「ちょっと騒ぎすぎ」…桜島、初の警戒レベル5で住民から意外な反応 研究者も「普通の爆発、風評被害が心配」
24日夜に噴火警戒レベルが初めて最高の「レベル5」に引き上げられた鹿児島市の桜島。その後、噴石を伴う噴火はみられず、27日夜にはレベル3の「入山規制」に引き下げられた。筆者は偶然にも26日から28日にかけ、鹿児島県内に滞在。26日にフェリーに乗って桜島を訪問し、桜島を見続けて42年目となる京都大学火山活動研究センターの井口正人教授を直撃取材した。
まさかのタイミングでの訪問となった。桜島の噴火警戒レベルが最高の5に引き上げられたのは鹿児島に出発する2日前。初めてのこととあって、何とも言い様のない不安に襲われた。
レベル5の上はなんのか。火山の噴火?しかも大噴火したらどうなるの?溶岩がドロドロ流れ込んで、周りは火の海に?ハワイのキラウエアやフィリピンのピナツボ火山が頭に浮かび、さながら戦地にでもに赴くような感覚。しかし、鹿児島空港に到着すると、そこには拍子抜けするほどの日常があった。
「山本さんが鹿児島に来るのを桜島も喜んでます。噴石が飛び、噴煙が上がったと言っても、そんなに気にしていません。いつもと変わんない」
おいおい、それはいくらなんでもしゃれにならんでしょう。そう思ったが、これは現地の人の正直な思いから来る歓迎の言葉だと感じるのに時間はかからなかった。
鹿児島市の中心部、天文館はいつも通りの賑わい。「噴石が2・5キロも飛んだ」というと確かに尋常ではなく、大阪の友人からは「ホンマに行くの?無事に帰って来たら飲みに行こう」とか、東京の友人からは「そんなとこ行って、大丈夫なのか」というメールも届いた。しかし、地元の人にとって、この程度の噴火や噴煙はいつもと変わらない1日のようだ。
■地元住民は「噴火より灰」を心配
実際に現地の人に聞くと、こんな答えが返って来た。
「わたしたちは桜島のことを桜島先輩と呼んでいて、毎朝見上げています。最近元気がなかったので、ちょっと心配していたんですよ。むしろ、わたしたちが気にしているのは灰の方。洗濯物や車の汚れ、靴が傷むし、傘をささないといけない」(霧島市在住、30代女性)
「レベル5になった夜は疲れて寝ていました。空振も感じなかったし、起きたらレベル5でしょ。何が起こったんだ、と浦島太郎のような気分でした。テレビや新聞はちょっと騒ぎすぎ。風評被害が心配ですよ」(垂水市在住、50代男性)
そこで、26日午後9時発のフェリーに乗って、アポを取っていた京都大学防災研究所火山活動研究センター教授の井口正人さんがいる桜島を訪問。解除後も追加取材した。
--まず、驚いたのはここ鹿児島と他の地域との温度差。レベル5ということで身構えていたんですが、鹿児島空港に着くと「桜島が喜んでいる」と歓迎されました。
「そうですか。私もその感覚に近いですよ。レベル5なんて、そうそうないことなので。ただ、観測を始めてからの歴史を考えると、今回のは大きくもなく小さくもない。普通の爆発と言ってよく、地盤変動や地震動、空気振動もよくある記録。異常なところはないと思っています」
■火山の年齢でいえば桜島は、まだ1~2歳児
--レベル5というと凄いことのように感じられます。次はどうなるのだろうかと。初めて5段階の5になった理由は?
「最初に断っておきますが、噴火警戒レベルは、火山活動の活発さを示すものではないということです。噴石が2・4キロを超えたら噴火警戒レベルを5に引き上げることになっている。基準を満たしたということ。行政向けといっていいでしょう。初めて、初めてと騒ぐのではなく冷静になる必要がある。今回はすぐに収束すると思うが、国道が止まっており、風評被害が心配です」
--そこまで心配しなくていいということですか?いま桜島の地を踏んでいるので安心しました。
「少なくとも大正大噴火のような兆候は見られない。今回のレベル5に相当する噴火は、67年間の間に、確認できているだけで20回は起きている。1985年には1年で6回発生しています。2020年には噴石が3キロを超えたが、数日たって分かったというケースもあります」
--今後の見通しについては。レベル5はいつまで続きそうでしょうか。
「桜島全体としての活動は低調と評価している。いまの状態であれば、だんだんと収まっていくとみられ、27日にはレベル4かレベル3になるとみています」
--桜島を見続けて42年になリますね。
「桜島の最初の爆発は2万5000年前と言われている。火山の年齢からすると、まだ1歳児か2歳児のようなもの。その割りに図体がデカい。まだ若いからこれからも活動は続いていく。研究には事欠かない山。ただ観測データが似ているからと言って、同じことが起こるとは限らないのが難しいところです」
--今回の警戒レベル5の対応、判断などについて、思うことはありますか。
「今後も2、3年に1回は警戒レベル5というケースはあるでしょう。あくまで警戒レベルであって、火山の活動レベルではない。議論の余地はあるし、運用が適切であったかどうか、基準などを含めて検討し直す必要があるのではないでしょうか」
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今回、爆発したのは桜島の南岳。かつて2万人が住んでいたという桜島には現在も4000人余りが住んでおり、24日には有村町全域と古里町の一部の33世帯51人に避難指示が出された。また、垂水市とを結ぶ国道224号線も通行止めとなっていた。しかし、井口教授が分析していた通り、27日には警戒レベルは3に下がり、非難解除が出された。
私自身は26日から28日まで滞在。桜島をグルッと1周する機会に恵まれ、あらためて桜島の恵みを感じ、桜島が地元の人々に愛されていることを実感した。
(まいどなニュース特約・山本 智行)