ドイツ、スイスでは使用禁止…くくり罠にかかる犬が後を絶たない 「できるだけ多く救ってあげたい」保護団体の思い
野山などに設置された狩猟用の罠、トラバサミ、くくり罠といったもの。こういった罠に誤ってかかってしまう野犬が後を絶たず、中には大怪我を負う犬もいるそうです。
保護犬の譲渡活動を通じて「殺処分ゼロ」の実現を目指すピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)では、こういった罠にかかってしまった犬の保護を行ない、こういった活動を自社ブログやYouTubeなどで発信し、そのレポートをもって、犬を取り巻く環境の改善を訴えています。今回は、罠にひっかかってしまった野山で生活していた野犬を動物愛護センターから引き出した際の話を、ピースワンコの担当者に聞きました。
■動物福祉の先進国で使用が禁止されているくくり罠、トラバサミとは何か
ピースワンコの担当者によれば、罠にかかって保護されるワンコの大半は、野山で生活していた野犬たちだと言います。野山なので、狩猟の対象となるイノシシ、シカと同じ環境で暮らしている野犬が誤って罠にかかってしまうとのこと。
こういった罠は、くくり罠がトラバサミというものが多いようです。くくり罠は、動物の足をワイヤーで強くくくるため、かかり方によっては軽症とはいかず、脚が壊死して断脚しなければいけないケースも。また、動物を挟んで捕獲するトラバサミは、挟まった際の傷が骨まで達してしまうことがあり、生命や体に重大な危害を及ぼす恐れがあるもの。
いずれの罠も、ドイツ・スイスといった動物福祉の先進国では使用が禁止されており、日本でも行政の許可や免許がなければ禁止されています。
ある日のこと。動物愛護センターからピースワンコに連絡が入り、緊急で引き出しを行なったある犬も、くくり罠に誤ってかかっていました。
「まだ雪の残る2月下旬、その子はくくり罠にかかり大けがを負っていました。動物愛護センターに保護された時点でかなり弱っていて、傷を負った箇所もパッと見ただけで腫れがひどく、化膿していることが分かる状態でした。
ピースワンコで引き出した後、動物病院で診てもらいましたが、傷口は全体的に壊死していて回復する見込みもないと診断され、断脚する結果となってしまいました」
■大半の野犬は、犬同士のコミュニケーションには慣れているが、人間に対しては不慣れ
野犬の多くは、犬同士のコミュニケーションには慣れているものの、人間に対しては極めて不慣れです。特に、こういった罠にかかり保護された野犬の場合、その不安から怯え続けるケースも多いとのことです。前述の断脚することになった犬もピースワンコ発信のYouTubeによれば不安そうな表情をしており、その怪我の具合と合わせて、あまりにもかわいそうです。
「断脚することになった犬は、今では検疫犬舎での経過観察を終えて別の犬舎へ引っ越しました。この子の場合は、いたずらに話しかけたり触れたりせず、見守る段階にいます。それから徐々におやつを遠くに置いて食べてもらい『人=怖い対象存在』から、まずは『人=いつもおいしいものをくれる存在(敵ではない)』ということを認識できるよう、接点を持つきっかけ作りから取り組んでいます」
■譲渡が難しい犬はピースワンコのスタッフが家族となり、一緒に生活する
ピースワンコの活動は、保護した犬を最善の医療処置や人馴れトレーニングを行い、譲渡可能な場合は、新しい飼い主へとつなぐものです。しかし、必ずしも譲渡できる犬だけを扱うわけではなく、難しい場合はピースワンコのスタッフが家族となり、一緒に生活をしています。保護した犬が、それぞれの幸せを掴んでもらうことがピースワンコの活動であり、願いなのだと言います。
「『次は自分の番か』と死が迫る恐怖の中で、『生きたい』『助けてほしい』と希望を抱いている保護犬が日本中にいます。その命は、動物愛護センターで譲渡や保護先が見つからなければ窒息死という方法で殺処分されてしまいます。今もそういった犬が年間4000匹以上います。
私たちは広島で処分となる犬を引き取り、保護した犬を最善の医療処置や人馴れトレーニングを行い、譲渡可能な犬は新しい飼い主さまへとつなげる活動を続けています。なぜなら、こういった保護犬を飼う人が増えることで、殺処分問題を多くの人が考えるようになり、『それをストップしよう』という社会の動きが出てくると期待しているからです。
譲渡が難しい犬も、スタッフが家族となり施設が家となり、ここで幸せになってもらいます。保護した全ての犬がそれぞれの幸せを掴んでもらうことが私たちの活動です」
■1頭1頭を幸せに、罠にかかってしまった犬もできるだけ多く救ってあげたい
ピースワンコでは、犬の命を救い、その生活に寄り添うことから冒頭の狩猟用罠にかかってしまった犬の保護・救援も積極的に行なっています。今回紹介した犬は罠のせいで断脚することになりながらも一命を救うことができましたが、中にはその罠のせいで命を落とす犬もいます。こういった現状に対して、最後に改めて担当者に聞いてみました。
「私たちだけでは微力で、できることが限られています。しかし、そうであっても『目の前の命を保護する』し、まずは1頭1頭を幸せにしたいと思っています。こういったことから、罠にかかってしまった犬もできるだけ多く救ってあげたいと思っています。
さらにその犬にとって新しい幸せな生活へとつなげてあげたい……こういった活動を今後もっと広く全国へと広げていけると良いなと思っています」
(まいどなニュース特約・松田 義人)