迎えた保護猫は脳障害…「今の家で暮らすのは難しい」「一緒に支えてくれる猫がいれば」 悩んだ飼い主の決断は
せっかく保護猫を迎えるなら、健康な猫をと考えるのが人の常。障害のある猫をわざわざ選ぶ人は多くありません。居住空間を整えたり、膨大な医療費を準備したり大変です。それでも出会ってしまったなら、QOL(Quality of Life)を上げてあげたいと考えてしまうのも人間ではないでしょうか。
今は穏やかに暮らすおはぎちゃんも、QOLを考えてもらった1匹です。おはぎちゃんは先天性の脳障害があり、はしゃぎたいのに体がついていかない状態でした。そのせいでいつもイライラ。最初の飼い主の男性も、何が悪いのか分からず悶々と過ごしていたのです。
それに気付いてくれたのが、親戚のMさんです。おはぎちゃんが迎えられて1週間ほどの時、家に遊びに来てくれました。彼女は茶トラのこたくんと暮らしており、猫については彼より詳しい。一目でおはぎちゃんが「おかしい」と気付いたのです。猫ならこんな行動はしないと。
おはぎちゃんはジャンプができず、ふらつきがあり、よくぶつかり、よく転ぶ。おもちゃを差し出しても遊び方が分からず、ちゅーるの食べ方も分かりません。Mさんはすぐ動物病院へ連れていき、検査をします。その結果、脳障害の疑いが強いと分かりました。
男性はこれを聞き、思い出したのが譲渡時の保護主さんの様子です。男性一人暮らしでもどうぞどうぞと、すんなり譲渡。家まで来ることはありませんでした。何より、名前のついた生後6カ月の猫を譲ってくれたのが不思議だったのです。これで合点がつきました。
しかし、ここで保護主さんを恨んでも仕方がありません。おはぎちゃんにこれからより良い人生を歩んでもらうことが、飼い主の役目。縦運動が出来ないなら、広い場所で思い切り走らせてあげたいと男性は考えました。
でも、今の部屋で思い切り走らせることは難しい。都会のワンルームですから、狭くはないものの広くもありません。引っ越しも検討しましたが、通勤を考えると現状維持がベター。
散々悩んだ結果、障害に気付いてくれたMさんに託すことにしたのです。彼女は地方在住で、広いマンションに住んでいます。何より、こたくんが一緒にいてくれることが大きかった。いくら人間が色々とおはぎちゃんのことを考えても、猫目線がありません。猫にしかできないサポートを期待したのです。
さあ、重大任務を負ったこたくん。何か起きるのはMさんの様子で感じているものの、猫の頭では何があるか理解できません。Mさんがバタバタしているのを眺め、大きなストレスを抱えたよう。血尿が1週間ほど続いたのです。
この様子にMさんは、おはぎちゃんを引き取るのを止めようかと悩みました。おはぎちゃんに幸せになってもらいたいと願うことが、こたくんを追い詰めることなら…。しかし、脳障害のあるおはぎちゃんに新しい里親を見つけるのは困難。悩んだ結果、一度2匹を会わせることにしました。
2022年4月、ついにおはぎちゃんはMさんの家へ迎えられます。これでこたくんは「そういうことか」と分かってくれたみたい。最初は警戒していたものの、1カ月も経たないうちにおはぎちゃんの世話を焼き始めます。おもちゃの遊び方を教えたり、良い寝床を教えたり。これにはMさんもビックリ。少しのサポートを期待していただけなのに、こんなに積極的になってくれるだなんて。甘えん坊だったこたくんの成長がまぶしくてたまりません。
おはぎちゃんはようやく走り回ることができ、徐々に筋肉量も増えていきます。体つきもガッシリしてきて、今ではパッと見ただけでは障害が分からなくなりました。これには元の飼い主さんも大喜び。おはぎちゃんが幸せに暮らしてくれることが嬉しくてたまりません。そんな彼のために、Mさんは毎日おはぎちゃんの写真を送っています。
おはぎちゃんとこたくん、2匹の猫のお世話をしながらMさんは、最近つい口から出た言葉があるんですよ。
「私、幸せだな」
猫たちの幸せを考えていたはずなのに、QOLを上げてもらっているのは自分だと。今まで幸せか否かなんて考えたこともなかったのに。
誰かに必要とされる幸せもある。それを教えてくれたおはぎちゃんは、今日もMさんが用意してくれた低いキャットタワーに登って、外の景色を楽しそうに眺めています。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)