喘息でも薬禁止 恋愛すれば「サタンになったのか」 宗教2世の苦悩描いた漫画 集英社ウェブ連載は宗教団体の抗議で削除→文藝春秋から出版

宗教2世の漫画家・菊池真理子さんが、自身を含めた7人の宗教2世の半生を描いたノンフィクション漫画「『神様』のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~」が10月6日、文藝春秋から刊行されました。漫画は集英社のウェブメディア「よみタイ」で連載していましたが、宗教団体の抗議を受けて連載が中断し、掲載していた漫画も削除されました。その後、文藝春秋の編集者に声をかけられ、描き下ろした45ページを加え、計144ページで出版の運びとなりました。菊池さんは「生きづらさを感じる宗教2世がいることを知ってもらえたら」と話します。

■母の死とともに信仰捨て、宗教について考えてきた

菊池さんはある宗教の2世として生まれ、熱心な信者だった母の背中を見て育ちました。しかし、母は少しずつ精神が不安定になり、自死。当時14歳だった菊池さんは「人生で最も大きな出来事だった」という母の死を機に、信仰を捨てました。

信仰について考え続けてきた菊池さんが宗教2世の漫画を描き始めたのは、集英社の編集者に連載を持ちかけられたのがきっかけでした。「母の死に影響を及ぼした宗教について描きたい気持ちがずっとありました。でも、『宗教の話題を持ち出すのはタブー』という社会の空気を感じながら育ってきたので、描けないんだろうと思っていました」。編集者に背中を押され、連載「『神様』のいる家で育ちました ~宗教2世な私たち~」は、2021年9月に集英社のウェブメディア「よみタイ」でスタートしました。菊池さんはさまざまな新興宗教の信者2世に生まれた人たちを取材し、親が求める信仰と、宗教への違和感との板挟みになって苦悩する宗教2世の姿を描いてきました。

2022年1月に第5話が掲載されましたが、宗教団体の抗議を受けて、よみタイ編集部は2月10日に第5話を削除しました。よみタイ編集部は「あたかも教団・教義の反社会性が主人公の苦悩の元凶であるかのような描き方をしている箇所がありました」「特定の宗教や団体の信者やその信仰心を傷つけるものになっていたことは否めません。このことを重く受け止め、お詫びいたします」と謝罪しました。間もなく1~4話も削除され、よみタイ編集部は「編集部が行うべき事実確認や表現の検討が十分ではない箇所がございました」と連載終了を発表しました。

ーーよみタイの担当編集者からは、連載の方針転換についてさまざまな提案があったと聞きました。

「『幸せになった信者もいる、という教団側の主張も描けばいい』とか、『宗教2世の話ではなく、毒親の話だったら続けられる』といった提案も受けましたが、私は取材した宗教2世の方々の悩みや苦しみを描いてきました。宗教なしに(連載を)描くのは違う、と感じ、私から『連載を終わらせてください』と伝えました」

ーーその後、文藝春秋の編集者から「うちから本を出しませんか」と声をかけられました。集英社での連載が志半ばで終わり、描く意欲は失われていませんでしたか?

「漫画を描くモチベーションが下がりそうになりましたが、すぐに、逆に描いてやる、という気持ちが沸き上がってきました」

ーー文藝春秋からは宗教団体に配慮するよう求められましたか。

「いえ、ありませんでした。より分かりやすく読者に伝えられるよう、絵の構図やセリフを修正されることはありましたが」

■薬、テレビ、恋愛も禁止 警察も介入せず

本に登場する7人の宗教2世たちは、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)のほか、さまざまな新興宗教を信仰する家庭に生まれ育ちました。喘息(ぜんそく)やアトピーなのに薬の使用を禁じられたり、テレビや漫画を楽しむことが許されなかったり、布教のための戸別訪問を強いられたりー。心の中では「嫌だな」「苦しいな」と感じていても、声を上げることすらできない実態が描かれています。

ーー宗教2世の子どもたちはこれほど悩み苦しんでいるとは思いませんでした。

「宗教の問題はタブー視され、実際の暮らしぶりをうかがい知ることはなかなかできません。子どもたちの人権が蹂躙(じゅうりん)されるようなことがあったとしても、警察や行政が介入することはほとんどありません。『ああ、宗教なら親子で話し合ってね』で終わってしまう。子どもは家の中のことを訴えることができません。漫画を通じて宗教2世の生きづらさをわかってもらえたら」

旧統一協会を信仰する家に生まれた女性は、「神の子」として愛情を受けて育ちましたが、教義に反して恋愛していることがばれると、「セックスしてサタンになったのか」と両親に責め立てられました。

「宗教2世にかけられる愛情は、すべて(信仰を守るという)条件付き。神の子として愛されていたはずが、『神の子だから』愛されていたことが段々わかってくる」

また、漫画に登場する多くの家庭で、母親が熱心な信者である一方、父親は信仰にも無関心でした。菊池さんの親も、母親は信者でしたが、父親は無宗教でアルコールに耽溺していました。

「これは宗教の問題であり、家庭の問題でもあります。父が母をないがしろにしたから、母は宗教に居場所を見出してしまったのかもしれない。母親が子供を入信させたのは、家庭内で味方が増えるから、という面もあったと思います」

安倍晋三元首相銃撃事件で逮捕された山上徹也容疑者が宗教2世だったため、宗教2世への社会的関心が急速に高まりました。菊池さんは事件前に漫画を描きましたが、「社会の関心が集まり、宗教2世の声が届きやすい社会状況になっている」と感じています。これまで光が当たることのなかった宗教2世の苦悩。菊池さんは「これまで宗教と関係なく暮らしていた人にも、宗教2世に関心を寄せてもらえたら」と話しています。

(まいどなニュース・伊藤 大介)

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