猫たちは未去勢で喧嘩ばかり、しかも経営難でオーナー失踪… 問題だらけの保護猫カフェを救った、大学生アルバイトの決断
保護猫の認知度が高まり、譲渡型保護猫カフェの数もうなぎ上り。すべての保護猫カフェで大切に飼育されていれば問題ありませんが、中には適切な飼育ができず猫が病気になったり怪我をしたりする保護猫カフェも存在します。大阪府高槻市で運営されていた保護猫カフェ「チェリッシュ」でも、不適切な飼育が行われていました。
この状況を打破すべく立ち上がったのは、ひとりのアルバイト店員。当時、大学生の松田亮介さんです。幼いころから猫と暮らし、猫と共に生きることが当たり前だった彼は、目の前に広がる光景に声を上げずにはいられませんでした。
■猫についてあまりにも無知なオーナー
松田さんがチェリッシュに入店したのは、2018年4月のこと。オープニングスタッフとして採用されました。この時、松田さんは大学1回生。大学の帰りに寄りやすく、何より大好きな猫のお世話が仕事になるなんて、夢のようだと。
しかし、その夢は入店直後に打ち砕かれます。店内にいたのは、未去勢・ワクチン未接種・人慣れ訓練ゼロの元野良猫ばかり。未去勢ですから猫同士の喧嘩が絶えません。猫同士だけでなく、来店するお客さんに対しても猫たちは敵愾心を見せることも。
チェリッシュで、ハリネズミとミニブタも飼育していたのも大きな問題でした。ハリネズミはいくら体を針で覆われているものの、猫の前では無力です。店内が無人になる深夜、猫がハリネズミで遊び、朝出勤してきた店員が血まみれのハリネズミの処置をすることもしばしば。
ミニブタのトンカツちゃんも、適切なご飯がもらえずガリガリの体です。オーナーは野菜を与えておけば良いと言いますが、どう見ても健康的な体ではない。
実は40代男性のオーナーは、元々動物に関する事業を行っていたわけではありません。動物の知識がほぼないオーナーに、松田さんをはじめアルバイトスタッフは何度も改善を求めました。しかし、その都度のらりくらり。店に来て現状を確認することもありませんでした。
オーナーがこんな調子ですから、猫たちはちっとも幸せそうに見えません。客足も思うように伸びませんでした。
■立ち上がったアルバイトスタッフ
何の改善も施されない中、どんどん野良猫を保護してくるオーナー。ノミがついたまま店内に放ち、他の猫にうつってしまうことも。こんな状況ですから、オープン後1年も経たないうちに体調を崩す猫が続出します。
これではいけないと、松田さんたちアルバイトスタッフが自腹を切り、猫たちを医療につなげることを始めました。アルバイトで得た収入を全て猫たちのために使う、そんな本末転倒な現象が起きてしまったのです。それでも目の前で苦しむ猫たちを放っておくことはできませんでした。
ミニブタのトンカツちゃんの食事について調べたのも、獣看護師の資格を持つアルバイトスタッフでした。やはり野菜だけでなくタンパク質が必要だと分かり、専用のフードを与え始めたのです。すると、ガリガリで無気力だったトンカツちゃんが、どんどんと成長。見違えるような毛艶の良いミニブタへと変貌を遂げます。
松田さんたちアルバイトスタッフのおかげで、何とか落ち着きを見せた猫たちですが、これでは健全な経営とはいえません。オーナーとアルバイトスタッフたちとの対立は、日に日に増していくこととなります。
■オーナーと対決、その結末は…?
2020年初頭、アルバイトスタッフが動物たちのケアに心血を注いでいる中、オーナーは伸びない売上に業を煮やしたのか閉店を決断。駅前の一等地の家賃や、まったく里親が見つからない猫たちの食事代がかなり重たくのしかかっていたよう。
突然の告知に松田さんたちアルバイトスタッフはビックリ。猫やハリネズミ、ミニブタはどうするのか、オーナーに尋ねます。すると、オーナーは「任せる」と言い残し、連絡を断ちました。
さあ困った松田さん。この時、バイトリーダーになっていました。このまま猫たちを放置するわけにはいきません。責任者不在のまま、チェリッシュは存続していくこととなります。やるしかない。
そのさなか突如沸き起こったコロナ禍により、客足は激減。家賃の未払いが続きます。松田さんはビルのオーナーに何度も頭を下げ、支払いを待ってもらえるよう交渉しました。ビルのオーナーもチェリッシュで何が起きているか知っていますので、温かく見守ってくれます。
かといって、善意に甘えてばかりはいられません。松田さんはクラウドファンディングを実施し、猫たちのために216万円もの寄付を集めました。この寄付により、家賃や光熱費の支払いを行い、安心して猫たちが過ごせる環境を整えます。
未来がどうなるかなんて考えるヒマなどありません。気付けば松田さんは大学にほとんど通えず、3回生に履修した単位をほとんど落としていました。
■法人化しリニューアルオープン!でも…
責任者不在の宙ぶらりんの状態が半年ほど続いたチェリッシュですが、2021年4月に一般社団法人AnimalProtectとして再スタートを切ります。店名は「チェリッシュ」のままです。この名前でリニューアルすることが、今まで支えてくださったお客さんの安心につながると考えたからです。
代表は松田さんに決まりました。しかし、松田さんのご両親、特にお母さんが泣いて引き止めました。大学卒業後は安定した職業に就いてほしいと願っていたのに…。そんなご両親に松田さんは覚悟をもってチェリッシュの状況、自分の可能性について話しました。この熱意が伝わったのか、最終的にご両親は応援してくれるように。今では隔離が必要な猫を家に迎え入れてくれるほど。
猫たちと同居していたハリネズミの処遇も松田さんは考えます。体の大きさを考えると、共存は難しい。そこでハリネズミの里親募集も行い、無事全員の新しい家を見つけました。これで猫たちに専念できます。
猫の譲渡方法も、法人化した際に一新。里親さん候補の方との対話を重視するようになりました。譲渡費用も以前より高い金額に設定しましたが、それは血液検査を2回行うため。1回の検査では見過ごされていたものを見逃したくない、命を大切にしたいという思いからです。
■猫好きが集まる店に
猫たちのために4年間走り続けた松田さん。今年3月無事に大学を卒業し、本格的にチェリッシュが愛される保護猫カフェになるよう尽力しています。目標は「猫好きが集まる店」。お客さん同士が気軽に猫の話や相談ができる場を提供できるよう、アイデアを練っています。
この松田さんをサポートする、スタッフのはるかさんは「猫を知ってもらうきっかけになる店に」とおっしゃられていました。積極的にお客さんと会話をし、会話を通じて猫の魅力や猫との暮らしの楽しさを伝えていければと。
紆余曲折を経たからこそ、猫にも人にも優しくできる。都会のオアシスのような存在に、譲渡型保護猫カフェ「チェリッシュ」はなりつつあります。
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【一般社団法人AnimalProtect「譲渡型保護猫カフェ チェリッシュ」】
大阪府高槻市北園町19-16 タムラビルⅡ3階
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)