落語家が「レクリエーション介護士」の資格を取得したワケ 真面目が売りの鶴瓶12番目の弟子
自ら立ち上げた新ジャンル「ノンフィクション落語」が注目を集めている笑福亭鉄瓶。師匠・笑福亭鶴瓶も「入ったときから真面目だった」と評するほど真面目な落語家が、「ひたむきに生きる市井の人々」の人生を落語にしたいと思った理由とは一一(前編・後編の後編)。
一一「ノンフィクション落語」に気持ちが向いていったのは、コロナ禍で色々と思うところがあったというのもあるのでしょうか。
笑福亭鉄瓶(以下、鉄瓶) 自粛期間中は、落語をできるのが当たり前のことではないんだと痛感して、根本に立ち返って考える時間でした。僕は、真面目な人にスポットライトが当たらないのがとても嫌なんです。真面目な人が一生懸命にやって、そこそこ頑張ってるのに、真面目ゆえに注目されないっておかしいやろ? って。そんなことを考えていた頃に、西畑さんの記事に出会いました。僕も、この世界で言ったら「真面目」なんですよ。師匠の鶴瓶がバラエティ番組のトークなんかで、よく弟子のアホな話で笑いをとるんですが、僕のエピソードは絶対に出てこない。一門の中で、僕だけ「しくじらない弟子」なんです。それがずっと、コンプレックスでした。僕は「かけひき」みたいなことができない性分で、全部腹の内を見せたいんです。それって、損なことだとわかってるし、コミュニケーションがもっと上手な人をうらやましいと思う気持ちもあるんだけど、やっぱり変えられないんですよね。これはもう僕の「根」やから。
一一子どもの頃から真面目だった?
鉄瓶 子どもの頃は、大阪でいう「いちびり」。目立ちたがり屋でした。だから舞台ではおかしいこともしますし、アホなことも言うんですけど、根本が真面目なんですよ。後輩らからしたら、僕は暑苦しいんだと思います。その真面目ゆえのコンプレックスや、ヤキモキした気持ちを、僕らの仕事ではネタにできますけど、一般の方にはそういう場がない。だったら僕が「こっち側」へ持ってきたいな、という気持ちが大きくなっていきました。
一一「真面目」が新境地につながったと。
鉄瓶 人様の人生を扱わせていただくので、そう言ってしまっていいのかわかりませんが、自分の性格にビタッと合うものがこれなのかな? という気はしています。
一一コロナ禍で自粛期間中に「レクリエーション介護士」の資格を取られたとうかがいました。
鉄瓶 とにかく時間があったので、何か勉強をしようと思ったんです。「レクリエーション介護」の中で、落語の所作を用いて指先の訓練なんかもできるのではないかと。そしてまた、お年寄りばかりでなく、お子さんたちとのコミュニケーション・ツールとしてもこのメソッドが使えるんです。現在、お子さん相手の「落語ワークショップ」のようなことで、全国を回らせていただいています。今、落語を聞きに来てくれる若いお客さんが減る一方なので、できるアプローチは何でもしたいと思っています。今までと同じようなことをしていては、お客さんの層は拡がっていきませんから。「ノンフィクション落語」もその一環です。
一一先日ニュース番組で「ノンフィクション落語」が取り上げられ、反響も大きかったのでは。
鉄瓶 お陰さまで、いろんな方にお声がけいただきました。とにかく僕らは何かしら動いて、興味を持ってもわないといけない。「分母」を増やしていかないと。それまで落語に興味のなかった方に寄席に来てもらうにはどうしたらいいのかを、常に考えています。だから、全国から「ノンフィクション落語」でお声がけいただくときに僕が必ず言うのは、「独演会というスタイルをとらせてください」ということなんです。そうすると、上方落語がもう一席できる。「ノンフィクション落語」に加えてもう一席、「古典も聞いて帰ってね」と。
一一これから、どんなメッセージを発信していきたいですか?
鉄瓶 とにかく僕は、上方落語が盛り上がることが一番だと思うので、そのためにできることは何でもやりたいという思いです。いろんな「見せ方」で、興味を持って寄席に来てもらって、「ね? 落語って面白いでしょ」と言える状態をキープするために、常に稽古しておかなきゃいけませんね。
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「ノンフィクション落語」第2作「パパ弁~父と娘をつなぐ1095日~」の初披露となる「笑福亭鉄瓶 独演会」が10月2日(日)大阪・朝日生命ホールにて、11月6日(日)東京・日比谷コンベンションホールにて開催。チケットはチケットぴあ他にて発売中。当日券も発売される。
(まいどなニュース特約・佐野 華英)