「自分が死んだら、残されたペットはどうなるの?」…世話してくれる人に「安心して託す」ため、飼い主ができること【弁護士が解説】
超高齢化社会となった現代日本ですが、ペットたちも、食生活の改善、ワクチン接種の普及、獣医療の進歩などの理由によって寿命が大きく延びてきています。
アニコムホールディングス株式会社が発行している「アニコム家庭どうぶつ白書」(2021年版)によると、犬の平均寿命は2009年に13.1歳だったのが、2019年には14.1歳に延びています。同様に、猫の平均寿命も13.7歳から14.3歳にと、こちらも延びています。
こうなると、ペットが自分よりも長生きするのではないか、そうすると、自分が亡くなったあとにペットはどうなってしまうのか、不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
1:自分の死後、ペットはどうなってしまうの?
ペットは「人」ではないので、法律上は「物」として処理されます。
亡くなった方が飼っていたペットは、亡くなった人の所有していた預貯金や車、貴金属などと同様、相続財産として相続の対象となり、ペットの所有権は相続人に移転します。つまり、相続人がペットの飼い主の座を引き継ぐわけです。
相続人が複数いる場合は、相続人全員の共有財産となります。この共有状態は、遺産分割協議等により、ペットを相続する人が確定するまで継続します。
不幸にして相続争いが発生してしまった場合、遺産分割が成立するまでの間、相続財産を誰がどのようにして管理・保全していくのか、このことを巡って紛争になることもあります。ペットについていえば、なにしろ生き物ですので、誰がどのようにして面倒を見ていくのか、早急に決定する必要があるなど、さらに難しい問題が出てきます。
逆にいうと、ペットが相続争いに巻き込まれると、「世話をする人がいない」という状態に置かれてしまう危険があるのです。
2:どうすればいいだろうか?
まず、法律以前の問題として、「飼い主が亡くなったあとに、ちゃんとペットの世話を引き受けてくれる人」を探すことが大前提になります。
相続や遺産分割によって、法律的にペットの飼い主を引き継ぐ人はいずれ決まりますが、「飼い主としての権利があること」と、「ペットの面倒をちゃんと見ること」は全く別問題です。
「飼い主としての権利がある」ということは、「法律に反しない限りペットを好きなように飼っていい」ということです。ペットを残して旅立つ立場としては、そんなことよりも、ペットにはできるだけ良好な環境で暮らしてほしいと願うことでしょう。
ですので、第一に、親族、友人、愛護団体など、「自分が亡くなってもペットを安心して託せる人」を探し出す必要があります。
そのような人物・団体が見つかったら、次にその人物・団体に対して、自分の死後にペットの所有権を移転させる方法を検討します。ここからが法律の出番になります。
以下では、ペットの飼い主をAさん、Aさんが見つけた信頼できる引き受け手をBさんとして、説明していきます。
【① 負担付遺贈】
まず、Aさんが遺言を作成する方法があります。
遺言で相続財産の全部又は一部を第三者に贈与することを「遺贈」といいます。
この場合、「ペットをBさんに遺贈する」と書くだけではなく、「ペットが天寿を全うするまで面倒を見ること」といった条件(負担)を付記しておくとよいでしょう。このような遺贈を「負担付遺贈」といいます。
なお、受贈者は遺贈された財産の範囲でしか負担履行の義務を負いませんので(民法1002条1項)、負担付遺贈を行う場合は、これに加えてBさんが将来にわたってペットを飼い続けられるだけの財産(例えば一定額の金銭や、特定の銀行口座など)を別に遺贈しておくことも必要となるでしょう。
ただし、受贈者は、遺言の効力発生後に遺贈を放棄することができるとされています(民法986条1項)。つまり、Aさんがせっかく遺言を書き残しても、Bさんが「そんなのお断りだ」と思ったら、Bさんは遺贈を放棄してペットを引き取らないことができるのです。
ですから、単に遺言を書き残しておくだけではなく、生前にきちんとBさんに説明して、その了解を得ておく必要があります。
【② 負担付死因贈与】
①と似たような方法ですが、Bさんとの間で死因贈与契約を交わす方法もあります。
死因贈与契約とは、贈与者が死亡することを条件として財産の全部又は一部を贈与する契約です。契約なので、①と違い、生前に受贈者と合意しておく必要があります。「負担付」の意味は①と同じで、「贈与をする代わりに受贈者にしてもらうこと」の意味です。
この方法は、①に比べて、生前に細かく条件を設定できる点や、契約違反がない限りBさんが一方的に放棄することができない点で優れているといえます。また遺言のように一方的に書くのではなく、契約をいったん取り交わしているため、受贈者Bさんがきちんと負担を実行してくれる可能性も高いといえるでしょう。
【③ ペット信託】
相続人間の感情的な対立が激しいなど、相続争いにペットを巻き込んでしまう事態が予想される場合は、信託の方法によることを検討すべきです。
信託とは、特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいいます(信託法2条1項)。要するに、自分の財産を信頼できる人に託し、一定の目的のために管理・使用してもらう契約です。この制度を利用すれば、ペットが生きていく上で必要な財産を、ペットのために残すことが可能となります。
信託財産は相続財産から分離・区別されますので、たとえ死後に相続争いが生じたとしても、ペットの飼育費用が目減りするなどのトラブルに巻き込まれずに済みます。
具体的には、まずペットの世話をしていく人(受益者といいます)と、ペットのための財産を管理する人(受託者といいます)を探します。ペットのために財産を残したい人(委託者)は、受託者との間で信託契約を締結して、ペットの飼育に必要な財産を信託します。委託者に万一のことがあって、ペットを飼えなくなった場合、受益者にペットの所有権を引き渡し、受託者は信託財産の中からペットの飼育費用を支払っていきます。
今回のケースに即して説明しますと、Aさんは、ペットのために財産を管理してくれる人(Tさんとします)を探します。そして、Aさん、Bさん、Tさんの三者で、Aさんがペットを飼えなくなったあとのペットの具体的な飼育方法や、そのために必要な飼育費用などを話し合った上で、信託契約を結びます。
Aさんに万一のことがあった場合、BさんはAさんからペットの引き渡しを受けると同時に、Tさんから、信託契約で決められた飼育費用の支払いを受ける、という形になります。
また、Bさんがきちんと飼育しているかどうか、Tさんがきちんとペット用の資産管理をしているかどうかを監督する信託監督人を選任することもできます。信託監督人を選ぶ場合、財産管理業務に長けた弁護士などの法律の専門家を選任しておくことが望ましいでしょう。
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上記のいずれの方法を取る場合でも、相続は複雑な問題になりがちであり、ペットのことだけを考えるわけにもいきません。せっかくトラブルを避けようと準備していても、遺言や契約の内容があいまいであったり間違っていたりすると、逆にそのことが紛争の種となってしまう危険性もあります。
自分の死後にペットを託そうとお考えの場合は、相続問題や信託契約に詳しい弁護士などの法律専門家に相談・依頼することをお勧めします。
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【出典】
▽アニコム家庭どうぶつ白書
◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。