理由なく暴力をふるう母親に振り回され…自殺未遂、そして再出発 「親ガチャ」にハズれた壮絶体験、漫画にした作者に聞いた
「子どもは自ら親を選べない」ことを意味する「親ガチャ」という言葉。貧困や児童虐待に関する報道にあわせて、耳にする機会が増えてきましたが、あわせて壮絶な親子関係を描いた作品も近年増えてきています。マンガ家・上村秀子さんも「親ガチャ」で苦しんだ過去を持つ一人です。このたび自身の経験をもとにコミックエッセイ『親ガチャにハズれたけど普通に生きてます』を発表。多くの人たちの共感を集めています。
■「母は美しかった。私はとても誇らしかった。…それと同時に、恐ろしくもあった」
そんな回想で始まるストーリー。理由なく母親が暴力をふるう家庭で育った上村さん。小学生のころに両親は離婚。母親の再婚後は経済的にも苦しくなり、暴力は一層ひどくなっていきます。母親におびえながら高校卒業後の進路を選択した上村さんですが、多くない収入も搾取されたほか、仕事上で悩みを抱えたときも突き放され、義父を含めた両親が「自分の味方」でないことを痛感してしまいます。
お金をためて実家を出たあとも、母親との葛藤は続きます。そこに届いた「母親が自殺した」との連絡…。運命を恨み、「幸せに見える、完璧な人間になりたい」と無理を重ねますが、精神のバランスを崩し、自らも自殺を図ろうとしてしまいます。しかし、友人の手助けを得て、少しずつどん底の状態から抜け出していきます。作品の最後で上村さんは「もう死のうとは思わない」と語ります。
普通の生活を手に入れた一方で、今でもたびたび母親の夢を見るという上村さんに、今の心境を聞きました。
■作品『親ガチャにハズれたけど普通に生きてます』当時の心境は?
--こちらの作品『親ガチャにハズれたけど普通に生きてます』には、幼いころから大人になっても続く、お母さまとの関係からくる違和感や辛さ・寂しさが描かれています。当時の心境はどのようなものだったのでしょうか。
上村さん:幼いころから、母親の理不尽な振る舞いには怒りや悲しみを覚えていましたが、「親は子どもを愛すもの」という一般的な固定観念を捨てることができませんでした。親が自分につらくあたるのは、「愛情の裏返し」なのではないかと期待していたのだと思います。しかし大人になるにつれて、その期待はあきらめに変わっていきました。
--お母さまが亡くなったあと、「幸せに見える人間」になりたいと懸命に努力されますね。当時の心境と現在の思いを教えてください。
上村さん:親からの虐待の末に、母親を自死で失った自分が、不幸な人間だと思われたくなかったし、思いたくありませんでした。作中にも描きましたが、幸せな家庭に育った人たちを好ましく思っておらず、いわゆる「機能不全家庭」で育った自分が、彼らより幸せになることで、ねたましく思う気持ちを打ち消したかったのだと思います。今は「他人に見せるための幸せ」よりも、「自分自身がいかに楽しく人生を過ごせるか」を考えています。
■親子であれ別個の人間であると意識することで、楽になれる部分もある
--お母さまの自死、そしてご自身も自殺未遂を試みるという壮絶な現実。ここから前を向くことができたのは、どのような過程があったのでしょうか。
上村さん:この本を描くにあたって、当時のことを思い出し、寄り添ってくれた友人たちの優しさを、心から感じることができました。ただ、辛いときにどんなにあがいても、何かに助けを求めても、特効薬のような手軽さで、瞬時に暗い気持ちを消すことはできないと思っています。いろんな過程があって前を向くことができたのだとは思いますが、やはり立ち直るためには「休息の時間」が必要だと思っています。
ですので、(悩んでいる方は)辛いときにはぜひ、辛いことから逃げて欲しいと思います。他人からどう見えたとしても、自分がふがいない人間だと思っても、全部許して休んで頂きたいです。人生は恐ろしいほど長いので、そんな休息は長い目でみたら一瞬のことです。
--「親ガチャにハズれた」と親子関係に悩んで大人になった人、逆に自分の子どもとの関係に悩んでいる人など、いろいろな方々が作品を読まれていると思います。何かメッセージはありますか。
上村さん:無責任な言い方かもしれませんが、どんな親から生まれたとしても、生まれてしまったものは仕方ないので、全部あきらめてしまった方が楽になれるのかな、と思います。親と子どもはそれぞれ別の人間なので、親が最低な人間だからといって、自分がそれにならう必要はどこにもありません。
私は親になったことはありませんが、子どもとの関係もそれと同じだと思っています。子どもの性格がどうなるかは、親の責任によるものではないと思っていますので、繰り返しになりますが、親子であれ別個の人間であると意識することで、楽になれる部分もあるのかなと思います。
そして、他人は自分の期待通りに動いてくれませんが、自分は自分の幸せのために動くことができます。
今回の作品には、周囲にとらわれず、自分自身の幸せのために生きて欲しいというメッセージをこめたつもりです。親との関係に悩んでいる方や、親の自死に責任を感じて悩んでいる方の一助になればと思っています。
◆上村秀子(うえむら・しゅうこ)神奈川県生まれ。東京都在住。マンガ家。機能不全家庭で育つ。趣味は近代史の勉強。『親ガチャにハズれたけど普通に生きてます』が初の書籍となる。
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上村さんの漫画『親ガチャにハズれたけど普通に生きてます』は、以下のサイトから読むことができます
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