手のひらにちょこんと乗る「羊毛フェルト猫」が人気 創作の原点は22年間ともに過ごした愛猫、作家に聞いた

 手のひらにちょこんと乗り、まるで本物の猫を小さくしたかのような羊毛フェルト猫(体長4~6センチ)が猫好きの間で話題になっている。羊毛フェルト作家のMEBARUさんが制作している猫たちだ。

 MEBARUさんは幼いころから猫と図画工作が大好きで、よく飼い猫をモデルに絵を描いたり紙粘土で作品を作ったりしていたという。羊毛フェルトと出会ったのは2017年初めころ。そのきっかけとなったのは、同年7月に虹の橋を渡ったキジシロの飼い猫「めばる」(オス、推定25歳で没)の存在だった。

■木から降りられなくなった猫を助けたら…家の前で待っていた

 不思議な出会いだった。1995年のある日、最寄駅から自宅へ歩いて帰る途中、MEBARUさんは木の上で降りられなくなって鳴いている野良の成猫に出くわした。通りがかった男性の助けを借りてその猫を救出。「怖かったのか、その時はパーッとどこかへ走り去ってしまったんですよ。とにかく降りられてよかったと思い、帰宅したのですが、翌朝、窓のカーテンを開けると、雨のなか、その子が我が家の前に立っていたんです。もうびっくりして」

 MEBARUさんはその子を室内に招き入れ、ずぶ濡れの体をタオルで拭いてあげた。その後、動物病院へ。推定3歳くらいと思われ、痩せて栄養は足りていない状態だった。「前日、救出した木がある場所と私の家は1キロくらい離れているんです。なのに、どうして私の家がわかったのか、本当に謎でした。あとをつけてきたような気配は感じなかったし…。ただ、理由はどうあれ、この子が愛おしくなり、運命のように感じて、うちで飼うことにしたんです」

 そうして野良から家猫になったその子、めばるは、とても家族思いの優しい猫だった。「子育て中、子どもが泣くじゃないですか。すると、どこにいてもすぐ飛んで走ってきて、しばらく横で添い寝してくれたり、私がタンスの角に足の指をぶつけて『アイタタッ』って言ってると、駆け寄ってきて『どうしたの?大丈夫?』といわんばかりに大声で鳴き、しばらく様子をうかがって、私が大丈夫そうだったら離れていったり。いつもそんな感じで家族のことを気にかけてくれていました。だから、めばるにはすごく世話になったんです」

■「愛猫の姿を形に残したい」それが羊毛フェルト猫制作の原点

 2017年7月、めばるは天国へ旅立つ。長寿だった。出会ってから22年間もMEBARUさん一家とともに暮らした。MEBARUさんは、太っていた体が痩せていき、だんだん衰弱していく愛猫の姿を見て「この世からいなくなってしまう前に形に残したい」と思った。同年1月ころ、たまたま本屋で羊毛フェルトの本と出会い「これだ!」とひらめく。その日にすぐ材料を買いこんで、ネット動画などを参考にしながら、見よう見まねで羊毛フェルト猫を作り始めた。

 羊毛フェルト猫は、まず針金で骨格を作り、それに綿を巻いて、羊毛で柄(模様)を植毛していく。最初は体長20センチほどの大きな猫を作り、作品をネットオークションで販売していた。愛するめばるも完成させた。ちなみに当時は1体作るのに約1ヶ月を要した。

 元々、「ミニチュアフードなど小さな作品に憧れがあった」というMEBARUさん。1年後くらいからは「もっと小さくて可愛い猫を作りたい」と体長8センチ未満の羊毛フェルト猫に挑戦し始めた。インスタグラムに投稿すると、当時そうした猫を作っている人がほとんどいなかったこともあり、ファンが少しずつ増えていった。小さくすればするほど、猫の手足や耳、尻尾といったパーツは既存の方法では作れないが、試行錯誤を繰りかえし、独自の方法を編み出していった。

 次第に全国の百貨店などで催されている猫関連の雑貨販売イベントなどでひっぱりだこに。現在は抽選による限定販売を行なっている。いまの羊毛フェルト猫も1体作るのに50時間ほどかかるといい、なかなか手に入れられないレアな一品となっている。購入者からは「家宝にします」「昔飼っていた○○ちゃんが戻ってきてくれたようで嬉しい」などといった声が寄せられているという。

■顔の模様が亡き愛猫にそっくりの猫を譲り受け、制作のモデルに

 めばるが旅立って1年後のこと。「猫の子どもが生まれたので引き取ってもらえないか」と知人に頼まれ、ある日、家族がキジシロの子猫を1匹、もらってきた。家にやってきたその子の顔を初めて見たとき、MEBARUさんは驚いた。「顔の模様がめばるにそっくりだったから」。名前はピノ(オス、4歳)。めばるを失ったことで心にぽっかりと空いた穴を、ピノは埋めてくれた。

 MEBARUさんが作る羊毛フェルト猫は、実際にモデルの猫がいるわけではなく、ポーズや柄はすべて自分で考え出したオリジナル。「私が作る子はみんな、めばるの面影がどことなく漂っていますね。めばるは私が作る猫の原点なんです。いまはピノが私の創作を支えてくれています。ピノを見て、次はこんなポーズの子を作ろうと発想できるので、欠かせない存在です」。かつてめばるがそうしていたように、いまはピノがMEBARUさんのそばに寄り添い、創作活動を見守っている。

 「道端で猫を見かけたとき、『可愛い』と思わず顔がほころんでしまうときってあるでしょう。私の作品を見てくれた方が、そんな気持ちでニコっとしてくれたら嬉しいです。世界で一つ、あなただけの宝物となるように、との思いを込めて一体ずつ丁寧に作っています」とMEBARUさん。夢は「個展を開くことと、羊毛フェルトの本を出版すること」だそう。難易度はより高くなるというが「今よりもさらに小さくて可愛い羊毛フェルト猫ができないか、チャレンジしていきたいです」と意気込んでいる。

(まいどなニュース特約・西松 宏)

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