「せめてうちの家で死なせてあげよう」弱った子猫を引きとって17年 お風呂が大好きなゴロタロウは今どこに

一般的には、猫は水やお湯が嫌いという事になっています。でも、中には水やお湯が大好きで海や川で泳いだり、飼い主さんと一緒にお風呂に入ったりする子もいます。 

Hさんの飼っていた猫は茶トラ白猫の雄で、名前をゴロタロウと言いましたが、彼も水が大好きだった猫でした。 

名前は「いぬのごろたろう」という絵本からとったそうなのですが、お話の内容とは全然関係なくて、いつも喉をゴロゴロ鳴らしているから、ゴロタロウとつけたそうです。 

ある日、Hさんが山あるきをしていたところ、麓の東屋に子猫数匹が段ボールに入れられて捨てられているのを発見しました。生後1~2カ月齢の兄弟たちだったようですが、皆元気に段ボールから出て、近くを散策しているところでした。しかし、ふと、段ボールの中を見るとぐったりしてうずくまっている子が一匹だけいました。その子が後のゴロタロウでした。 

Hさんは、「こいつは弱ってるから、きっとこのまま死ぬんやな。せめてうちの家で死なせてあげよう」と思って連れて帰ったそうです。

当時、Hさんはアパートの2階に住んでいて、下のお宅が飼っている猫がちょうど出産したばかりで子猫用のミルクを持っておられたので、それを分けてもらい、そして猫の飼い方やあれこれも教えてもらったそうです。 

一度は死ぬんやなと思ったのですが、もちろん生きて欲しいので…猫缶と猫砂を買ってきて、ゴロタロウにミルクと缶詰めを与えたそうです。しかし、ゴロタロウは元気がなく、食べるのもおぼつかない様子だったといいます。Hさんは、アイスクリームに使う木のスプーンで缶詰を口まで持っていって食べさせることを繰り返しました。そして、ゴロタロウの体は結構汚れていたので、Hさんの手のひらにゴロタロウを入れて、一緒に浴槽に入ったそうです。直後、無数のノミが浮いてきたとのこと。洗いたい気持ちはよくわかるのですが、弱っている猫であれば、基本的には体力がついてからお風呂に入れることをお奨めします。お風呂は体力を使いますから(獣医師より) 。

Hさんの熱心な介護により、ゴロタロウは少しずつ元気になっていきました。やがて、Hさんはゴロタロウに首輪とリードをつけてアパートの開けっ放しの玄関につないでおくようになりました。季節はちょうど春から夏へ…アパートの二階、階段を上がってすぐがHさんの部屋だったので、二階の住民はそこを通るたびにゴロタロウを撫でてかわいがって行きました。昭和ですね。ゴロタロウはこの首輪とリードで毎日お散歩にも出かけました。

Hさんは、玄関にいるゴロタロウが水飲みにも水浴びにも使えるようにと、昭和なブルーの大きな丸いタライに水を入れて置いておいたところ、ゴロタロウはよくそのタライの水に浸かっていたそうです。

ある日Hさんが入浴していると、ゴロタロウがお風呂の扉をカチッと開けて(器用ですね)侵入し、洗い場に座ってニャンニャンゴニョゴニョとHさんにひとしきりお話をした後、湯舟に前足をチョイッと付けて湯加減を確かめる仕草…。

「なに遠慮してんねん?」Hさんはゴロタロウを抱いて湯舟につけてみると、なんとも言えない表情になりゆっくり息を吐きながら目をつぶり悦に入っていたようでした。以来、お風呂好きは本物となり、ちょくちょく入浴を楽しんだそうです。 初日に浴槽に浸かったのがよほど気持ち良かったのでしょうか?

