「病気の猫はいらない」 飼い主に見放され片脚切断の大けが 「あなたはいらない子じゃない」善意で救われた命
病気の猫はいらない。そういって今まで一緒に暮らしてきた猫を無情にも遺棄する人は、悲しいことにいなくなることはありません。高槻ねこの会のシェルター「ねこのおうち」で暮らす推定年齢5歳のクロムくんも、「病気の猫はいらない」と捨てられた1匹です。
クロムくんは猫エイズのキャリアであるものの発症はしておらず、とても人懐っこい男の子です。しかし元の飼い主は猫エイズのキャリアであることを受け入れることができず、外に出しました。クロムくんは何が何だか分からないまま、元の飼い主の家の近くでウロウロと過ごすことになります。
近隣住民はクロムくんの存在に気付いていましたが、遺棄されたのか散歩なのか判断がつかず手が出せずにいました。どうにかしてあげたいと思っても、所有者が分からない猫は地域猫にもしてあげられません。何事も起きなければ良いのだけれど…。
2021年晩冬、近隣住民の心配が現実のものになりました。クロムくんが大けがをしてしまったのです。原因不明の、右前脚から大出血。こんな時どうすれば良いのか分からなかったため、大阪府豊能郡豊能町で活動をする公益社団法人アニマルトラストに連絡。アニマルトラストの動物病院で緊急手術です。クロムくんは右前脚を大けがしており、お腹の皮膚を移植するほど。この傷口をクロムくんが舐めたり噛んだりするもんですから神経まで傷つき、ついには切断をせざるを得ませんでした。クロムくんは、完治するまでしばらく入院生活を送ることに。
近隣住民は、元の飼い主にも連絡します。今後けがをさせないためにも、家で過ごさせてあげてほしい。すると元の飼い主は面倒くさそうに言ったのです。
「病気の猫はいらない」
もちろん右前脚切断の手術費用も支払う気がないとのこと。それでも懸命に生きようとしているクロムくんを見捨てるわけにはいかない近隣住民は、少しずつお金を出し合い治療費用を捻出しました。クロムくんに生きてほしい、その一心です。
しかし、問題がありました。保護をした近隣住民も、エイズキャリアの猫を引き取ることに二の足を踏んだのです。これでは退院後の引き取り先がありません。不自由な体な上に猫エイズキャリアの子を、再び外で暮らさせても良いものか。本当なら家の中で過ごすのがベストだけれども、里親が見つかるとは思えない条件の猫。
悩んだ近隣住民は方々に相談してまわり、最終的に高槻ねこの会のシェルター「ねこのおうち」で受け入れてもらえることとなりました。「ねこのおうち」は猫エイズキャリアの猫がのんびり過ごすシェルターで、ここなら体が不自由になったクロムくんも安心して過ごせます。
半年の入院生活を経て、クロムくんはようやく退院。かなり治療費がかかりましたが、すべて保護した近隣住民が出してくれました。「あなたはいらない子じゃない、生きてほしい」。切なる願いと祈りがあったからこそ、瀕死の状態からクロムくんは復活を遂げたのです。
2021年11月3日、クロムくんは大阪府高槻市浦堂にある「ねこのおうち」へ。初めのころは緊張しておやつをねだることも、他の猫と遊ぶこともありませんでした。それなのに負けん気が強く、男の子の猫とは常に一触即発状態。スタッフはヤキモキしていましたが、数カ月もするとクロムくんは「ここは安心できる」と思ってくれたのでしょう。どんどん表情が穏やかに。
表情が穏やかになってくると、遊ぶようになってくるんです。前脚が1本ありませんが、思い切り走り回ったりジャンプをしたり。けど、じゃらしで遊ぶ時だけは、少し不自由みたい。この様子に保護をした近隣住民の方々は、驚きを隠せません。こんな元気になるなんて。
今では「ねこのおうち」を訪れる人に元気を分けるほどになったクロムくん。落ち込んでいる人がいると、そっと寄り添ってくれる優しい猫になりました。寄り添ってもらえると、人間も優しい気持ちに。
ぜひ一度、クロムくんに会いに来てください。人間の身勝手さも優しさも知る猫は、きっと会う人に新たな学びを与えてくれるはずです。クロムくんは待っています。
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【高槻ねこの会】
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(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)