多頭飼育崩壊、劣悪な環境で…ボロボロながらも2匹の子犬を守り抜いた母犬 人間不信だったが懸命に世話→すっかり甘えん坊に
保護犬の譲渡活動を通じて「殺処分ゼロ」の実現を目指すピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)には、様々な事情を持つ保護犬がいます。今回ご紹介する真っ白の犬・うさぎもそのうちの1匹。多頭飼育崩壊から救出された2匹の子犬がいるお母さん犬で、体中には排泄物がこびりつき、毛玉だらけの状態でした。劣悪な環境の中でも子どもたちを守ることに必死で、自分の身を盾に、スタッフにもうなり吠え威嚇していました。
そんなうさぎが笑顔を取り戻し、新しい里親さんの元で幸せに暮らすまでのストーリーをご紹介します。
■ボロボロになりながらも、自分の子どもたちを必死に守り抜く
昨年、愛護センターに保護された際のうさぎは、本来は真っ白の綺麗な毛のはずが、茶色くボロボロに汚れ、排泄物がこびりついているような状態でした。その様子を前にした獣医師も言葉をつまらせるほどでしたが、その傍らには2匹の子犬がいました。うさぎの実の子どもで、うさぎはこの子たちを守ろうと、人間に向かってうなり吠えて威嚇していました。
しかし、スタッフが遠くからおやつをあげたり、様子を見ながら優しく声をかけたり撫でたりと、懸命な作業を繰り返したところ、数週間で心を開いてくれるようになりました。さらに「ここは安全な場所」とわかると、スタッフが2匹の子犬の面倒を見ることも、少しずつ許してくれるようになりました。
ただし、どんな劣悪な環境にいても、自分よりも子どもたちのことを何よりも大切にしてきたうさぎです。その疲れきった心身が回復するまでは相応の時間を要し、すぐに新しい里親の元へ譲渡する、というわけにはいきませんでした。しばらくの時間はピースワンコの検閲犬舎での世話は継続されることになりました。
■うさぎの子どもたちは2匹一緒に同じ里親に迎えられることになった
検閲犬舎の生活では、前述のようなスタッフとのスキンシップに加え、白い毛をブラッシングしたり、トリムなども行いました。こういうときのうさぎは、本当に気持ち良さそうに安心した表情を見せてくれるようになりました。
やがて、うさぎに人間への警戒心がなくなると、今度は一転して、目の前を通るスタッフに「かまってアピール」をするほどになりました。本来、うさぎは人間が大好きで、寂しがりやの犬だったことがここでうかがい知れました。
うさぎの2匹の子どもは先立って新しい里親の元に譲渡されました。新しい里親には先住犬がいましたが、なんとか2匹一緒に迎えてもらえることになり、現在は3匹仲良く暮らしています。
■うさぎも新たな里親の元へ。里親に甘えるばかりでなく、信じ、待てるようになった
一方のうさぎも、人間に心を開いたことを確認した後、新たな里親の元に譲渡されることになりました。譲渡された後のうさぎは、大好きなベッドの上でのんびりくつろぎながら、仕事に出向く里親を見送るそうです。当初は寂しがりやで留守番が苦手だったうさぎですが、「里親は必ず帰ってくる」ことを信じ待てるようになったというわけです。これは里親の愛情がうさぎにきちんと伝わり、信頼関係が結ばれた証と言って良いでしょう。
うさぎ、2匹の子どもの里親とも「毎日がとても幸せです」とスタッフに語ってくれました。それまでの努力が報われたような言葉に、「以降の活動の励みにもなった」とスタッフは語りました。
■どんなワンコも、愛情を注げばうさぎのようにいつか必ず心を開いてくれる
このうさぎのように、保護犬の譲渡活動は、右から左へと譲渡していくのではなく、相応の治療や人馴れトレニーングなどを行います。やがて、「新しい里親の元にわたっても、人間と一緒に生活できる」状態になったところで譲渡となるわけですが、残念ながら譲渡に至らない犬もいます。こういった犬はピースワンコのスタッフが新たな家族となり、施設を家として一緒に暮らし、ここで幸せになってもらいます。
このように保護した全ての犬が、それぞれのカタチで幸せを掴んでもらうことがピースワンコの活動の指針です。
最後にスタッフにもコメントをもらいました。
「私たちは広島の愛護センターで処分となる犬を引き出し、保護した犬を最善の医療処置や人馴れトレーニングなどを行い、譲渡可能な犬は新しい飼い主さまへとつなげる活動を続けています。その思いの源にあるのは『日本の犬の殺処分ゼロを目指す』というものです。こういった保護犬を飼う人が増えることで、殺処分問題を多くの人が考えるようになり、それをストップしようという社会の動きが出てくると期待しているからです。
全国の愛護センターでは、今も引き取り手のない犬が年間4000頭以上、窒息死という方法で殺処分されています。『次は自分の番か』と死が迫る恐怖の中で、『生きたい』『助けてほしい』と希望を抱く保護犬が日本中にいます。その命は、動物愛護センターで譲渡や保護先が見つからなければ『殺処分』されてしまいます。これはなんとか食い止めないといけません。
どんな子でもたっぷりと愛情を掛けてあげれば、うさぎのように、いつか心を開きステキなパートナーになってくれます。このことを、より多くの方に知って欲しいと思っています」
(まいどなニュース特約・松田 義人)