長寿表彰された女子大キャンパスのアイドル猫が遺してくれたもの 学生を見守り20年「ありがとう。ゆっくり休んでね」
北九州市八幡西区にある九州女子大学で「キャンパスのアイドル猫」として親しまれてきたココロちゃん(メス)が7月31日、腎不全のため虹の橋を渡った。推定20歳。人間でいうと96歳くらいにあたる。
ココロちゃんは、同大学正門横にある守衛室を拠点にキャンパス内で暮らしてきた大学公認の地域猫。体の左側に大小のハートマークが2つあることから、自然に「ココロちゃん」と呼ばれるようになり、正門で学生たちの登下校を見守るのが日課だった。歳をとったため、ここ数年は守衛室に勤務する警備員さんたちが毎日、食事の世話や体調管理などを行なっていた。
2009年から昨年(2021年)まで同大学で非常勤講師を勤めた園田頼暁(よりあき)さん(77)は、ココロちゃんの学内での姿をずっと見守ってきた。園田さんが赴任当時、学内には20匹ほどの野良猫がいて、その数は増えつつあった。園田さんは学生有志と「ふくねこの会」(通称ねこ部)を結成。当時の副学長(現理事長)の支援のもと、学内の猫たちに不妊手術を施し、一代限りで生を全うさせる地域猫活動(大学猫活動と呼んでいる)を行なってきた。その結果、猫たちは年々減り、最後の1匹となったのがココロちゃんだった。
学生たちからは「試験などで不安なとき、ココロちゃんに話しかけたら『ミャーン』と可愛い声で鳴いて励ましてくれた」「正門にいる姿が可愛くて、いつも癒されていた」などの声が寄せられ、定期的に餌の差し入れをする職員もいるなど、ココロちゃんは学生や教職員らの間で長年、キャンパスのアイドル猫として親しまれてきた。
園田さんは昨年、癒しや元気を与えてくれていることへの感謝を込め、ココロちゃんのことや大学猫活動をまとめた冊子「ココロちゃんものがたり」を大学図書館に寄贈(現在、続編を執筆中)。また、「ココロちゃんの歌」も制作した(冊子や歌はYouTubeで視聴可能)。
今年(2022年)7月15日には、公益財団法人日本動物愛護協会から「長寿表彰状」を授与されたばかりだった。これは飼い主とともに暮らす長寿の犬猫を表彰する同協会の活動(猫は18歳から)。申請の際、園田さんがココロちゃんの年齢を改めて調べたところ、学内にいた野良のカップルからココロちゃんが生まれたのはそれまで2003年春と思われていたが、1年早い「2002年春だった」との新たな目撃情報があり、今年春の時点で推定20歳になったことがわかったという。「表彰状はココロちゃんが学内で逞しく生き抜いてきたご褒美ですね」と園田さんは微笑んだ。
ココロちゃんの体調が急変したのは6月26日。守衛室の警備員さんから「様子がおかしい」との通報を受けた園田さんが駆けつけ、大学から動物病院へ3日間通った。その後、大学関係者と話しあい、治療、療養に専念するため、園田さんが福岡市内の自宅でココロちゃんを預かることになった。
■「ココロちゃんのことはずっと忘れません」
ほぼ毎日、通院して点滴、投薬を受けるなど、懸命な治療の甲斐あって、体調は一時回復した。「ココロちゃんの長い猫生のなかで、大学の外に出るのは初めてのこと。ずっと広いキャンパスで暮らしていたので、狭い部屋にいたらストレスがたまるだろうと、ある朝、近くの公園の原っぱに連れていったんです。すると、キャンパスを思い出したのか、もう喜んでね。小走りで草の茂みにもぐり込んだりして、気持ちよさそうにしてました」(園田さん)
「そうやって1ヶ月間ほどココロちゃんと一緒に過ごしたんですけど、私が夜中、トイレに起きるでしょ。すると、トイレの扉のところまで、トコトコと歩いてきて、コロンと寝転ぶんです。そして、用を足し終わるまで待っていて、私が寝室に戻ろうとすると自分の寝床に戻っていくんですよ。足腰がヨタヨタしているのに、わざわざ起きてそばに来てくれるもんですから、『ココロちゃん、起きてこなくてもいいんだよ』というんですけど、それでもいつも来てくれるんです。その姿が愛らしくてけなげで…」。そう言って園田さんは声を詰まらせた。
ココロちゃんが天国へと旅立ったのは、7月31日午後4時ころだった。「苦しむこともなく、とても安らかに、まさに枯れるが如く、静かに息を引き取りました」と園田さんは振り返る。翌8月1日、福岡市内のペット葬儀場で荼毘に付された。
ココロちゃんが体調を崩した6月末から7月初旬にかけて、正門に設置された七夕の笹飾りには「早く元気になりますように」などと学生が綴った短冊が飾られた。また、「ココロちゃんありがとう。ゆっくり休んでね」「ココロちゃんのことはずっと忘れません」「これから先もずっと大好きだよ」といった学生からのメッセージも守衛室に寄せられた。
園田さんは「学生はいろんな悩みを抱えながら大学生活を過ごしますが、数多くの学生がココロちゃんに話しかけたり撫でたりすることで、つらい気持ちを聞いてもらったり、明るい気持ちになったり、元気をもらったりしていたと思います。卒業してから会いにくる学生もたくさんいたんですよ。単なる長寿猫というだけにとどまらず、何か特別な力を持っていたような気がしてなりません。今は感謝の気持ちでいっぱいです」と話し、涙ぐんだ。
(まいどなニュース特約・西松 宏)