安倍氏国葬で問われる日本の「警備力」 何もなくて当たり前、奈良の模倣犯が現れたら即外交の危機
安倍元総理の国葬について論争が紛糾するなか、岸田首相は9月8日、衆院の議院運営委員会に出席し、安倍元首相の国葬について、「民主主義の根幹たる選挙運動中の非業の死であり、我が国は暴力に屈せず民主主義を断固として守り抜くという決意を示していく」との認識を示した。また、16億6千万円と見込んでいる国葬の費用については「過去の様々な行事との比較においても妥当な水準である」と強調し、国民に理解を求めた。
しかし、これについて、国民の間では反発の声が強まったままだ。菅元総理も「経費総額などの全体像を初めから国民に示せばよかった」との認識を示しており、これは岸田政権の生き残りをかけた命運になる可能性がある。
筆者個人の意見では、国葬にするべきではないと考える。安倍元総理の実績は高く評価されるべきであり、特に外交・安全保障分野では画期的だった。しかし、個人のセレモニーに16億以上もの莫大なカネが使われることには懐疑的で、貧困対策などもっと重要な使途があると思う。
いずれにせよ、27日には国葬が行われるようだが、問題なのは多くの海外要人が訪れるなか、果たして無事に開催されるかという点だ。安倍元総理が殺害された件で、防ぐことができたと警察庁や奈良県警も不手際を認めたが、国葬に必要な警備のマンパワーは同事件で必要だった警備の比ではない。現在のところ、ハリス米副大統領やオバマ元大統領、カナダのトルドー首相など多くの海外要人が参列する予定だが、十分に警備が施されるかが問題だ。
日本国内でも物価高や円安の影響で経済格差が拡大し、それに不満や怒りを強める若者も決して少なくないはずだ。そういった若者のなかには社会への恨みを晴らすため、また、日本を混乱に落とすためなどとして国葬の際に奈良の事件を再現してやろうとテロ行為に及ぼうとする者が出てきても不思議ではない。
仮に、そういった者による海外要人への暴力、暗殺などが起これば、日本警察の警備力や情報力への信頼が底に突くだけでなく、日本の外交的立場も一気に悪くなる。今日、世界では台湾有事やロシアによるウクライナ侵攻を巡り、米中露の大国間争いが激化しており、日本としては絶対に米国との安定的関係が必須となる。しかし、米国からの海外要人の何かあれば、米国からの日本への信頼は低下し、日米同盟も停滞し、そこを中国やロシアがこれまで以上に突いてくる恐れがある。
岸田政権として、今回の国葬を無事に終えられるかどうかは、今後の政権運営を左右する。しかし、無事に終了できてもそれが支持率上昇に繋がることはなさそうだ。国民の反対は根強く、仮に国葬で大きな問題を露呈すれば、岸田政権の支持率がさらに低下することは避けられないだろう。
国葬には以上のようなリスクがつきまとう。安倍元総理の実績は評価されるだが、リスクを背負ってそこまで開催するべきかといえば、筆者はどうしても懐疑的にならざるを得ない。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。