リスクあっても取り組む理由は? ジャイアントパンダの野生復帰などテーマに中国の専門家が講演 “タンタン支援”で神戸・王子動物園に来園
中国でのジャイアントパンダの保全活動の現状を広く知ってもらおうと、「中国ジャイアントパンダ保護研究センター」の専門家による講演会が7月31日、神戸市立王子動物園で開かれました。講師は、同園のジャイアントパンダ、タンタン(26歳メス)の心臓病治療や飼育への助言のため来日した同センターの飼育員と獣医師。最前線の取り組みが聞けるとあって関心が高く、定員200人のところ、約3倍の応募がありました。
飼育員の王平峰(おう・へいほう)さん、獣医師の成彦曦(せい・えんし)さん。いずれも2004年から同センターに勤務しており、王さんは飼育・繁殖をはじめ、人工哺育や疾病個体の看病など豊富な飼育経験を持ちます。成さんは疾病予防と治療等の臨床業務や、野生のジャイアントパンダの保護や野生復帰にも従事。2人は5月から8月初めまでの予定で来園。王子動物園のタンタンは、このセンターが持つ4基地の一つである「臥龍繁殖センター」で生まれました。
飼育員の王さんは「ジャイアントパンダ1歳までの成長の変化」をテーマに話しました。
ジャイアントパンダの妊娠期間は70~200日、誕生時の体重は100~200g、目や耳などの発達が不十分な「早産児」のため、野生での生存率はとても低いといいます。王さんは「飼育下では技術の向上や研究が進んで母体の状態が良くなり、以前より大きく生まれるようになった。大抵が1頭か双子で、割合は半々」とした上で、「1頭だけならお母さんに任せ、双子の場合は1頭はお母さん、1頭は人工哺育にして定期的に交換する。母乳は最初3日くらいは薄緑色で、その後、乳白色に変化する」などと紹介しました。
体の特徴としては、生まれた時は全身ピンク色で、5日目くらいからかすかに目の周りや肩の部分の肌が黒ずみ、白黒の毛が生えてパンダ模様に。肩部分の黒い地肌はいずれピンク色に戻り、大人のパンダの地肌は全身ピンク色だそうです。王さんは「生後2カ月で足の長さなどの数値は3倍ほどになるが、尻尾の長さはほとんど変わらず、大人になってもほとんど同じ」と話していました。
また、中国では子パンダが集団飼育される「パンダ幼稚園」が有名です。しかし王さんは「母親から離して子パンダを集める飼育方法は、数を増やすために必要として行ってきたが、今はあまり見られない光景になった。赤ちゃんが独立するまでお母さんと一緒に過ごし、パンダがパンダとして生きるため、パンダとしての行動をお母さんから学んでいる」と指摘しました。
獣医師の成さんは「野生ジャイアントパンダの救護と野生復帰」について話しました。
ジャイアントパンダ自然保護区は67カ所あり、生息地は海抜3000m以上の高所。病気やケガの疑いがあるパンダが見つかると、専門スタッフが現地に派遣されます。成さんは「対応が必要な場合は麻酔をかけて捕獲し、専門のセンターで治療、療養する。回復状況に応じて野生に戻す判断をするが、病気、高齢、あるいは幼いなどの理由で野生に戻すのに適さない場合もある」としました。
「野生のパンダは、動物園のパンダとは違って『可愛らしい』だけではなく、猛獣であり、近づくことは簡単ではない。救護のために現地の住民も参加し、険しい山中でパンダを運ぶために協力を惜しまない」と成さん。その上で、「昨年42日間にわたり救護し世話をした野生パンダを野外に放つ時は、気持ちよさそうに眠っている姿を見て、別れるのが寂しかった」というエピソードも披露していました。
野生個体の救護のほか、飼育下のパンダを野外に放つプロジェクトにも力を入れているといい、「目的は野生パンダの遺伝子の多様性を高め、絶滅の危機にある野生集団を拡大、強化して、野生パンダの数を安定的に増やすこと。野外の林の中に“半野生”の環境を用意し、そこで出産、育児をしてもらう。人間はあまり干渉しない方法で進め、接する必要があれば、パンダに見える迷彩服を着る」そうです。
赤ちゃんパンダは2歳くらいで独立します。野生の環境で生活するトレーニングを行い、野外に放つのに適した個体を選ぶことになります。
成さんは「これまで11頭が野生復帰し、うち9頭が元気に暮らしているが、大変残念なことに2頭は事故で亡くなった。このプログラムにはリスクはあるが、その経験は今後に生かされ、教訓となる」と強調しました。
また野生パンダは、捕食や縄張り争いでクマ、イノシシ、ヒョウなどに襲われることも。「パンダの体は強靱で、性格は獰猛。ケガの原因で一番多いのは配偶者をめぐる争いだ。ペットのようにぬくぬくとした環境でパンダを飼育するのは簡単だが、野生下で自立、独立させるのは本当に難しい」とも話していました。
同園内の動物科学資料館では、特別展「ジャイアントパンダは今…~タンタンのふるさとからのメッセージ」を開催中。中国ジャイアントパンダ保護研究センターの取り組みを紹介しています。
(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)