これぞザ・ハイグレード!「お召列車」にも使われるE655系「なごみ」に乗車 思わず活用策を夢想…「夜行列車としても最適かも」

今年は、わが国では鉄道が開業して、150年を迎える記念すべき年である。また国鉄分割民営化が実施されてから、35年を迎える。そこでJR東日本は、それらを記念して9月23日・24日の両日に、上野~盛岡間でお召列車にも使用する交直流両用の特急形電車であるE655系電車「なごみ(和)」を使用した記念列車を運行した。

「なごみ」は、マルスに入れて一般に販売する臨時列車として運転されることがなく、団体専用列車として運転されるため、乗車するにはツアーに参加するしかない。23日に往路として上野から盛岡まで、24日は復路としては盛岡から上野まで運転。筆者は9月24日に「なごみ」を用いたツアーに参加して乗車した。筆者が乗車した時の様子を報告したい。

■E655系「なごみ」の外観と車内

「なごみ」が登場した本来の目的は、老朽化したお召列車用の客車を置き換えるためである。愛称の「なごみ」は、「ご乗車される全てのお客様になごんで頂きたいという、思いを込めて命名した」とされている。

従来のお召列車用の車両は、皇族と随伴員のみしか、乗車が出来なかったが、平素のE655系電車は、皇族や国賓などの要人が利用する「特別車両」を外しており、「ハイグレード車両」の5両編成で団体列車として運転される。

E655系電車は、お召し列車にも使われるため、塗色は「漆色」と呼ばれる、光線の当たり具合で褐色から紫色に色合いが変化するマジョーラ塗装が用いられた。近鉄の「あをによし」が、紫色のメタリック塗装が採用されているように、「紫」という色は昔から高貴な色であり、腰部には3本の細い金帯が配されている。

団体列車として運転されるE655系「なごみ」に乗車するには、運賃・特急料金・グリーン料金以外に、企画料や旅行業務取扱料などの諸経費も加えた、ツアー料金が必要となる。

JR九州のように車内には、本物の木材は使用されていない。これは製造コストが高いだけでなく、維持管理費も高いためである。そこで木目調を基本としたデザインが採用された。荷棚は、航空機のようなハットラック式だが、荷物の落下を防ぐためにカバーが付いている。床は、グリーン車らしく全面にカーペットが敷かれている。

VIP席も含めた全座席は、1-2の横3列配置の電動式のリクライニングシートであり、全座席には電動式のレッグレストも備えたハイグレードな仕様である。また全座席には、インアーム式のテーブルとスポット空調の吹き出し口や読書灯が備わるなど、JR東日本の在来線特急のグリーン車の中では、抜群の居住性の高さとグレードを誇る。

JR東日本の在来線特急のグリーン車は、2-2の横4列の座席配置のグリーン車が主流であり、かつ座席も手動でリクライニングさせる必要があるだけでなく、フットレストなども簡素化される傾向にあるなど、ある面では国鉄時代よりも、サービスダウンしている。それゆえ「なごみ」は、従来の特急列車のグリーン料金で、ハイグレードな車両に利用出来るため、根強い人気がある。

3号車には、「VIP席」と呼ばれる本革張りの豪華な座席が9席あり、ここへ乗車するには、距離に関係なく、一律に5000円が別途に必要となる。

デビュー当初は、各座席に各種デジタル放送や車内販売システム、運転席からの前面展望の様子を放映するため、タッチパネル式の3インチのモニタ装置が設置されていたが、残念ながら現在は取り外されている。それでもWi-Fiが完備しているため、持参のスマホで、前面の展望は楽しむことが出来る。

「なごみ」の全座席には、コンセントが備わるから、携帯電話などへ充電が可能であり、ワンセグなどで各自が好きな番組が楽しめるようになっている。また筆者が参加したツアーでは使用されなかったが、3号車には飲食物や記念グッズを販売するサービスコーナーが完備している。

■E655系「なごみ」の運用と展望

E655系電車は、小断面のトンネルにも対応した、パンタグラフを搭載している。またお召列車としても運転するため、JR東日本管内の路線だけでなく、身延線や予讃線でも自力で走行が可能である。

