ホットフラッシュに悩む48歳主婦 携帯扇風機が手放せなかった人生を変えた漢方薬
今回も更年期に用いられる漢方薬についてお話します。更年期障害の治療としては、低下した女性ホルモンを投与するホルモン補充療法(HRT)が有名ですが、体質や病気のためにホルモン剤を使用できない方もおり、ホルモン剤投与によって起こる出血が嫌だという方もいます。そんな時、心強い味方が漢方薬です。
Yさんは48歳の主婦です。3年前から月経が不順になり、現在は3カ月に一度くらいしか来なくなりました。その頃から体重が増え始め身長は153センチなのに体重は72キロに。ホットフラッシュに悩まされ、汗が噴き出てくるようになりました。顔が熱くて赤ら顔、いつも携帯扇風機を持ち歩いていました。流れる汗を拭うためのタオルも欠かせません。彼女は漢方薬による治療を希望しましたので、桂枝茯苓加丸薏苡仁を処方しました。
この薬は婦人科で頻用される桂枝茯苓丸の生薬含有量を増加し、更に美肌効果のある薏苡仁を追加してパワーアップしたものです。服用し始めて2週間もするとホットフラッシュはかなり楽になったそうで、同じ漢方を続けました。発汗も減少し喜んでいましたが、「時々緊張したりするとホットフラッシュが襲ってくる」と言います。そこでのぼせを取る漢方薬、黄連解毒湯を症状の出た時だけ頓服して頂くことにしました。
赤ら顔もずいぶん良くなってきました。そんな彼女が一念発起、なんとパティシエの専門学校に入学したのです。自分より20歳以上若い同級生と一緒に勉強する毎日です。時々漢方薬を受け取りに来院しますが、見るたびに若返り、きれいになっていくではありませんか!「若い人と一緒だから気持ちも若くなるんです。でも実習が大変なんです」と彼女は楽しそうに、すっきりとした顔で話してくれました。
Kさんは52歳の会社員。50歳ごろ閉経し、その頃からホットフラッシュや頭痛、肩こり、不眠に悩まされるようになりました。ホルモン補充療法を希望し、2021年初頭からエストロゲン、黄体ホルモンの周期投与を開始しました。頭や胸、背中がカーッと熱くなり汗が湧いてくることがなくなりこれで随分楽になったと思っていたのですが、不眠だけは良くなりませんでした。とにかく布団に入ると手足がほてって眠れないのです。布団から手足を出して何か冷たい物に手足をくっつけると樂なのですが、そんな姿勢ばかりしていられません。
私は彼女にホルモン補充に加えて三物黄芩湯を処方しました。これで手足のほてりが取れて快適に眠れるようになりました。三物黄芩湯は2千年前に中国で産褥期や更年期に手足がほてって苦しい人のために使用されていた薬です。今も昔も人間の悩みは変わらないようですね。現代医学には手足のほてりに効く薬なんてありませんから古代中国の医学には本当に驚くばかりです。
更年期障害の治療としてHRTと漢方薬のどちらがよく効きますかとよく聞かれますが、それは患者によってケースバイケースだと思います。この二つの治療法はライバルではなくてそれぞれの足りないところを補い合う良き同僚といったところでしょうか。
◆川口 惠子 神戸大学医学部卒、神戸大学医学部大学院卒、医学博士。神鋼病院産婦人科部長を経て平成13年より川口レディースクリニック院長。趣味はコンピューターグラフィックスと英会話。いずれも才能も情熱もないため全く上達せず。