発作が止まらず麻酔で眠らせていた猫…目覚めてご飯を食べる姿に「教科書のように、安楽死なんてできない」 奇跡を信じて“一大決心”
これから毎年、お盆になると思い出だろうなと思うことがあります。ウチで飼っているちっちゃい三毛猫、てんかん持ちの「のりちゃん」をめぐる、昨年の出来事です。
のりちゃんは2年前の秋に、沖縄で保護されました。しかし、てんかんの大発作を何度も起こし、動物病院では、動物保護管理センターに持っていく(つまりは安楽死となるだろう)選択肢を提案されてしまうほど。保護団体がFBに掲載していたのりちゃんの経過を、ふとした拍子で見つけ、心配が止まらなくなってしまいました。「きっと誰も里親など現れないだろう…そのうち保護施設でも大発作を起こして亡くなってしまうのではないか?」そう思うと、居ても立っても居られなくなり、ウチで飼うことにしました。
しかし、迎え入れた当初は大変でした。のりちゃんはてんかん持ちなだけではなく、脳に重い障害があるようで、例えばソファにジャンプして飛び乗る、ボールを追いかけて遊ぶ、トイレで排泄する…といったようなことができませんでした。迎え入れるときにそのような事実は知りませんでしたが、私自身も獣医師ですのでいろいろ文献を探してきて治療し、なんとか発作の回数を押さえてトイレトレーニングも頑張りました。
そうして去年の7月までは調子が良かったのりちゃんですが、台風が来て気圧の乱高下があったからなのか?お盆のころ1週間に5日、日に1~2回発作を起こす日が続いてしまいました(気圧の変化で体調を崩すことは、人間も動物でもよくあることですね)。これは、今飲んでいるお薬の種類と量では発作を押さえ込めないということになります。
しかし、お薬の調整がうまく行かず、最終的には1日に6回発作が起こってしまいました。連日複数回の発作が続く場合、いったん頭を冷やす…ではないですが、長時間麻酔で眠らせることが治療になります。のりちゃんも、やむなく麻酔で24時間眠ってもらうことにしました。
ところが、眠らせていても麻酔が浅くなり意識が戻りそうになると…発作が起きそうになりました。もちろん、起きそうになれば急いで注射薬を入れました。徹夜でのりちゃんの看病でした。
私は焦りました。眠っている間に、お灸も鍼も…できることは何でもしてみました。しかし、麻酔を浅くすると発作が起きそうになり、の繰り返しでどうしても発作を抑えることができません。
このような状況ですと、教科書には安楽死も考慮すべきと書いてありました。何故なら、発作が1日に何度も起きれば、脳が損傷して障害が進行してしまうからです。発作が止まらなければ、体温が上がってしまうために体内のタンパク質が変性して、やがては多臓器不全となり亡くなってしまいます。
眠っているのりちゃんの前、家族で話し合いました。しかし、このまま永遠に目が覚めないというのはあまりにも悲しい…と言うことで、いったん麻酔を切って目を覚ましてもらい、様子をみることにしました。奇跡を信じて…。
てんかん持ちの子にはよくあることですが、発作後は異常な程の食欲が出ます。麻酔から覚めたのりちゃんは、体がしんどいのでぐったりしながらも、這いつくばってお皿に顔を突っ込んで生肉をガツガツ食べ始めました。
その姿を見て、やっぱり安楽死なんかできない…と思いました。
お盆の大発作の後、のりちゃんはお薬の影響でしばらくは立てない程にフニャフニャでしたが、大きな発作が続くことはありませんでした。私は一大決心をして、のりちゃんを精密検査をしてもらうために、東京の大学付属病院に連れて行くことにしました。
のりちゃんを譲渡していただく前に行った検査では、身体が小さく若すぎるのと、検査機器の性能があまり良くなかったため、詳細な情報が得られていませんでした。しかし、てんかん持ちの動物を連れての遠出は、本来であれば勧められません。移動中、例えば新幹線の中で発作が起きて止まらなかった場合、そのまま車中で亡くなる可能性があるからです。
それでも…。
何度も検査をしたくありません。今回が最初で最後にしたいと考えました。今度こそ、わかる情報は全て得たいと思い、日本国内で一番多くのてんかん症例を診察されておられる先生の中のおひとりに、診察をお願いしました。
その先生は、飼い主が獣医師であり、道中の発作のリスクは私自身が全面的に負うということで、診察を承諾してくださいました。そして、MRI検査、脳脊髄液検査、脳波検査をきっちりしていただき、診断結果をいただきました。
MRI検査では、発作が何度も起こりすぎていたので脳が損傷し、すでに大脳が若干萎縮してきていることがわかりました。脳が萎縮するとはつまり、早い時期に認知症になることを考えておかなければならないということでした。とはいえ、のりちゃんは今でもおトイレを覚えられず、すでに認知症のような状況ではありました。
脳波検査をすると、のりちゃんは見た目に発作が起こっていなくても、脳のあちこちが頻繁にパチパチしていて、まるで線香花火のような状態でした。ですから、今後は発作のコントロールがさらに難しくなり、いつしかの大発作で心臓や肺や脳が耐えられなくなり、死亡する可能性はあるだろうとのことでした。てんかん持ちになった原因については不明ではあるのですが、出産前後の何かの異常によるものと推測されました。
なんともお先真っ暗な情報でしたが、これで、のりちゃんのその後の治療方針は立て易くなりました。お薬を新たに調整して、治療を再スタートしました。そして、ふっきれました。私たちは、毎日楽しく過ごしていこうという決心ができました。
病は気からという言葉もありますが、私たちの気が楽になったからなのか?不思議とのりちゃんはその後、11月に軽い発作があっただけで、全身性の大発作は起きていません。あれから丸1年が経ち、のりちゃんは発作が起きない日連続257日を更新しました。
ときどき、SNSにのりちゃんの様子をアップさせていただいておりますが、いつも皆様の温かい応援で励まされております。その影響もあるのではないでしょうか?
この場をお借りして、お礼を述べさせていただきます。本当に、ありがとうございます。
(獣医師・小宮 みぎわ)