駐在妻ヒエラルキーに異変 令和のトップはインフルエンサー妻!?夫の職業より妻自身が評価される時代に
夫の海外転勤に伴い、いったん仕事を辞め、2022年3月から駐在員の妻としてマレーシアで暮らしています。夫に帯同することが決まった直後から、気にかかっていたのが、駐在妻同士の人間関係です。井戸端会議で陰口合戦、ティータイムを楽しみながら妻同士がマウントを取り合う…。
勝手なイメージでそんな想像をしていましたが、私自身はこの半年間、期待(?)していたような状況に身を置いたことはありません。でも、取材してみると、中にはいまだにドロドロした話がちらほら。
夫の職業で駐在妻の序列を決めていたのは昔の話で、今や駐在妻自身の価値が試されるようになっているという声も聞かれました。令和版「駐在妻ヒエラルキー」について、駐妻経験者に聞きました。
■かつては外交官妻がトップ、現在は妻自身のキャリア重視
「一概に言えませんが、夫の職業がそのまま自分の地位になる、というのは今は違うと思います」。開口一番にそう話すのは、2022年7月に日本に本帰国するまで、イギリスで1年間、タイで3年間、外交官の夫に帯同し駐在員妻として暮らしていた杏奈さん(仮名)。現在はブログ「うわばみに食べられたぞう」を運営し、今も海外在住者や駐在妻向けに情報を発信しています。
杏奈さんは結婚前から米国や韓国に留学するなど海外生活は長く、現地では日本人コミュニティーに入って、一緒に食事を楽しんだり情報を共有したりしていました。結婚し駐在員妻となり、産まれた子どもが現地の保育園に通うようになると、日本人ママとの繋がりもより密になりました。子どもの送迎後には毎日のように駐在妻たちが集まる「井戸端会議」が開かれ、さまざまな噂話が飛び交っていたといいます。
杏奈さんによると、留学生活を送っていた10年ほど前までは、夫の職業によって駐在員妻の価値が決められていたそうです。杏奈さんによると、一般的に言われる序列は、①外交官②国際機関・独立法人③商社・金融機関④大手メーカー⑤ゼネコン⑥下請け企業⑦現地法人。杏奈さんはこれを「平成型ヒエラルキー」と呼んでいます。
ヒエラルキーの高い人は、広くて新しいコンドミニアムに住むことができ、子どもの学費負担など会社の福利厚生も手厚いケースが多い。生活水準がヒエラルキーにそのまま反映されます。
しかし、令和の時代に入った頃から、「状況はかなり変化した」と杏奈さんは言います。まず、夫の職業を聞いてはいけないという暗黙のルールが浸透し、杏奈さん自身、駐在員の妻になって夫の職業を言ったことも聞かれたこともありません。
平成型ヒエラルキーでは最高位の外交官妻でしたが、身分を明かすこともなかったため、いい思いをしたと感じたことはないと言います。むしろ、政府機関は民間企業より福利厚生面では待遇は悪く、お抱えの運転手や車もあてがわれず、「まわりからは下に見られていた」と杏奈さんは話します。
では、どうやって駐在妻の序列を決めていくのか-。杏奈さんが考える「令和型ヒエラルキー」はこうです。
①インフルエンサー妻
筆頭に来るのは、なんとインフルエンサー。著名なインスタグラマーやブロガーのことを指します。
インターネットが発達したからといって、海外では日本と同じように情報が手に入るわけではありません。そのため、いかに正しい情報を多く持っているか、が問われるそうです。評判のいいレストラン、おすすめの美容院、日本食材を安く買えるお得な情報など、新しい情報をいち早く取り入れ、発信していく人が、“ボス”になります。
日本人向けの外食店や美容院などは宣伝のためにフォロワーの多いインフルエンサーに情報をいち早く伝えたがる傾向にあり、さらに情報が集中していきます。そこにインフルエンサーと友達になりたい駐在妻が集まり、一定の地位を築き上げるのだそうです。
②起業妻
個人事業主として活躍する駐在妻は得手して令和型ヒエラルキー最高位のインフルエンサー妻と仲良くし、自身の商売をPRしてもらうケースが多いと言います。コロナ流行後はオンラインビジネスが活況となり、渡航ビザなどの条件をクリアできれば起業する駐在妻は増えています。夫の職業は関係ありません。自分が何をしているか、が問われるわけです。
③MBA(経営学修士号)妻
滅多にいませんが、夫の駐在期間中に赴任先の大学で学位や修士号を取得する人です。夫に帯同する前はバリバリ働いていた人が多く、渡航ビザや夫の会社の規則などで働けないため、勉強することを選んだ人です。いわゆる、意識高い系の駐在妻です。海外の大学院に通うには学費も非常に高く、もともと経済的に自立した妻が多いそうです。
④働く妻
海外生活に慣れてくると、時間を持て余し、働きたいと思うようになる人が一定数現れるそうです。夫の帯同を理由とした休職制度を設ける企業が増えており、社会全体として妻が海外で働ける環境が整いつつあります。夫の給料だけでなく、自分の自由に使えるお金があるという点で、まわりの駐在妻から少しだけ羨ましがられる存在になれるそうです。
⑤普通の人
ほとんどがこの層に入るのではないでしょうか?大きく分けて、インフルエンサーの情報を集めて、ランチやショッピングに海外生活を謳歌する「リア充組」と、ネットなどで定額制動画配信サービスを見て過ごす「ひきこもり組」に分かれるそうです。
■平成型ヒエラルキーも根強く
杏奈さんの話を聞く限り、夫の地位でなく、妻自身が“評価”される時代に入ってきているようです。しかし、私のまわりのママ友に聞くと、杏奈さんのいう「平成型ヒエラルキー」もまだまだ残っていると言います。
ママ友の話によると、夫が大手銀行に勤め、近隣では最高値の賃貸コンドミニアムで暮らす“ボスママ”の子どもがある日、同級生(日本人)と些細な喧嘩をしたといいます。それを知ったボスママは「あそこの親、どこに勤めてるの?」とほかの親に尋ねまわり、企業名が判明した瞬間、鼻で笑ったといいます。子どもが利用するスクールバスの乗り位置にも、夫の職業ヒエラルキーを反映させようとする人がいたそうです。
また、ヒエラルキーを元にしたグループは結束を求められるようで、日本人学校からインターナショナルスクールに転校させようと考えている親に、ボスママが「転校したら何も情報入ってこないよ?それでもいいの?」と釘を刺したと言います。恐ろしい限りです。
最後に、杏奈さんに駐在妻生活を振り返ってもらいました。
大手自動車会社で働いていた杏奈さんは、夫に帯同したことでキャリアは中断したけれど、現地企業で働いたり、新たにマーケティングの仕事を始めたりして、うまくキャリアチェンジできたと言います。駐在妻の付き合いはいろいろあったけれど、さまざまな方法でキャリアを切り開いている人を見て、「自分も頑張ろう」という気持ちになれたとも言います。
現在、駐在妻として海外で暮らす人、これから帯同する予定の人に向けて、杏奈さんからは「自分のスキルやキャリアを見直せる絶好のタイミング。人間関係に引きずられすぎず、時間を有効活用して、人生のいい機会と思って頑張ってください」とエールをいただきました。
(まいどなニュース特約・斉藤 絵美)