妊娠した元野犬の「命の期限」は明日!涙が止まらぬまま引き取る決断 6匹の子犬が無事生まれ…1年後、真の家族に

 保護犬で元野犬で妊娠中…さくらちゃんは引き取るにはかなりハードルの高い犬でした。でも、竹田佳寿美さんはそのハードルを飛び越える決心をし、家族を説得。片道2時間かけてさくらちゃんを迎えに行きました。4年近く前のことです。

■「命の期限」は明日だった

 竹田さんがさくらちゃんの存在を知ったのはある女性のFacebook。野犬が多いことで知られる山口県周南市で保護された犬たちについて投稿しているものでした。さくらちゃんの写真に添えられていたのは、市のセンターの収容期限。それはつまり「命の期限」を意味していました。

「それが翌日だったんです。助けて!と必死に訴えるような写真に涙が止まりませんでした。お腹の子を守りたい!という目にも見えました。でもウチは狭くて子犬が走り回れる場所もない。だから一度は携帯を閉じたんです」(竹田さん)

 写真から目を背けた竹田さんですが、涙は止まりません。気が付くと、仕事中のご主人に電話で相談していました。最初は反対されたものの、あきらめ切れない竹田さんは「私が何とかする!」とご主人を説得。妊娠中の元野犬を引き取ることに不安はなかったのでしょうか。

「不思議と自信がありました。小さい頃から家には猫がたくさんいて、その出産や、隣の家の豚の出産にも立ち会ったことがあったからでしょうか。お腹の赤ちゃんと一緒に救ってあげたいという、その気持ちだけでした」(竹田さん)

 さくらちゃんが竹田家にやって来たのは2018年12月8日。車の中で竹田さんの体にピタッと寄り添う姿は“野犬”のイメージとはかけ離れていました。しかし、数日後に思わぬ出来事が…。深夜に鳴くさくらちゃんをご主人が散歩に連れ出したときのこと。しばらくすると「噛まれた!」と言って血だらけのご主人が帰ってきました。

「西へ西へと行こうとするさくらを引き戻そうとしたら、後ずさりして首輪が抜けそうになった。後ろから抱っこしようとして、振り向きざま顔を噛まれたと言っていました。西へ向かおうとしたのは帰巣本能でしょうか。捕まえられそうになって噛んだのは、野犬時代に人間から怖い目に遭っていたからかもしれません。譲渡にかかわってくださった方から『ワンちゃんが噛むのには必ず理由がある』と聞いていましたし、主人は『きっと怖かったんだろう。オレが悪かった』と言ってさくらを責めませんでした」(竹田さん)

 さくらちゃんはまだワクチン接種が終わっていなかったため、ご主人は救急病院へ。20針縫う大ケガでしたが、それでもさくらちゃんを逃がすわけにはいかないと、抱っこして家まで帰ってきてくれたのです。

■1年かけて信頼関係を築いた

「家族全員、ちょっと怖くなったのは事実ですが、もうすぐ赤ちゃんが生まれるし、必ず心が通じると信じていました」と竹田さん。ほどなくして6匹の子犬が産まれました。出産直前、さくらちゃんはクンクン鳴いて竹田さんを呼んだそうです。安産で、獣医師の見立てでは初産ではなかった様子。見事なお母さんっぷりで、ちゃんと子犬たちのお世話をしてくれました。「トイレトレーを置くと、さくらはすぐに覚えてくれて、子犬たちもしつけてくれたんですよ」(竹田さん)。

 6匹のうち5匹は動物保護団体などにも協力してもらい、無事に譲渡。息子さんが選んだ1匹がハッピーくんと名付けられ、竹田家に残りました。

 本当の意味でさくらちゃんとの信頼関係が築けたのは、迎えてから1年近くたってからだったと言います。

「尻尾が上がるまでにかなり時間がかかりました。でも少しずつ距離を縮めていって、今では玄関まで迎えに来てくれるんですよ。最初は反対していた夫も今はデレデレ。すぐさくらを抱っこするので、ハッピーがやきもちを焼くほどです。さくらが来てから義理の両親が住む母屋と離れをつなぐ廊下を作ったんですけど、夜になるとおじいちゃん、おばあちゃんのところにササミをもらいに行くのが2匹のルーティン。義母は犬が苦手だったのに、抱っこできるようになりました。義理の両親との会話も増えましたし、さくらとハッピーにはいつも『来てくれてありがとう』と言っています」

(まいどなニュース特約・岡部 充代)

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