歯科医芸人が現地で聞いた「ナイアガラの滝」の話 なぜ世界遺産ではない?毎年3センチ後退、毎年平均30人死亡
ニューヨーク州立大バファロー校で講義をしていた歯科医芸人の”パンヂー陳”こと陳明裕さんは、役目を終え、帰国しました。帰国前には今年も大学から車で15分のところにあるナイアガラの滝に行ってきたそうで、お勧めのスポットやウンチクを語ってくれました。案外、タメになる話がありました。(聞き手・山本 智行)
--無事に帰国されて何よりです。本当に講義に行ってたかは怪しいですが。
陳明裕(以下陳):いや、何かと大変だったんですよ。少し前なんか、うちの大学に安倍元首相の国葬でも来日したハリス副大統領が講演に来ましてね。大学の前はお巡りさんだらけで、あっちこっちで通行止めに。構内に入るため、周りを車で1周しましたが全部の入口が閉鎖されていて入れませんでした。
--大学の教員でも入れないなんて。
陳:以前、ダライラマやオバマ大統領も来ましたが、これほど厳重な警備ではありませんでした。オバマ大統領の時はSPを連れていたとはいえ、地元の名店「バッファローチキンウイング」に立ち寄ったりしていたんですけどねぇ。
--ハリスさん。そこまでして、なんでバッファローなんかに来はったんですか?ナイアガラの滝でも見たかったんですかね。
陳:そうそう、ちょうどこの時期、10月10日のCanadian thanks givingまでは毎夜10時から滝をバックに花火も上がりますし、きれいですからねって、そんなわけないでしょ!
--では、なんでまた?
陳:ハリスさんの講演は地球環境問題に関するものだったようです。一応、うちの大学は敷地内に太陽光発電施設があったり、SDGs関連の研究では全米でもトップクラスなんだそうです。ナイアガラの滝の話が出たついでに、ちょっとお時間いいですか。つい先日、ニューヨーク州立大のToshie Kenney先生からナイアガラについてのウンチクを聞いたもので。
--いいですね。ナイアガラの滝、一度は行ってみたいです。
陳:大学から車ですぐなんで、今年も行ってきましたよ。ところで、ナイアガラの滝は南米の「イグアスの滝」やアフリカの「ヴィクトリアの滝」と並んで世界三大瀑布と言われますが、大きな違いがあるん、知ってました?
■「ナイアガラの滝」世界自然遺産に登録されていないワケ
--大きな違い?なんですかね。昔「落ちたら命がナイアガラ」なんての、ありましたが…。
陳:まじめに答えて下さい。どの滝でも、あんな大きい滝に落ちたら「命はナイアガラ」です。そんな古いCMよう覚えてはりましたね。答えは他の滝は世界自然遺産なのに「ナイアガラの滝」だけ登録されていないんです。
--なんで、また。
陳:トシエ先生によると、理由は人の手が加わっていて自然の状態ではないからとのことです。実は1950年代までは水量が多く流れが急なため、陸地が浸食され、年間約1メートルずつ滝が川上に移動していました。1960年代に水流調整施設をつくったおかげで現在は年間3センチほどの浸食に抑えられているそうです。
--へぇー。
陳:今でも水量は夏で毎秒283万2000リットルもあります。冬は寒いので滝が半分くらい凍ってしまいますが、それでも141万6000リットル。このペースで浸食が続けば、2万5千年後に滝は消滅してしまうらしいですから早めに行かれた方が良いですよ。
--2万5千年も余裕あるなら、そない急がんでもええでしょ。
陳:いえいえ。山本さん、そろそろ普通に歩いてても転びやすいお年頃に差し掛かってるでしょ?もし行かれても滝に落ちないように気を付けて下さいよ。10年ほど前、カナダに留学中の日本人女性が柵の所で写真を取ろうとして滝に転落して亡くなったこともありましたしね。
--確かに、そんなことありました。痛ましい。
陳:ちょっと資料が古いですが、1850年から2011年の間、滝の下流で約5000の遺体が発見されてるそうです。平均すると毎年30人以上が滝で亡くなっている計算。大半は自殺だそうですが、ほとんどは、この女子学生が落ちたカナダ側からだそうです。実際、カナダ滝の売店の前はホント“目とまつ毛”の先くらいに滝がありますから。
--目とまつ毛ですか。それは近い。しかし、さっきからカナダ滝、カナダ滝って。アメリカ滝もあるじゃないですか?
陳:ナイアガラの滝は英語だとNiagara Fallsと必ず複数形で表記されるように3つの滝から構成されていて、1番デカいのが幅675メートル、落差56メートルのカナダ滝。馬の蹄の形をしていることから別名、馬蹄滝とも呼ばれています。次が幅330メートル、落差58メートルのアメリカ滝。実はもうひとつ、そのすぐ横にルナ島を挟んでブライダルベール滝があります。
--ブライダルベールですか。何かロマンチックな名前。でも、聞いたことなかったですね。
陳:それでも幅15メートル、落差55メートルあります。そう、例えるならスーパーで買うお寿司パックの中に入ってるバランの様に、みんな見えてても、名前すら知られていない存在なんです。
--なんだか、話を聞いていたらナイアガラにほんと、行きたくなってきました。
陳:もし行くなら花火のときは歩いて国境を渡ってカナダ側から見るといいですよ。ライトアップされた滝がバックになるので絶景です。あと観光客の大多数は船で滝の近くへ行くMaid of the Mist(霧の乙女号)にしか乗りませんが、マイナスイオンをたくさん浴びたければ、ぜひゴート島まで歩き、Caveof the Winds(風の洞窟)へ行くことをお勧めします。そこだとマイナスイオンどころか、猛烈な滝のしぶきでびしょ濡れになりますから修行僧になった気分を味わえます。
--来年、連れて行ってくださいよ。陳センセイ。
陳:カナダ滝へは無料で行けますが、帰りにお金を払わないと行けません。財布を忘れんように。
(まいどなニュース特約・山本 智行)