突如、餌やりを託されて…高齢の野良猫 少しずつ距離を縮めて保護「晩年を我が家でゆっくり過ごしてほしい」
■野良猫の餌やりを託される
不二子ちゃん(推定16歳・メス)は野良猫たちに餌やりをしている男性、Aさんから餌をもらっていた。
Aさんは東京都に住む佐藤さんの夫の職場の上階で作業所を営んでいたが、2019年4月、作業所を畳むことになり、佐藤さんの夫に不二子ちゃんの餌やりを託した。
「2007年頃だったと思いますが、不二子は夫に時々甘えてくることがあったので、我が家では初代の飼い猫、次元にちなんで不二子と呼んでいたのです」
佐藤さんの夫は、約束通り不二子ちゃんに餌を与えて、休日の前にはドライフードを山盛りにして退社した。しかし、どうやらたぬきか何かに餌を横取りされているようだった。そこで、佐藤夫妻は、週末餌やりをするために夫の職場に行くようになった。やがて、不二子ちゃんは週末は佐藤家でごはんを食べ、平日は夫の職場に戻るようになった。
2019年8月、不二子ちゃんがひどく汚れて現れた。佐藤さんはペットシートで拭いてみたが、それくらいで取れる汚れではなかった。職場でシャンプーもしてみたが、表面についた汚れとはいえ一度シャンプーしたくらいでは取りきれなかった。
「当時うちには元保護猫の愛夢がいたのですが、1匹で飼うことを条件に譲渡してもらったのです。そのため、不二子を迎えることになるかもしれないと保護主さんに相談しました。『もし部屋を用意できるなら、そこでゆっくり過ごさせてあげるのが高齢の野良猫にもいいでしょう』ということでした」
佐藤さんは、とりあえず不二子ちゃんを家に連れて帰ってシャンプーし、これを機に家でごはんを上げるようになった。手作りのダンボールハウスを気に入ってくれたので、それに入れたまま車に乗せて職場に戻り、自宅と職場を往復する生活を2ヶ月ほど続けたという。
■野良猫不二子ちゃんを迎える
11月12日の朝。少し冷え込んで寒さが増した日。「お外は寒そうだから、このままお家にいようか」ということになり、不二子ちゃんは佐藤家の子になった。
「野良猫を迎えるにあたり、脱走や夜泣き、トイレの心配をしましたが、どれも取り越し苦労に終わりました。トイレも最初の1回は失敗しましたが、2回目からは猫砂のトイレにしてくれました」
愛夢ちゃんと不二子ちゃん、それぞれ別々の部屋で世話をするのは作業量が2倍になって大変だったが、不二子ちゃんの様子が分からないので、見守りをするためペットカメラの確認が欠かせなくなった。
「同じ空間にいてくれたらと思いましたが、腎臓病の療法食を食べている愛夢が不二子のごはんを食べてしまってもいけませんし、何より不二子が部屋から出たがらなかったので、今のスタイルがベストなのだと思います」
■老後、穏やかに暮らしてほしい
不二子ちゃんには原因の分からない症状がいくつかある。膀胱に腫瘍があることも分かっていて、色々な薬を試してみたが、どれもはっきりとした効果が見られず、薬は休むことになった。佐藤さんは、残念に思う反面、薬を服用するストレスから解放してあげられてホッとしたそうだ。
「不二子を迎えて3年。16歳の元野良猫にとって良い選択とは何か。それは自然に任せて見守ることなのかなと思うようになったのです。症状が良くならないとなんとかしてあげたいと思って手を尽くしますが、不二子はとっくにそれを受け入れていて、ありがた迷惑なのではないかと。老いを受け入れ、置かれた環境で生きる不二子の姿は潔く、自然体で生きていきたいなと思わせてくれるのです」
週末、職場に様子を見に行っていた頃は、夫にべったりだった不二子ちゃん。佐藤さんにはよそよそしかったが、今では逆転。佐藤さんが部屋から出ようとする時、甘え足りないと後追いしたり、可愛い声で鳴いて、「行かないで」とアピールしたりする。
「愛情を持って世話を続けたら心が通うのだと実感しました。厳しい環境で生き抜いてきた不二子。晩年を我が家でゆっくり過ごしてくれることを嬉しく思います。そんな不二子を見守ることができて光栄です」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)