「急に触るとお漏らし」「ぬいぐるみ破壊」ある保護犬のトリセツ 実際に飼ってわかったイヌ友の大切さ
香川県出身の元野犬のきのさん。殺処分される前に保護団体が引き取り、新たな里親さんの元で暮らすことになりましたが、多くの野犬がそうであるように、人間に慣れていないことからかなりビビリな性格でした。そのため、譲渡の際には保護団体から里親さんの元に「きのさんの説明書」を渡され、こう書かれていました。
▼初めての場所は緊張して、小さくなってしまいます。でも、すごく頑張り屋さんなので、飼い主さんの様子を見て、近づいて来てくれます。慣れようとがんばってくれます。
▼飼い主さん以外の人を怖がってしまいます。急に触るとお漏らししてしまうので、無理に近づこうとしないで様子を見てあげてください。
■ビビリなのに、ガジガジ、ブン回しが大好き
これら「きのさんの説明書」通り、里親さんが飼い始めても、初めての場所では緊張し、しっぽを丸めてへっぴり腰に。また、飼い始めた当初は確かにお漏らしをしてしまうことも……。ただ、同じ場所に何度か出向けば、少しずつ慣れていき、そして、お漏らしも少しずつなくなり、慣れてきてからは散歩中の人を見つけると、道の真ん中にお座りして、その人が来るのを待つほどになりました。
しかし、野犬だった育ちから、しつけ面での苦労は絶えません。この点も「きのさんの説明書」にはこう書かれていました。
▼トイレシートで遊んでしまうので、いたずら防止のメッシュトレーのトイレを使うと良いと思います。
▼柱や、テーブルの脚などガジガジしちゃいます。噛むのを防止するスプレーなどを使用すると良いと思います。
▼クッション、ぬいぐるみをぶん回して破壊します。注意してください。
「きのさんの説明書」を事前に読み、ある程度は覚悟していた里親さんですが、「トイレシートで遊ぶ問題」は困るほど多かったわけではなかったものの、「柱、テーブルの脚ガジガジ問題」「クッション、ぬいぐるみぶん回し問題」は結構大変で、きのさんはとにかく木を噛むのが大好き。そして、中に綿が入っているものを出すのも大好き。この点は里親さんにも相応の苦労がありました。
■お友だちのワンちゃんの前でハイテンション
ビビリにしてお散歩も遊ぶのも大好き。しかも、とんでもなく遊びすぎてしまうきのさんですが、近所に2頭の友だちの犬がいます。1頭はきのさんと同じ中型犬ミックスのLくん。きのさんはLくんのことが大好きで仕方ないのですが、Lくんはきのさんを見つけると「あ、きのさんだ」「あいつ、すごい絡んでくるんだよな」と一瞬警戒します。しかし、Lくんは3歳ほどのきのさんよりも年上の7~8歳。元来の優しい性格も相まって、絡んでくるきのさんに大人の対応で接してくれます。さらに10回に1回ほどの頻度で、きのさんのハイテンションに合わせて遊んでくれることもあり、きのさんはやっぱりLくんのことが大好きになってしまうようです。
そして、もう一頭の友だちが柴犬のMくん。Mくんもやはりハイテンションのきのさんを見つけると「ヤバい」という表情で気づかれないようにその場から立ち去ろうとしますが、そうはさせないきのさん。猛烈アタックをしMくんを困惑させてしまいます。
■犬の友だちができたことで得られた良かった2つのこと
里親さんによれば、きのさんに犬の友だちができたことで良かったことは大きく2つあると言います。
1つは、きのさんが犬の友だちに会った後、ルンルンで散歩しすごく楽しそうにしていること。そして、人間からは教えてあげることができない「犬同士の触れ合い方」を学べること。
もう1つは、きのさんに友達ができたことで里親さん側にとっても、近所に犬友だちができました。毎日の散歩で近所のいろんな人と話ができるようになり、里親さんは自分の住んでいる地域がますます好きになり、生活の中にさらに楽しい時間を作ってくれたことをきのさんに感謝しているそうです。
保護犬の中には人間によって悲しい思いをさせられた犬も数多くいます。しかし、「ゆっくりと時間をかければ、心を許してくれる犬も多いはず」「さらには人間により楽しい生活をもたらしてくれることもあるはず」と里親さんは言います。きのさんのように、1頭でも多くの命が救われ、犬と人あるいは犬同士の豊かな時間が、多く育まれることを願うばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)