大雨の中保護された子猫は、亡母からの使者? 気ままな一人暮らしのはずが、再び“家族”のお世話に忙しい日々
保護猫の譲渡には様々な条件があります。その中でも高齢者を悩ますのが年齢制限です。多くの保護猫団体・保護猫カフェでは60歳を上限とし、これで猫との暮らしを断念する人は少なくありません。
大阪府に住む60代の女性、Nさんも断念していた一人です。どこも年齢制限があり「いいな」と思える猫を迎えられずにいました。同居していた息子は結婚を機に独立し、介護を覚悟していた母親も16年前に他界。もう母親としての役目も娘としての役目も終わってしまった自分は、誰の役にも立てない。せめて猫のお世話がしたかったのに。
そう思うと狭いと思っていたマンションが、とても広く感じられるようになりました。このままひとりぼっちで生きるのか…と不安になったものの、広くなったのなら全部好きにできる。思い切り趣味と、今まで出来なかった「ぐーたら」を楽しもうと考えました。
息子が家を出て1カ月ほど経った 2021年4月のこと。大雨の降る真夜中に一通のLINEが、夜更かしを楽しんでいたNさんのもとに届きました。いつもならこんな深夜のLINEは開くことなどありません。それなのにこの日は読まなくてはならないと感じたのです。
■「子猫を4匹保護しました。里親になってくれませんか?」
それは友人からのLINEで、こう書いてありました。
「子猫を4匹保護しました。里親になってくれませんか?」
メッセージだけでなく、写真と動画も送られていたんです。Nさんはドキッとしました。
「この動画を再生してしまったら、諦めていた猫との生活への憧れが止められなくなる」
見てはいけない見てはいけない、そう思いつつも指は再生ボタンに…。動き出した画面には小さな小さな子猫が4匹、仲良く遊んでいる姿が映し出されたではありませんか。全員とびきり可愛い。その中でも、サビ猫で白い眉のような模様のある女の子が気になりました。何故だか分からないけれど、この子と一緒にいたい。この子と絶対一緒にいなくちゃいけない!
そう思うと矢も楯もたまりません。翌朝、連絡をくれた友人にすぐお願いをします。白眉ちゃんを譲ってほしい。1匹だと寂しい想いをさせそうなので、仲が良いキジトラの男の子も一緒に。友人は日を空けずに子猫たちを届けてくれました。
一度は諦めた猫との暮らし。しかも子猫です。この子猫たちがいると、あれだけ広いと思っていたマンションが一気に狭く感じるように。子猫たちは元気に飛んだり跳ねたり走ったり。どれだけ広くても足りません。名前は白眉ちゃんに「まゆ」、キジトラの男の子には大好きなX-JAPANのギタリストHIDEさんから「ひで」と名付けました。
Nさんは猫と暮らすのが初めてではないものの、それは50年前のこと。その時はしっかり者で几帳面な母親が一緒にお世話をしてくれていました。でもその母親はもういません。今度は一人で頑張らなくちゃ。Nさんは猫を保護してくれた友人やSNSのフォロワーに相談しながら、懸命にまゆちゃんとひでくんのお世話をします。
気が付けば、楽しもうと思っていた「ぐーたら」なんて出来ない環境。朝は5時にご飯の催促、二度寝をしようものならお腹にダイブ、まゆちゃんとひでくんがお昼寝している間にそそくさと家事をする日々。夜更かしなんて出来やしません。日中がこんな感じですから、遅くても23時にはぐっすり夢の中。
■子猫のまゆちゃんは、亡母にそっくりだった!
とても几帳面な毎日を送っていると、ふと気付きました。それは、まゆちゃんが特別気になった理由。よくよく見るとまゆちゃんは、亡母によく似ているんです。雰囲気といい、「ぐーたら」をさせない潔癖さといい、亡母そのまんま。亡母が愛用していたスツールも、いつの間にかまゆちゃんの定位置になっています。
「私に役目を与えるために、母さんが送り込んでくれたのかな?ぐーたらせずに、もう一度、お母さんと娘をやりなさいって」
そう思うと、今まで以上にまゆちゃんとひでくんが愛おしく感じられるようになりました。可愛いこの子たちを通じて、息子の小さいころを思い出したり亡母の厳しさに身が引き締まったり。自分がどれだけ家族から大切に思われていたかにも気付かされました。
物言わぬ猫だからこそ、人生の映し鏡になったのかもしれませんね。Nさんのこれからの人生も実り豊かなものでありますように。
(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)