新型コロナ陽性者の療養期間は短縮したが…海外とは大きな隔たりがある社会生活の実態
2022年9月7日から、新型コロナウイルス陽性者についての療養期間が短縮されました。
「療養期間を短縮するということは、ウイルスの性質が変化して、排出期間も短くなったということなの?」「つらい症状が続いていても、7日経てば職場復帰していいの?」など、今回の療養期間短縮に関するご疑問、そして、日本のコロナ対応の問題点についても、考えてみたいと思います。
■新たな療養期間
今回の新たな療養期間は、以下の通りです。
①有症状の方
発症の翌日から7日が経過し、かつ、症状が軽くなってから24時間経過した場合、8日目から療養の解除が可能。(これまでの療養期間は10日)
②無症状の方
検体採取日から5日目に検査で陰性を確認した場合、6日目から療養解除が可能。(これまでの療養期間は7日)
なお、5日目に検査をしない場合は、検体採取日から7日間を経過した場合に、8日目に療養解除が可能(従来から変更無し)。
※ただし、①②ともに、感染リスクは残っていると考えられることから、有症状者は10日、無症状者は7日経過するまでは、自身の健康観察や、高齢者等との接触や会食を避けるなど、感染予防行動を徹底。
③入院中や有症状の高齢者施設入所者
従来から変更無し。発症の翌日から10日が経過し、かつ症状が軽くなってから72時間以上が経過した場合に11日目から療養の解除が可能。
■療養期間短縮の根拠や意味することは?
「陽性者の療養」には、①患者本人の体調を悪化させない・回復させるという意味と、②他に感染を広げないという意味とがあります。(無症状感染者については、②のみということになります。)
「療養期間を短縮する」ということは、「このくらいの日数が経てば、他に感染を広げるリスクが、かなり低くなってきていると考えられるから、国民生活の維持とのバランスなども考えて、この時点で療養期間を終了してよいことにしよう」という判断です。
今回の療養期間短縮の根拠とされる調査で、新型コロナウイルスに感染した方から、何日目までウイルスが検出されるか、についての国立感染症研究所の調査結果(※)を見てみます。
発症日を「0日」として、ウイルスが検出された人の割合は、
1日目96.3%、2日目87.1%、3日目74.3%、4日目60.3%、5日目46.5%、6日目34.1%、7日目23.9%、8日目16.0%、9日目10.2%、10日目6.2%、11日目3.6%、12日目2.0%、13日目1.1%、14日目0.6% となっています。
(※)この調査については、2021年11月から22年1月時点でまでのオミクロンBA.1感染者の検体を用いた調査であることと、検体数が少ない(59症例から採取した94検体)という点が、少々気になっています。
この結果を基に、「8日目(7日間待機後)になると、多くの患者(84%)は、感染力のあるウイルスを排出しておらず、感染力のあるウイルスを排出している者においても、ウイルス量は発症初期と比べ、7日目以降では6分の1に減少した」と考えられることから、「発症日から7日間経過し、かつ、症状軽快から24時間経過している場合、8日目から療養解除を可能とすることとした」ものです。
どんなことであれ、リスクを「ゼロ」にするということは、大変難しく、したがって、どこで線を引くことにするか、という判断になります。
日本では、これまでに約2000万人の人が新型コロナに感染し、第7波(7月中旬からの2か月)だけで約1000万人が感染しています。(無症状者や検査をしない人が多いので、実際の感染者はもっと多いだろうという話は、日本に限らず、以前からあります。)
こうしたことや、現時点までに判明している新型コロナウイルスの性質なども踏まえ、「ご本人や社会経済活動等への影響も考え、『9日目に10%程度の方がウイルスを放出するリスク』は許容することとした」ということになります。
つまり、ウイルスの排出期間が短くなったことが確認された、といったことではなく、あくまでも、リスクをどこまで許容することにするか、という判断の変更であり、したがって、「感染リスクが残存することから、有症状者は10日、無症状者は7日経過するまでは、自身の健康観察や、高齢者等との接触や、会食を避けるなど、感染予防行動を徹底していただく」ということになりますし、つらい症状の続く方は、引き続き療養していただくということになります。
■海外の療養期間
海外の療養期間はどうなっているのでしょうか?
<米国(CDC)>
・無症状者:5日間
・軽症者:解熱後24時間経過+症状の改善+5日間
※ いずれも、10日目までは家庭や公共の場でマスクを着用し、11日目までハイリスク者との接触を避ける。
・中等症・重症、免疫不全の人:10日以上(解除日は専門家に相談)
<英国>
5日間
※10日間は、ハイリスク者との接触や混雑した場所を避け、マスク着用や手洗い等の基本的感染対策を行う。
<フランス>
・ワクチン接種が完了または12歳未満:原則7日間で、症状改善後48時間経過+検査で陰性の場合は、5日間
・ワクチン接種が完了していない人、未接種の人:原則10日間で、症状改善後48時間経過+検査で陰性の場合は、7日間
※ いずれも、隔離解除後7日間は、マスク着用と衛生対策を行う。
<ドイツ>
・一般の方:5日間、ただし、5日目以降に抗原定性検査を繰り返し実施し、陰性になるまで隔離を継続することを推奨。
・医療施設、介護施設等の従業員:上記に加え、就業を再開するための前提条件として、48時間症状がなく、5日目以降に実施した検査が陰性
こうして見ると、「日本とあまり変わらないな」というイメージかあるもしれませんが、欧米各国の現在の社会生活の実態を見ると、水際対策(入国規制)や濃厚接触者の隔離義務は、すでに撤廃され、マスクを着用している人はほとんどおらず、ソーシャルディスタンスもなくなり、大規模スポーツやコンサート等も普通に声出し…等など、実態としても、人々の意識としても、ほぼ日常を取り戻している感があり、現在の日本とは、大きな隔たりがあると思います。
現在の日本の新型コロナ対応の根本の問題点は、感染症対策というのは、本来は国として、「(その段階において)『新型コロナウイルス感染症』を、どのようなものとして位置付けて、国としてどう向き合うこととするか」という判断が先にあって、それに応じて各対策を論理一貫して定めて(緩和して)いくべきものであって、そこを曖昧にしたまま、「現場が大変だから」「世論の批判があるから」といった理由(のように見える)で、バラバラと緩和していっていることが、必ずしも広く国民の納得感や安心感を得ることができていない理由のひとつだと思います。
こうしたこともを踏まえ、以前から議論されている新型コロナウイルス感染症の分類変更や、医療ひっ迫という根本的な問題について、次回以降考えてみたいと思います。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。