失敗は部下のせい 仕事の押し付け合い マイナス要因の犯人探し…こうして会社組織は腐っていく
コロナ禍、円安、物価高騰などの影響でますます厳しさを増す経済活動。一般サラリーマンにとっては物理的にも質的にも今まで以上のものを求めらる一方、その評価が曖昧だったり、組織全体にドヨーンとした疲弊感が漂っていたりして、イマイチやる気が出ないことも少なくありません。
こういう場面で「なんでそんなにやる気がないんだ」とムッとする上司の顔が浮かんできますが、そのやる気のなさは社員個々の問題ではなく、組織の旧来からの悪しき慣習や、組織心理からくるものかもしれません。
こういった「社員のモチベーションを下げる組織」に共通する「あるある」を反面教師とし、その改善策を細やかに提案する興味深い本がベストセラーとなっています。経営コンサルタント・松岡保昌さんによる『こうして社員は、やる気を失っていく~リーダーのための「人が自ら動く組織心理」~』(日本実業出版社)という本です。
すでに重版に次ぐ重版で、7万部を突破したベストセラーですが、今回は本書の中から「社員がやる気を失う上司に共通する問題」「組織が疲弊していく会社に共通する問題」をピックアップしご紹介。本書刊行に携わった担当編集者にも話を聞きましたので、後半で合わせてご紹介します。
■「社員がやる気を失う上司に共通する問題」とは?
会社組織で毎日働いていれば、「組織に対して、いっさいの不満がない」ということはまずないはずですが、特に「やる気をそぐ」「モチベーションを下げる」上司がいる場合は深刻です。ここでは上司のどういった言動にモチベーションを下げられるのかを、本書から転載してみます。
1 目を見て話さない。目を見て話せない
2 理由や背景を説明しない
3 一方通行の指示
4 コントロールできる部分を与えない
5 話もきかずに結論を出す
6 意見も提案も受け入れない
7 言うことに一貫性がない
8 感覚だけで評価する
9 失敗を部下のせいにする
10 部下の仕事を横取りする
どれも「上司あるある」ともいうような問題ばかりですが、逆に言えば、こういった身勝手な態度を改めて、その真逆を上司がすれば、社員はモチベーションを上げて仕事に取り組んでくれるとも言えます。
■「組織が疲弊していく会社に共通する問題」とは?
ただし、日々増え続ける仕事量、より高度に求められる仕事内容から、組織全体に疲弊感が漂う会社も増えています。これも本書から転載してみます。
1 個人が仕事を抱えすぎている
2 仕事を押し付け合う
3 物事を決められない
4 前例と成功体験から抜けられない
5 「理念」が言葉だけ
6 「挑戦」「改革」……空手形の言葉ばかり
7 社長がめちゃくちゃ忙しい
8 管理職が逆ロールモデル
9 いつもピリピリしている
10 マイナス要因の犯人探しに執心
11 よくわからない人事異動がある
12 いまだに長時間労働が美徳
13 女性が出生しない
14 子育て、介護で働きにくい
15 長期的な展望を描けない
こちらも「職場あるある」ともいうような問題ばかりですが、この結果どんなことが起こるかと言うと、「デキる社員が次々と離職し、ダメな社員だけが残る職場」ということになります。その先にあるのは……言うに及びませんが、この悪循環から組織はさらに疲弊を重ね、生産性を失うだけでなく、時代からも取り残され、最悪、経済活動ができなくなるケースもあるのではないでしょうか。
■頼むから、この本に書いてあることをやらないで
本書ではこういった「上司あるある」「職場あるある」を反面教師として、読者を引きつけながらも、「組織への不満に対する癒し」だけでなく、徹底して改善策も提案しています。これは組織人事コンサルタントとして、数多くの企業の組織改革に携わってきた経営コンサルタントの著者ならではのもの。著者がファーストリテイリング、ソフトバンクの経営トップに近いポジションで実践した「モチベーションが自然に高まる仕組み」ばかりが紹介されており、従来の組織マネジメント実用書とは一線を画す細やかかつ読みやすくわかりやすい一冊に仕上がっています。
