一目ぼれして迎えた子猫は重い腎臓障害 飼い主夫妻に見守られ3カ月の生を終えた「小さな身体で頑張ってくれました」

■先住猫の兄弟になってくれる猫を迎えよう

テンちゃん(オス)は、2022年5月初旬、畑の中にある小さな小屋で生まれた。4兄弟だった。小屋の持ち主が気付いて保護団体に相談し、レスキューされた。まだ体重は300gくらいだったという。

静岡県に住む片桐さんは、2021年1月、ベルくんという子猫を譲渡してもらった。新たにベルくんの兄弟のような猫を迎えたいと思い、猫を探した。7月3日、譲渡会に行くとたくさんの猫がいたが、ベルくんがオスだったので片桐さんはメス猫を迎えようと思っていた。しかし、ふと気がつくと真っ直ぐ静かに夫妻を見つめてくる猫がいて、その子がテンちゃんだった。夫妻は一目惚れ、テンちゃんを迎えることにして、そのままトライアルが始まった。生後2カ月くらいだった。

■迎えた子には腎臓障害があった

テンちゃんは、家に着くとあちらこちらの部屋を探検した。ベルくんともすぐに仲良くなったので安心したが、なんとなく気がかりな子だったという。

「水は飲んだのですが、ごはんを食べませんでした。ただ、まだうちに来たばかりで、そのようなこともあるだろうと様子を見たのです。預かりボランティアさんのところで一緒にいた子猫からコクシジウムという寄生虫が見つかったので、検査してもらったらテンのお腹にもいて、最初はそのせいだろうと言われました」

セカンドオピニオンも立てたが、やはりコクシジウムのせいだと言われ、それでも一向に調子が良くならないので、2週間後の7月15日、再びかかりつけで血液検査などをしてもらった。

すると、テンちゃんには子猫には珍しい先天性か遺伝性の腎臓障害があることが分かった。ショックのあまり片桐さんは、その時獣医師が何と言ったのか覚えていない。診察には保護団体のボランティアが付き添ってくれたので、帰宅した夫への説明もボランティアがしてくれた。子猫の腎臓疾患の治療法はなく、弱っていくのを見守るしかなかった。

■最期まで家族だよ

もう正式譲渡は済んでいたが、先天性か遺伝性であることから、ボランティアは保護団体が引き取ることも提案してくれた。

「夫婦で話し合って、私たちが一緒にいると決めたのですが、正直迷いました。猫に慣れた人に託す方がいいのではないかと思ったのです。弱っていく姿を見るのは辛く、看取る覚悟もできていませんでした。でも、一度家族として迎えたテンを見放すこともできず、夫に背中を押されて、最期まで家族でいようと決断しました」

■テンは大事な家族

獣医師は、テンちゃんが好きなようにしてあげて、好きなものを食べさせてあげたらいいと言われた。そのため、診断が出た翌日から、無理な強制給餌もやめた。

普通なら当たり前のことだが、テンちゃんが自力で水を飲み、ごはんを食べ、トイレに行ける、歩ける、ぐっすり眠れる。その姿を見ると片桐さんは嬉しくて、愛おしさが込み上げた。

「『自分の命よりも大切』という言葉をよく聞きますが、本当にその通りで、テンが助かるならなんでも差し出すつもりでした」

パパっ子で、パパの肩に乗るのが大好きなテンちゃん。片桐さん夫妻の願いもかなわず、だんだん食べられる量が減っていき、寝ている時間が増え、目の力がなくなっていった。それでも最後の最後まで自力でトイレに行き、手のかからない子だったという。

片桐さんはパートも休んでテンちゃんのそばにいた。人生で一番辛い時期だった。7月27日、片桐さんに見守られて、テンちゃんは3カ月の生を終えた。

「1kgにも満たない小さな身体で懸命に頑張ってくれました。決して辛かっただけの思い出にしたくありません。我が家にいたのはたった1カ月ですが、テンは我が家に来たいと思ってくれたのだと信じています。あんなに頑張ったテンに恥じないように生きていきたいと思います」

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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