Hさんはしっかりと料理をするタイプなので、ゴロタロウのお食事もまた、質素だけれど豪華でした。つまり、Hさんが調理した人間用の残りの大根、人参、葉物野菜、近くの空き地で採ってきたエン麦、さばいたお魚の残り…これらのごっちゃ煮を、ゴロタロウはもらっていました。その他に、キャットフードも与えられていました。 

 やがてHさんは結婚し、直後になんと、夫婦で2年間かけて世界一周旅行に出かけることを決意しました。その間、ゴロタロウは義理のお母さんの家で預かってもらうことになりました。そこには昭和の雑種犬、メスのフクちゃんがいました。ゴロタロウはフクちゃんとの初対面の時は、シャー!フー!と威嚇していたそうなのですが、そのうちに、一緒に犬小屋の中で暮らすようになりました。家族が帰宅して小屋に向かって名前を呼ぶと、いつもフクちゃんとゴロタロウの2匹が次々に、ポン、ポンと出てきたそうです。 

そして2年後、Hさんたちは帰国してゴロタロウを引き取り、今度は小学校の通学路に面した一軒家に引っ越しされたそうです。ゴロタロウはやっぱりその玄関につながれて、毎日通学途中の小学生たちにかまってもらって過ごしていました。 

Hさんは、どこに行くにもゴロタロウを連れて行きました。車に乗せると、ダッシュボードの上に寝そべり(良い子の皆さんはマネしないでくださいね!)、下に降ろすと膝に乗って来てしまいました。危ないので、助手席にシートベルトで箱を固定してゴロタロウを入れると、気に入ったようで、以来いつもその箱の中がゴロタロウ指定席になりました。 

結婚した奥さんには最初は懐かずにそっけなかったのですが、何故か奥さんが妊娠した途端にベタベタするようになったそうです。そして、子供が生まれると、今度は子供といつも一緒に…毎日のお昼寝は一緒に、ときには子供の枕になり、ときには布団の中でふたりが絡まって、ずっと一緒にいたそうです。 

アウトドア好きなHさんは、ゴロタロウも含めて家族で海や川や琵琶湖に行きました。初めて川に遊びに行ったとき、ゴロタロウのリードを大きな石にくくりつけておいたのですが、気づくと、リードと石が付いたまま、ゴロタロウは川を泳いでいたそうです。 ひとしきり泳いだ後は、浅瀬で香箱座りをして半身浴…水浴びが大好きなのですね。以後は、泳げるところでは必ずHさんがリードを持って泳いだそうです。もちろん、周りのちびっ子たちには大人気でした!

結局、ゴロタロウとHさんは17年間一緒に暮らしましたが、お別れはあっけなくやってきました。ゴロタロウは17歳になり、だんだん痩せて弱ってきているようでしたが、ごはんも食べていたし、特にしんどそうな素振りもなかったので、そのままいつもの暮らしをしていました。季節は春だったので外の風が気持ちよく、ゴロタロウもいつものように洗濯干し場に箱を置いてもらって、その中でお昼寝をしていました。 

そしてその晩、ゴロタロウは何故か部屋に入りたがりませんでした。いつもであれば、夜は家に入ってHさん家族と一緒にお布団で寝るのですけれども… 。

 Hさんは、もう5月だし夜は寒くないから良いか…と思い、そのままゴロタロウを外において就眠したそうです。 

翌朝、Hさんが起きると、首輪とリードだけが残っていて、ゴロタロウの姿は有りませんでした。痩せてきていたので、スルリと抜けられたのでしょうか。Hさんは焦りました。ゴロタロウはお散歩にも行っていましたし、近所では有名な猫でしたから誰かが見つけたら連絡が来るはずですが、いつまで経っても、誰からも連絡はありませんでした。そして、それっきりになってしまいました。 

 なんともあっけないお別れでしたが、振り返ってみるとゴロタロウの生活は、のんびりほっこり、Hさんとは付かず離れず気ままな17年間でした。猫の17歳は結構な長生きですが、このような暮らしが長生きの秘訣なのかもしれませんね。最期も、ゴロタロウらしく、自然に戻って行ったのかもしれません…。

(獣医師・小宮 みぎわ)

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