「高い岸」なのに、海なし県や山間部に多い謎…「鎌倉殿」笑顔の仁田忠常を好演した高岸宏行・名字のルーツ
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で、仁田忠常を好演したお笑いコンビ・ティモンディの高岸宏行。
高校時代は高校野球の強豪として知られる愛媛県の済美高のエースで、しばらく野球から遠ざかっているにもかかわらず今年夏には独立リーグ栃木ゴールデンブレーブスに投手として入団、140kmの快速球を投げて話題になった。
さて、「高岸」という名字は「高い岸」という意味だろう。一般的には「岸」というと、海岸などで水面と陸地の境目の陸地側を指すことが多い。また、大きな川でも「岸」という言葉を使う。
名字にも「岸」のつくものは多く、1000位以内に「岸本」「山岸」「岸」「根岸」「岸田」の5つが入っている他、以下も「岸野」「岸川」「川岸」「峯岸」「岸上」「峰岸」と続き、「高岸」も3000位以内に入るメジャーな名字である。
しかしこれらをみると、「岸」が海と陸地の境目とすると、どういう場所かわかりづらいものもある。
最多の「岸本」は「岸の下」という意味。「岸」が海岸だとすると、「岸本」のルーツは海の中になってしまう。総理大臣の名字である「岸田」も、海岸沿いの田んぼを指すとすると、それ程多いとは思えない。そもそも海の水を田んぼに引くわけにもいかず、あまり水田作りに適している場所ではない。さらに、「山岸」とはどういう場所を指すのだろうか。
実は、「きし」には別の意味があった。古くは地形の大きく変化するところを「きし」といい、海と陸地の境目だけではなく、山と平野の境目も「きし」であった。そもそも漢字の「岸」に使われている「屵」も崖が切り立っていることを指すという。
そう考えると、「岸田」は「崖地の下のある田んぼ」、「山岸」とは「山の中の崖が切り立っているところ」となり、どういう場所が想像がつきやすい。いずれも山間地の多い日本ではよく目にする光景だ。
実際、「岸本」という名字は岡山県と鳥取県の県境付近や、兵庫県の小野市や加東市に集中している。さらに、「山岸」は長野県が最多で、「岸」も群馬県や山形県の最上地方など、「岸」のつく名字は圧倒的に内陸部に多い。
ということは、「高岸」は「高く切り立った崖のあるところ」であろう。「高岸」という名字は九州から関東にかけて広がっており、とくに多いのは海なし県である群馬県と埼玉県。そして、埼玉県では秩父地方に集中しているなど、あきらかに山間部に多い。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。