「日本一標高の高い地下鉄駅」はホームも幅広 利用客増へ重ねた涙ぐましい努力の跡
神戸市営地下鉄の谷上駅(神戸市北区)は「日本一標高の高い地下鉄駅」として知られる。標高244m。六甲山西北部の丘陵地にあり、神戸市中心部と比べて夏は3度ほど気温が低いそうだ。
厳密には駅は「地下」ではなく、「高架上」にある。2020年6月、相互乗り入れしていた北神急行電鉄が神戸市営化されたことで北神線(新神戸~谷上)と改称され、谷上駅が地下鉄に仲間入りしたことで「首位」に躍り出たのだ。
ちなみに「地下」にある駅で最も高いのは、仙台市地下鉄東西線の八木山動物公園駅(仙台市太白区)の標高136.4m。地下鉄で「日本一低い(深い)」駅は東京都営地下鉄大江戸線の六本木駅で地下42.3m。神戸市営地下鉄では、海岸線ハーバーランド駅の同21.79mである。
さて、谷上駅は神戸電鉄有馬線との乗換駅だが、3、4番ホームの幅が異様に広いことに気づく人もいるだろう。この幅広いホームにはワケがある。もともと谷上駅は、神戸電鉄が2面4線(1~4番線)、北神急行が1面2線(5、6番線)と、計3面の島式ホームが並列する駅だった。両社は同じグループでありながら、神鉄が1067mm、北神急行が1435mm(市営地下鉄と同じ)と軌間が異なり、線路はつながっていない。このため、必ず乗り換えが必要となる。
その上、「日本一高い初乗り運賃」(谷上~新神戸370円、三宮までは550円)がネックとなり、利用は振るわなかった。路線の大半を占めるトンネルの建設費の金利負担も重くのしかかり、北神急行は経営不振に陥った。このため兵庫県と神戸市は1999年度、自治体として全国で初めて民間鉄道に補助金(つまり税金)を投入し、北神急行を支援したのだ。
乗換駅の谷上駅の利便性を高めようと、2001年6月、神鉄の4番線を廃止して北神急行の旧5番線とをつなぎ、共用ホームとすることで、地上1階(かつてはキセル防止へ中間改札があった)に下りることなく、同一平面で乗り換えができるようにしたのだ。これにより、日中は神戸電鉄は上下線ともに同じ3番線に発着し、北神急行は4番線を使用するようになった。
■神戸市営化→一体運営でコスト削減
乗り換えは飛躍的に改善されたものの、やはり「日本一高い初乗り運賃」が壁となり、利用客数は伸び悩み続けた。このため、神戸市が北区の郊外開発や人口増加を目的に、北神急行の親会社である阪急電鉄から線路などの資産を198億円で譲り受け、地下鉄との一体運営でコスト削減を図ることになったのだ。
民営鉄道の市営化(公有化)は異例で、初乗り運賃は新神戸~谷上間が280円(三宮~谷上間も同額に)と大幅に引き下げられた。市営化に際し、北神線の新神戸~谷上間(約7.5km、8分)は、地下鉄で「日本一長い駅間距離」の“タイトル”も手にしている。
大幅値下げが奏功したのか、新型コロナウイルス禍の外出減や在宅勤務の普及で鉄道利用客が大幅に減る中、移管1年の段階での神戸市交通局の推計では、北神線はコロナ禍前の1日約2万4500人を1割程度上回ったという。同じ神戸市営地下鉄の西神・山手線、海岸線は2~3割減だったことからも一定の効果がわかる。
先日、久しぶりに訪れた谷上駅では、平日の日中にもかかわらず、それなりの乗り換え利用がみられた。今では当たり前のように乗降客が行き交う幅広の共用ホームに、北神急行をめぐる涙ぐましい(?)経営支援の面影を見るのは筆者だけだろうか。
(まいどなニュース・神戸新聞/長沼隆之)