経営トップはもちろん、あらゆる管理職、人事担当者には画期的な参考書として、また一般社員にとっては「あるある」によって癒されることでしょう。さらに「自分にとってモチベーションを上げることができる組織探し」の参考にもなるように感じました。
これだけ細やかな一冊を編むまでに、どんな思い・苦労があったのでしょうか。担当編集者に聞いてみました。
「最初の思いは『リーダーとして人を率いる人は、頼むから、この本に書いてあることをやらないでください』というメッセージでした。
さらにモチベーションを高めるための方法は会社によって千差万別で異なりますが、『社員がやる気を失っていく』共通パターンというほうがリアリティがあり、かつ『やる気を下げる要素を取り除く』ほうが実際に役立つのではないか、と考えました。
自分自身の社会人経験を振り返っても、会社はよかれと思って、社員のモチベーションを高めるべく、研修やイベントをしたりします。たとえば、かつて参加した、豪華なホテルで行われた表彰式やレクリエーションもそれらの1つだと思います。
それらが悪いと言っているわけではないのですが、いわば、いくらモチベーションを高めるために研修やイベントをしても、ふだん下げるようなことをしていたら、あまり意味がないとも言えます。人間でいえば、健康になるのも大事ですが、まずは今、出血する箇所を止めるようなイメージです。
そして、『あの会社はこうして潰れた』(日本経済新聞社)や『世界「倒産」図鑑』(日経BP)のようなダメなケースをもとにしたネガティブ路線のほうが読者の興味関心を引き、内容も参考になるとも考えました。
また、多くの企業の経営コンサルティングをされ、キャリアコンサルタントでもある著者の松岡さんに聞いたことで、最近の若手は、まずやる気をそぐようなことをしなければ自然と前向きに仕事に取り組んでいく傾向がある、というのも、この企画に確信めいたものを感じました」(担当編集者)
■イヤな会社、イヤな上司が減ることにつながってほしい
筆者が前述したような「管理職、人事担当者」「一般社員」双方が活用できる、といった点はまさに著者と担当編集者の狙いでもあったと言います。
「反面教師となる『あるある』の事例はリアリティがあり、本当に共感できるものにしなければ、という点にこだわり、著者とも何度も打ち合わせを重ね、読者の方に『自分事』として捉えやすくなるように努めました。また、著者の会社目線・社員目線の両方があることが本書の特徴と強みになるようにしました。
結果的に、SNSなどでの感想を見ると、リーダーの立場の方だけでなく、部下の立場の方も結構読んでくださっていて、自分の環境を見直すきっけかになっているのかもしれません」(担当編集者)
最後に、まだ本書を手に取っていない人へのメッセージも聞きました。
「特に本書を多くのリーダーに読んでいただきたい理由が、『おわりに』の次の言葉に集約されています。
<平気で『やる気』をそぐ人たちの共通項は、自分がやっていることのまずさに気づいていないことです。気づいていないから、やっかいなのです。それであれば、『あなたも、こんなふうにしていませんか?』という多種多様な例を投げかけて、心当たりのあるところから改善してもらう。そのほうが、近道なのではないかと考えました>
平気で「やる気」をそぐ人たちは、自覚がないから、タチが悪い。それゆえ、『やってはいけないマネジメント』を反面教師として例にするアプローチのほうが、『もしかして、自分もそんなふうに部下に接しているかも』や『(部下の立場の人も)うちの上司がまさに』とか、気づけてもらいやすいと考えました。
その結果この本が広まることで、『やってはいけないダメな例』が当事者である経営者や上司に伝わって、イヤな会社、イヤな上司が減ることにつながってほしい、と切に思っております」(担当編集者)
(まいどなニュース特約・松田 義人)