ケガをした子猫がいる→現場へ急行 まさかの余命宣告に「なんとか生きてほしい」保護団体代表の思い
私はこの1カ月ほど、祈るような思いで日々を過ごしている。生まれて2カ月あまりの黒猫は、事故か何かで足が不自由な状態。その上、胆管が生まれつきの奇形で肝臓が肥大し、危険な状態が続いているからだ。
当団体のボランティアから一報が入ったのは7月22日のこと。自宅の敷地に足を怪我した子真っ黒な子猫が現れ、どう対処したらいいか判断がつかないという。
現場は兵庫県宝塚市。ただ、その時、私は別件で大阪府下の動物病院におり、スタッフがかわりに捕獲器を持って駆けつけてくれた。その場にお目当ての猫の姿はなかったそうだが、数時間後にセットした捕獲器の中に入ってくれたそうだ。
■生後2カ月ほどの子猫
「捕獲できました」との連絡が入り、私もすぐに宝塚の現場へ。捕獲器の中に入った猫は生後2カ月ほどの子猫で、足を前に伸ばした状態で座っていた。お腹を空かせていたのか、キャットフードを完食していた。
行ってみると現場は手塚治虫記念館の近く。ボランティアの家は細い道に面しているのだが、交通量が非常に多い場所だ。不自由そうな足を見て「交通事故にあったのか?」と思った私は子猫を車に乗せ、すぐに動物病院へ向かった。
よく見ると、特に後ろ足の動きが悪く、足を引き摺るように歩こうとする。レントゲンを撮ると幸い骨折はしておらず、医師から「恐らく事故か何かで下半身に問題が起っているのだろう」と説明を受けた。
さらに、お腹の中に石のような異物が写っており、お腹を空かせて変な物を食べてしまったのかもしれないとのこと。痩せているため、栄養をたくさん摂って様子を見ることになった。
自宅に連れて帰り、準備したソフトケージに子猫を迎え入れた。黒猫で凄く可愛らしい顔をしている。オス猫だったが、可愛らしく親しみがわく名前をつけてあげようと思い「ポコ」と命名した。
ポコは撫でると、すぐに「グルグル、グルグル」と喉を鳴らし、気持ちよさそうにこちらを見つめてくる。ポコと目が合う度に「ポコ、元気になろうな」と声をかけた。
手足が不自由なため、トイレを使うことができずに床で排尿排便をしてしまう。ただし、それ以外は食欲旺盛で風邪も引いておらず、まずはひと安心した。しかし、それから数日後、食欲旺盛だったポコは通常量の半分ほどしかご飯を食べなくなり、その上、黄疸まで発症してしまった。
「これは、おかしい」
心配になって動物病院へ連れて行くと、肝臓の数値が正常値を遥かに超えて振り切った状態。即入院することとなった。ポコの体の中に起きている異常事態がとても心配になり、ショックを受けた。
「ポコ、大丈夫かな?」
帰宅後もポコのことがずっと気になった。翌日、ポコの様子を見に病院へ。少しご飯を食べたようで、撫でるといつものように「グルグル、グルグル」と喉を鳴らしてくれる。見た目は元気なのだが、体の中はかなり悪い状態だ。
■エコー検査で衝撃の事実
その翌日もお見舞いに行くと、次は後ろ足を前に伸ばして座った状態で出迎えてくれた。人懐っこいポコは看護師さん達にも人気者のようだ。それから2日ほど経ち、特に数値など変化はないが食欲と元気があるため、退院して飲み薬で様子を見ることになった。
しかし、ポコの肝臓数値の悪さが気になって仕方がない。私は「少しでもポコの体調がよくなる方法はないか?」と考え、エコー検査が得意な先生がいる動物病院で診察してもらうことにした。すると、衝撃の事実が判明した。
ポコの肝内の胆管が、生まれつきの奇形か何かで一部が胆嚢に繋がっておらず、肝汁が胆嚢に流れずに肝臓内に溜まり、肝臓が肥大していたのだ。肝汁には消化を助ける働きがあるが、腸に流れないため消化が悪く、食事をとっても痩せてしまう。手の施しようがないほどの珍しい症例で、獣医師からは「非常にかわいそうですが、いまの状態から8月を乗り切れるかといった感じです」と告げられた。
予想外の言葉に、気持ちが追いつかなくなった。続けて獣医師は「奇形の可能性が極めて高いが、ウイルスの可能性も0%ではありません」と話した。限られた時間をリビングなどで自由に過ごしてほしかったのだが、他の猫への感染の可能性も考えられるため、隔離することに。それでも、隔離部屋はでできるだけそばにいてあげようと考えた。
処方されている肝臓の飲み薬は続けることになった。しかし、生後2カ月の子猫の体内では、想像もつかないことが起きているのだ。その上、足も不自由。決して幸せとは言えないが、性格は優しい。食欲にムラが見られるが、今の所はおもちゃで遊んだりして元気にしている。
オムツをつけるようになってからは尿を吸収してくれ、体はとても綺麗だ。一緒にゴロンと横になって撫でてあげると、お腹を見せて喜んでくれる。
いまは、純粋で可愛いポコに奇跡が起き、少しでも長く、元気で幸せに過ごせるように願っている。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)