「石油王の子息と同乗させる」!? スクールバス置き去り事故、タイでは6年で6人死亡、マレーシアでも… 対策聞いてみたら驚きの回答も
静岡県の幼稚園の送迎バスの中に3歳の女児が置き去りにされ、亡くなった事故は、遠く離れた海外の日本人コミュニティーにも大きな波紋を広げています。私が暮らすマレーシアは毎日が常夏な上、スクールバス通学の子どもが日本より格段に多く、同じような事故がいつ起こってもおかしくない状況です。どうすれば防ぐことができるのか-。多くの親が頭を悩ませる中、日本からマレーシアに渡り、4歳の子どもがいる母親が、SNSを使って通学方法の実態や対策について在留邦人らにアンケートを行ったところ、「スマホを持たせる」といった自衛策を講じる人が多かったほか、「石油王の乗るバスに同乗する」といった驚きの回答を寄せる人もいました。
■ 海外でもバス閉じ込めで死亡事故
アンケートを実施したのは、マレーシアで暮らすSuni(スニ)さん。夫の仕事で約5年前にマレーシアに転居し、自身もフルタイムで働きながら4歳の息子を育てています。息子は現在、自宅から歩いて行ける保育園に通っていますが、小学校に進学した後は通学手段としてスクールバスも視野に入れているといいます。
海外では強盗や誘拐に遭うリスクがあるため、日本のように小学生だけで歩いて登下校するケースは少なく、親による送迎かスクールバスを利用するのが主流です。そのため、今回のようなバス内の置き去り事故は過去にも頻発しており、マレーシアでは2017年に6歳の男の子が、タイでは2022年8月末に7歳の女児が亡くなっています。タイの地元メディアによると、2014年から2020年にかけてタイ国内では129件の車内閉じ込め事故が報告されており、6人が命を落としました。
スニさんは、スクールバスにおける安全対策を知るとともに、コロナが落ち着き、移住する日本人が増えると予想されるマレーシアで、少しでも多くの人に有益な情報を伝えたいと思い、広く意見を募ることにしました。アンケートは、マレーシアの保育園、幼稚園、小学校に子どもを通わせる保護者を対象に、インスタグラムやFacebookの日本人コミュニティーなどで呼び掛けたところ、124人から回答を得ました。
結果は次の通りです。
【子どもの通学手段について】
① マイカーや配車サービス(Grabなど)による送迎:37.9%
② 学校直営または提携のスクールバス:33.1%
③ 徒歩で送迎:21.8%
④ スクールバス以外の送迎サービス:7.3%
【スクールバスの置き去り防止(自由回答)】
① スマートフォン、スマートウォッチなどを持たせる
② 石油王や裕福な国の大使館勤務などの子どもが利用するバスを調べて、同じバスに乗せる
アンケートの結果、スニさんは徒歩を含めた自主送迎の割合が半数を超えていたことに驚いたと言います。
置き去り防止策では、圧倒的に①の「スマートフォンやスマートウォッチを持たせる」という回答が多かったそうです。何かあっても子どもがいつでも連絡できるよう、使っていない自身のお古のスマートフォンを再利用するなど、ベストな方法を模索しているそうです。②の「石油王のバスに乗せる」については実現性がかなり低そうですが、石油王やお金持ちの国の大使館の子息が、社会性を学ぶためにスクールバスを希望することがあり、そのバスに乗るとセキュリティが倍になるので、「石油王バス」に乗ると安全性が高まるそうです。
また、トラブルに巻き込まれた場合を想定し、自宅の住所や保護者の携帯番号を書いた紙を子どものカバンに忍ばせておくことや、徒歩通学の際も強盗や誘拐のリスクを下げるために派手な言動を控える、など通学全般における意見が多数寄せられたと言います。
■バスの安全対策はドライバー次第
マレーシアで暮らす私自身も、5歳と7歳の子どもがおり、毎日片道約40分かけてスクールバスで登校しています。スクールバスは学校とは別会社が運行しているため、教師が同乗せず、安全確認はその日のドライバー次第。我が子が乗ったバスは先日、学校帰りに別の生徒1人を積み忘れたこともあって、安全性は日本より低いように感じています。
真夏日が連日続くマレーシアでは、車内のクーラーの効きが悪い日は、たかが片道40分でも汗びっしょりになって帰ってきます。特に下の子はバスで寝てしまうことも多く、置き去りにされていないかと、ヒヤヒヤする毎日です。私が運転して送り迎えをすれば置き去りの心配もないのですが、マレーシアは交通渋滞が酷く、40分で学校に着いても、帰りは2時間半かかることもざらで、車での送迎は現実的ではありません。
我が家では事故を機に、子どもたちにはまず、バスの窓の開け方、クラクションの鳴らし方から教えました。マイカーに慣れているせいか、手動で窓が開くことを知りませんでした。クラクションは子どもの力だけでは鳴らないケースもあると聞き、毎日持参している水筒の底を押し当てて、全体重をかけるよう伝えています。
まわりのママ友に聞いてみると、GPS搭載のスマートウォッチを持たせている人もいました。腕時計のようなデザインで子どもでも身につけやすく、離れた場所からでも位置情報を把握することができるため、親の目が届かない登校後も子どもの異変を察知しやすくなります。我が子たちにはスマートフォンはまだ早いと思っているので、スマートウォッチの購入も考えています。
スニさんも車を手配して自身で送迎する方が安心なのかと思う一方、共働きのため、スクールバスで自宅まで送り迎えしてもらうのはとても助かると言います。「出産前はそれほど気にしていなかった通学事情ですが、今回の事故を機にいろいろと考えさせられてしまいました」とスニさん。小学校進学までに、学校の徒歩圏内に引っ越しすることも含めて、検討しているそうです。
(まいどなニュース特約・斉藤 絵美)