非電化区間へ乗り入れるには、ディーゼル機関車が牽引して対応する。また先頭の1号の床下には、ディーゼル発電機を2基も備えるため、車内に機器室が備わる。それゆえ先頭車の定員は、1号車が22名、5号車は17名と少ない。青函トンネルも走行が可能であり、JR貨物が所有するEH800という電気機関車が牽引して走行することになるが、未だ北海道で走行した実績はないという。

E655系電車は、お召し列車専用ではないため、「特別車両」以外の車両には、一般の人も乗車が可能である。但し3号車に備わる個室は、政府要人用であるため、一般には販売されない。この部分の通路は、絨毯のグレードも異なる。

お召し列車以外では、JR東日本などが主催する団体専用列車としての運行のみ。E655系「なごみ」を利用するには、JR東日本や近畿日本ツーリストなどの旅行代理店が主催するツアーに、申し込む必要がある。運行頻度が少ないため、E655系「なごみ」には、一般の人が乗車する機会は、年に数回程度に限られ、それゆえ乗車を希望する人が多いのが実情である。

E655系「なごみ」は、年末年始やGW、お盆の頃は、団体列車として運転する主催旅行が実施されることもないため、車両基地で休んでいたりする。

筆者としては、それらの多客期は新幹線や特急列車の座席の確保が難しく、キャンセル待ちをしている人も多くいることに着目し、E655系電車は交直両用である上、1-2の横3列のリクライニングシートだから、夜行列車として運転するにも適していると考えた。

筆者としては、上野~羽越本線経由で秋田間の運転を望んでいる。上野~秋田間は、距離的にも700km強である。折角のハイグレードな設備を持った車両であるから、お召列車で使用するのに支障が来たない範囲で、より多くの人達に乗車が可能となるようにして欲しいと思っているが、定員が、1編成で107名と少ない列車であるから、採算面で厳しいと言える。

今回の「ハイグレード車両『なごみ(和)』 体験乗車プラン[盛岡→上野]の日帰りのツアー代金が、2万9000円でだった。これはネット予約限定の販売だけであるから、比較的低廉に設定されたツアーだと言える。それゆえ書面類が一切郵送されず、参加前は紙媒体に印刷された書面がないため、少々不安はあった。

上野~盛岡間の片道の普通運賃は、8560円であり、上野~盛岡までの特急料金は、600km未満だから、指定席で3490円である。「なごみ」は、全車グリーン車の座席指定席であるから、600km未満のグリーン料金は5400円となる。座席指定料金が重複するするため、530円を引く必要がある。当日のツアーには、1200円程度の幕の内弁当が含まれていた。

正規運賃・料金に弁当代を加えた価格は、8560円+3490円+5400円+弁当代1200円-530円で1万8650円となる。今回のツアー代金は、2万9000円だから、ツアー代金と正規の運賃・特急グリーン料金・弁当代との差額は、1万350円となる。

ツアー代金には、企画料と旅行業務取扱料金も含まれる。旅行業務取扱料金に関しては、今回は2名の添乗員が含まれると同時に、盛岡駅で受付する際、3名の係員が担当していた。

このように「ツアー形式」とすれば、客単価が上がる。

盛岡から上野間の片道で、ツアー形式でE655系「なごみ」を運転すれば、東京周辺の人の場合、東京都区内から盛岡までの普通運賃と東北新幹線の特急料金も入るため、JR東日本にとれば利益率の良い、旅行商品となる。

マルスに入れて多客臨としてだけで運転すれば、利益が出づらいことは確かだが、ツアーで販売したとしても、直前にキャンセルなどが生じたりすれば、使用されない座席は価値がゼロになる。その際は、売れ残っている座席は、マルスに戻して販売するようにすれば良いと言える。そうすれば、利用者とJR東日本の双方がWin-Winになれる。

◆堀内重人(ほりうち・しげと) 1967年大阪に生まれる。運輸評論家として、テレビ・ラジオへ出演したり、講演活動をする傍ら、著書や論文の執筆、学会報告、有識者委員なども務める。主な著書に『コミュニティーバス・デマンド交通』(鹿島出版会)、『寝台列車再生論』(戎光祥出版)、『地域で守ろう!鉄道・バス』(学芸出版)など。

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