民・労組関係者自身が、こうした状況をどう分析し、どう対処していくのかにかかっているのだろうと思います。

◇ ◇

二大政党制であれ、多党連立であれ、「政権交代の可能性がある」ということが、政治の場に、緊張感や自律心を持たせる役割を果たすと思いますので、政権を担うだけの能力や経験をどう身に付け、国民の信頼を得ていくか、それぞれの政党の方が(引き続き)真摯に考えていただくことが大切だと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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