「お金持ちになって捨て犬、捨て猫を救う」 子どものころの夢を実現させた元女子ボートレーサー、山口に犬猫保護施設

■引退後、第2の人生は山口で

 妹の浩美さんとともに双子の女子ボートレーサーとして活躍した池田明美さん(46)は引退後、静岡を離れ、山口県防府市に移住。犬猫保護施設を構え、愛護団体「無限の空」代表として、活動を始めた。目指すは人と動物との楽しい共同生活。賛同してくれる地域のボランティアや仲間の女子レーサーに支えられながら慌ただしい毎日を送っている。

 1997年5月のデビュー以来、水上の格闘技と言われる厳しい勝負の世界に身を置いていた。A1レーサーとして優勝回数は10回を数え、生涯獲得賞金は3億円を突破。しかし、2020年9月に大きな区切りをつけ、第2の人生を歩み始めた。

 「レース中にひかれる事故があって、初めて怖くなって。コロナ禍もあり、そろそろ辞めてもいいかなと、と思うようになったんですよ」

 選んだのは現役時代から携わっていた犬猫の保護と啓発活動。温めていた壮大なプランを実行に移すため、まず九州から中国、東海地方にかけ、広い土地がないか探し始めた。

 「ワンちゃんやネコちゃんのための大きな施設をつくって、そこに、女子選手にも来てもらう。みんなが楽しく過ごせるような場所があれば、とずっと思っていたんですよ。そしたら山口の防府にいい土地が見つかって、迷わず、ここに住むことになりました」

■愛護ユニット「ハッピーアニマルズ」が「無限の空」へ

 活動は6年ほど前から始め、女子選手の有志で動物愛護ユニット「ハッピーアニマルズ」を結成。飼い主から捨てられたペットや保護された野良猫や野良犬の多くが殺処分されると聞き、何とか救えないかと強く思ったことが動機だった。

 選手時代には場内でチャリティーイベントなどを実施。賛同する選手にペラやTシャツなどのグッズなどを提供してもらい、オークションや物品販売も行い、その売上金を支援団体に寄付していた。現在、池田さんが代表を務める団体「無限の空」は、このハッピーアニマルズが発展したものだ。

 現在は地元で保護活動をしている「まぁくんハウス」と連携し、保健所に収容された犬を引き取り、時間をかけて人に慣れさせていったり、ときに捕獲を手伝うこともある。根気と勇気のいる作業だが、恐れ入るのは女子選手の動物愛とその結束力。実際に保護活動をしているボートレーサーは多く、ひとたびラインやメールでヘルプ要請を送ると、素早く駆けつけてくれるそうだ。

 例えば、3月のボートレースクラシックを優勝し、女子選手として初のSG制覇を達成した遠藤エミ選手や今夏のレディースチャンピオンでG1初制覇した同期の香川素子選手らも仲間の一員。サポートを惜しまない。

 「私1人では何もできません。地元のボランティアの方々に助けられてますし、大勢の選手からペットシートやミルク、離乳食など、たくさんの差し入れがあるんですよ。ありがたいです」

 自身も慣れないインスタやイチナナなどを使い、活動内容を発信。保護犬や保護猫の置かれた現状を訴えている。これにはボートレース好きで愛犬家の坂上忍さんも賛同。現地を訪れ「どうにかしていきましょう」と声を掛けてくれたそうだ。

■野良犬は全部保健所に連れて行かれると聞いて…

 思えば、すべては1本の道でつながっていたのかもしれない。子どもの頃から大の犬好き。お年玉で大きな犬のぬいぐるみを買ったり、犬の図鑑を毎日見て、丸ごと暗記するような少女だった。聞けば、聞くほど、単なる思いつきで始めたものではないことが分かる。

 「小さい頃、周りに野良犬が結構いて、野良犬は全部保健所に連れて行かれると聞いてからお金持ちになって、日本中の捨て犬、捨て猫を救うんだと思ったんです」

 高校では剣道部。静岡県大会で個人優勝(2位は妹・浩美)したこともある。一時は動物看護の専門学校に行く道も事も考えたが、最終的にはレーサーの道を選んだ。

 「競艇選手になれば、お金を稼げて、動物を救えると思ったんです。ただ、そのころの私は超マッチョだったので受かってからは減量して。その後はしばらく成績が上がらず、クビ寸前。犬を助けるどころじゃなかったんですが…」

 広い土地を求めたのはオーストラリアから入って来た自給自足の文化、パーマカルチャー(多種作物農法)にも傾倒しているためだ。実際、その資格も持っており、今後は手持ちの資金や寄付などに頼るのではなく、自立することが何より大切で持続可能な保護活動につながると考えている。

 「いかに自分のところで稼いで、犬猫の保護活動につなげていくか。それと一時の頑張りだけではつながっていかないと思う。最後はワークバランスというか、ある程度の給料と休みは必要だと思っています」

 現在は預かり犬も含めて犬5匹、猫4匹との共同生活。「時間がありません。寝る時間もないぐらい。でも、好きなことなんで楽しいです」と笑い飛ばした池田さん。生きもの相手だから大変なことが続くと覚悟しつつ、未来は「無限の空」であることを願っている。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

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