怪我した右手は神様にあげた 冬が迫る中、夫婦に助けを求めに来た猫 「一緒に長生きしよう」更年期を乗り越える力をくれた
■この子と暮らしたい
はっちゃん(3歳半・メス)は野良猫だったが、2019年12月、広島県に住む宮地さん夫妻に保護され、家族になった。
宮地さんの家の周辺には数匹の地域猫が住み着いていた。そのため宮地さんは、夏になると縁側に水を置いてあげていた。いつしか顔見知りのボス猫や通りすがりの見知らぬ猫も来るようになり、その中の1匹がはっちゃんだったという。
はっちゃんは子猫から成猫になったところで、他の猫より小さかった。
「毎日姿を見せるようになり、私たちは、この子と暮らしたいと思うようになり、保護計画を立て、保護する準備を始めたんです。ところが、突然はっちゃんが来なくなったんです」
宮地さんは、なぜもっと早くに保護しなかったのか悔やんだ。可愛いから誰かが保護したのかもしれないと思ったが、毎日はっちゃんを探して、置き餌をした。しかし、はっちゃんが戻ってくる気配すらなかった。
■「外に出して」と鳴く猫
夫婦であきらめかけた翌日、外から猫の鳴き声がして、見てみるとはっちゃんが庭にいた。
「右手に怪我をしていて痛々しい姿になっていました。一方、久しぶりに会えた喜びもあり、私は大泣きました。でも、怪我をしたはっちゃんは気が立っていたのか、警戒心が強くて触ることもできませんでした。私もハンディのある子を飼うことに不安を感じ、その時は保護しなかったのです」
その後、「明日から寒波が来る」というニュースを見たのを機に、宮地さんははっちゃんを保護すると決めた。翌日、12月1日、餌で部屋の中に誘導し、閉じ込める作戦を決行。無事保護できたという。
保護したのはいいが、はっちゃんは長い間外で暮らしていたので、家には馴染めず、毎晩夜通し「外に出して」と鳴き続けた。
「きっと家族たちと一緒にいたんだろうな、会いたいんだろうな、と毎日私も一緒に泣いていました。保護することは人間のエゴではないのかという葛藤がありました」
宮地さんは、はっちゃんをTNRしようかとも思ったが、怪我して助けを求めに来た時の姿を思い出して、「危ない外にはもう返せない!返したくない!いつか分かってもらえる日が来る」と信じることにした。
■お母さんになれて幸せ
はっちゃんは今でもツンデレだが、寂しくなるとよく鳴く。お父さんのことが大好きな子になった。
「はっちゃんを迎えた時、私は更年期真っ只中。仕事の疲労やストレスで爆発しそうだったんです。でも、『この子と一緒に楽しく長生きするぞ!』と思うと、仕事にも意欲が出てきました。子どももいないので、まるで本当の子どものよう。お母さんになれて幸せです」
はっちゃんは怪我した右手を神様にあげた。しかし、その代わりにもらった、黒い尻尾の先端だけ真っ白な白玉尻尾が可愛いのだという。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)