安楽死か殺処分か…「それならうちの子に」 交通事故で瀕死だった猫、高齢になっても慕われるボス猫に
大阪府で暮らす北斗くん(推定13歳)は、個人で保護猫ボランティアを行っているOさんの家のボス猫です。高齢な上に糖尿病を患いガリガリの体ですが、自然と猫たちが北斗くんの周りに集まってくるんですよ。ご飯の時には北斗くんが先頭に立ち、家の猫たちを従えてOさんに談判。
「おなかがすきました」
こんなことをされたら、ご飯の時間でなくても何か出してしまいそうになってしまうんですって。北斗くんは策士です。
さて、この北斗くん、今でこそ元気に家のボス猫をしていますが、2014年にOさんの家へ迎えられた時はボロボロの状態でした。寒風吹きすさぶ道路の真ん中で車にはねられ、瀕死の重傷を負っていたのです。見つけた通行人が保護し、管轄の警察署に託します。警察署から付き合いのある保護猫ボランティアのOさんに連絡。このまま動物センターに送ると、必ず殺処分になるからと。
Oさんが駆けつけると、北斗くんはケージの中で虫の息、下半身は血まみれです。幸いにも尿は透明だったので助かるかもという希望を抱き、すぐ病院に連れていきました。しかし、病院に着きカテーテルを尿道に入れると血尿が…。
すぐに処置を行い、北斗くんの入院生活が始まりました。獣医師からは、下半身の神経が切れているため、今後自力排泄は難しいとも告げられます。この時、Oさんは決断しました。うちの子にしよう。通常なら安楽死も視野に入れられる猫です。うちの子になってもらった方が良い。
Oさんは北斗くんの入院中、毎日お見舞いに行きました。それなのに、北斗くんはつれない態度。けれど、日に日に回復していく姿から、いつしかOさんは勇気をもらうように。Oさんは退院後を視野に入れ、獣医師から圧迫排尿の方法を教えてもらうことにしました。自力排泄が出来なくても、この方法なら生き続けることができる。
Oさんが圧迫排尿をマスターしたころ、北斗くんは退院。新緑がまぶしい4月下旬のことでした。入院費用は全てOさん負担になったものの、後悔はありません。殺処分や安楽死という選択を取らずに済んだから。
家に到着した北斗くんの様子を見て、Oさんは気になることがありました。
「この子は野良猫じゃないのかも」
北斗くんは恰幅が良くいかにもボス猫という風貌ですが、家の中にも人間にも慣れている。もしかすると、飼い主は迷子になった北斗くんを警察署に届けていないのではないかと考えたのです。ただ、元の飼い主を見つけ出したところで、今の北斗くんの世話は難しいはず。このままOさんの家で過ごしてもらうことにしました。
退院してからというもの、北斗くんは元気いっぱい!下半身の神経は切れ、体の左側にも麻痺があり、尻尾の骨も折れていてぷらーんとしていても、持前のバイタリティーで明るく楽しく過ごします。着地地点が広い場所だったら、ジャンプもできるんですよ。
人望ならぬ「猫望」も厚く先住猫にはすぐ受け入れられ、新たに保護されてくる猫のお世話役も買って出てくれました。こんな北斗くんの姿は、保護された当時では想像がつきません。Oさんは目頭が熱くなりました。
でも、大変なのが毎日の圧迫排尿です。1日2回、北斗くんを押さえつけなくてはなりません。嫌がる北斗くんを目の当たりにするにつけ、つらさばかりが募っていきます。ついブログで愚痴を吐いてしまいました。すると、ある人がコメントを付けてくれたんです。
「私は8年間、圧迫排尿をしています」
この言葉に勇気づけられたOさんは心を新たにし、北斗くんの圧迫排尿に臨みます。思考錯誤の末、タオルで目を覆ってあげると北斗くんの不安がなくなると分かりました。これで北斗くんのQOL(Quality of life、生活の質)を上げられる。気が付けばコメントをくれた方と同じ8年、北斗くんの圧迫排尿をしていました。
現在、北斗くんは推定13歳。今もOさんの家のボス猫として頑張っています。体重は保護当時の7キロの半分の3.5キロになり、何度も入退院を繰り返していますが、イナバの「金のだし」の美味しさにまだまだ虹の橋のたもとへは行けないみたい。
美味しそうに金のだしを頬張る北斗くんにOさんは、「あの時助けて良かった」と思うのだそう。食べることは生きること、それを教えてくれたのが北斗くんだから。そして、周囲と調和して生きること。これも北斗くんが教えてくれました。
当の北斗くんはどう思っているのかな?いつかOさんとお喋りできると良いね、北斗くん。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)