わたしたちはどう行動すればいいの?豊田真由子「発想転換と行動変容が必要」 第7波と向き合う<前編>
新型コロナが過去最多の新規感染者数を記録しています。今が一体どういう状況にあって、これまでとどう違っていて、どう行動すればよいのか、国の方針変更の意図なども踏まえて、考えてみたいと思います。
■現下の状況
まず、今回の大幅な感染者増も、想定されていたことではあります。パンデミック当初より申し上げている通り、新興感染症の感染の波というのは大小何度も繰り返し続き、そして、新型コロナのように、ここまで世界的に感染が広がった場合、そう簡単には収束はしません。
そして、今回の第7波の感染者急増は、日本だけの現象ではなく、世界全体の感染者数が6月中旬から増えてきており、米国、フランス、ドイツ、イタリア、韓国、オーストラリアなどで、一日当たり5~15万人程度の新規感染者(直近7日間平均)となっており、また、人口当たりの感染者数でみれば、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、韓国、イタリアなどでは、日本より多くなっています(7月24日現在)。オセアニアや東アジアといった、これまで世界の中でそれほど感染者が多くなかった地域が目立っているともいえます。
パンデミック当初からの累積の感染者数でいえば、米国9000万人、フランス3300万人、ドイツ3000万人、英国2300万人、イタリア2100万人、韓国1900万人、日本1100万人、オーストラリア910万人といった状況になっており、また、各国の全人口に占める累計感染者数の割合は、デンマーク55%、フランス50%、イスラエル49%、ベルギー38%、韓国37%、ドイツ36%、オーストラリア、イタリア、英国いずれも35%、米国27%、日本9%といった状況になっています。
一方、重症者や亡くなる方については、各国とも、これまでよりも低く抑えられている状況にあります。これには、ウイルスの性質の変化、医療の対応力、ワクチン・治療薬の普及、いわゆる集団免疫の獲得、国民の理解の進展などの様々な要因が関わっていると推察されます。
■発想転換と行動変容が必要
新型コロナウイルス感染症についての考え方、特に感染者に対する行動変容をする必要があると思います。
感染者が極めて多い一方で、重症化する方が少ない、という状況においては、重症の方に必要な治療を迅速に提供するととともに、医療の逼迫を防ぎ、限られた資源を必要なところに有効に活用するためにも、また、過剰な規制による社会経済活動に生じるマイナスを小さくするためにも、すべての方に一律ではなく、症状やリスクに応じて、医療・行政も、患者の側も、対応を変える必要があります。
7月中旬の新規陽性者のうち、60代以上の方が占める割合は約1割ですが、入院患者に占める60代以上の方の割合は約7割となっています。すべての方に同じ対応をする・求めるのは、合理的ではありませんし、逆に、救うべき人を救えない状況を招くおそれもあります。
供給サイドを増やす、例えば、潜在看護師の方へのアプローチや病床確保などの方策を行っていくことはもちろん必要ですが、どんなに医療提供側を増やしても(そもそもそんなに急激には増やせません)、一方で、感染者が激増し、無症状や軽症の方まで含めて医療機関に押し寄せては、対処することは叶いません。
もちろん、人工呼吸器やECMOの装着が必要な方などは、入院して即座に必要な治療を受けていただく必要があります。一方で、重症化リスクの低い方が無症状・軽症の場合に、発熱外来に行く必要性やメリットはあまり大きくありません。モルヌピラビル・パクスロビドといった、現在薬事承認されている新型コロナ治療薬は、重症化リスクのある方に重症化を防ぐために投与されるもので、それ以外の方には、解熱薬などの対症療法しかありません。であれば、ご自分で市販の解熱薬を飲むのとあまり変わらないということになります。
今回政府が、発熱外来や薬局、自治体からの郵送などの方法で検査キットを無料で提供することにした背景は、医療機関の逼迫を防ぐためにも、症状のある方が自身で検査をし、陽性の場合は自治体に連絡し、自宅待機をしていただく、ということを前提にしています。
またパンデミック当初は、社会に感染を広げないためにも、陽性となった方は、無症状でも、できるだけ自治体の確保した宿泊療養施設などに入っていただくということが行われてきましたが、現在のように市中感染が大いに拡大した状況下では、実際そうしたことにどれだけの意味があるのか、ということも考えるべきだと思います。
もちろん、軽症だからケアしなくていいということではなく、容態が急変することもあり得ますので、特に重症化リスクの高い方を中心に、ご家族、行政・医療等も、目配りをしていただく必要はあると思います。
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「新規感染者数が過去最多」「医療逼迫」「行動制限なしで果たして大丈夫か」といったセンセーショナルな報道が続きますが、実際それはどういうことで、2年半で状況はどう変わってきていて、問題は何で、個人や社会にとって最適な行動とはどういったものか、といったことを、可能な限り提示してもらわなければ、不安と混乱を来すだけだと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。